田代平湿原
田代平湿原
田代平湿原は、青森県青森市田代に位置する広大な高層湿原です。八甲田山の北東、十和田八幡平国立公園の北端に位置し、その豊かな自然環境から青森市の天然記念物に指定されています。
概要
約200万年前の八甲田山の火山活動によって形成されたカルデラ湖が、長い年月をかけて湿性遷移し、現在の湿原となりました。八甲田山系には多くの湿原がありますが、田代平湿原はその中でも最大の面積を誇ります。
特徴的なのは、冷涼な気候のために植物が枯死後も完全に分解されず、有機物の状態で堆積する泥炭層が形成されている点です。また、比較的標高が低いため、八甲田山の他の湿原とは異なる植生が見られることも魅力の一つです。例えば、沼に生育するスイレンは、他の沼地で見られるヒツジグサとは異なり、開拓民が持ち込んだ温帯性のスイレンが定着したものです。このスイレンは、毎年7月頃に美しい花を咲かせます。
四季折々の自然
田代平湿原は、四季折々に様々な表情を見せてくれます。6月中旬には、ワタスゲの穂が一面に広がり、まるで海のようになる景色は圧巻です。同じ頃には、レンゲツツジやヒメシャクナゲ、ツルコケモモ、トキソウなどもひっそりと咲き誇ります。特にレンゲツツジは湿原の南側に多く見られます。
6月下旬にはニッコウキスゲ、7月にはキンコウカ、カキラン、モウセンゴケ、ムラサキミミカキグサ、タヌキモ、タチギボウシ、ネジバナ、ヨツバヒヨドリ、ホソバノシナバ、ネバリノギランなど、多種多様な植物が観察できます。8月下旬になると、ウメバチソウ、サワギキョウ、ナガボノシロワレモコウ、タチアザミなどが咲き始め、湿原には秋の気配が漂い始めます。
散策路
八甲田温泉から湿原へ入ることができ、湿原の端には青い鳥居が立つ龍神沼があります。湿原内には木道が整備されており、一周およそ1時間程度のハイキングコースが楽しめます。かつては田代平少年自然の家からのルートもありましたが、現在は廃道となっていますのでご注意ください。
雪中行軍遭難事件
田代平湿原は、悲しい歴史の舞台でもあります。1902年1月、青森第5連隊の将兵らが雪中行軍中に猛吹雪に遭い、210名中199名が凍死するという大惨事が起きました。この悲劇を悼み、1906年7月には雪中行軍避難者銅像が建設されました。この像は、遭難時の服装をした兵士の立像で、救援の目印となるため吹雪の中に立ち尽くした伍長をモデルにしたと伝えられています。
田代平湿原は、美しい自然景観と悲しい歴史が交錯する場所です。訪れる人々は、その両方に触れ、自然の雄大さと歴史の重みを心に刻むことでしょう。
参考文献
関連項目
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