畠山義春

畠山義春（はたけやま よしはる）

安土桃山時代から江戸時代前期にかけての武将、そして江戸幕府の旗本を務めた人物です。能登畠山氏の後裔にあたるとされています。

上杉家臣時代

天正5年（1577年）、上杉謙信（当時は輝虎）によって七尾城が攻略された後、義春は一旦、謙信の一門である上条政繁の許に預けられました。その後、謙信の養子という立場を経て、子のいなかった上条政繁の正式な養子となりました。畠山氏は足利氏の一門であり、名門として知られ、さらに足利氏と血縁関係にある上杉家との間にも繋がりがあったことから、家格も十分にありました。

成人してからは、越中国や能登国の前線に配置され、後に養父の政繁に従って信濃国の海津城へ移りました。天正12年（1584年）、長男の景広を豊臣家へ人質として送ることが決定すると、その証人として義春自身も上洛しています。この人質提供の代償として、上杉家から軍役や領内の諸役を免除されたと伝えられています。

天正14年（1586年）に養父・政繁が上杉家を出奔しました。義春自身も、それから二年後の天正16年（1588年）頃に出奔したとされています。この行動に対し、上杉景勝が激怒し、義春の夫人（景勝の実妹または姉とされる）と子供たち全員を捕らえ、10年近くにわたり座敷牢に幽閉したという説も存在します。しかしながら、『上杉家御年譜』には異なる記述があり、長男の景広と次男の上杉長員は父である義春と行動を共にし、三男の義真のみ越後国に留まったものの、ほどなく父の元へ赴いたと記されています。

義春が出奔した理由については諸説あります。景勝との間で信濃国の統治方針などを巡る対立があったとする説や、当時景勝の側近として台頭していた直江兼続による讒言があったとする説、さらには養父である政繁が、当時上杉氏に反旗を翻していた新発田重家と親しい関係にあったことなどが理由として挙げられています。

豊臣家臣時代

上杉家を出奔した後、義春は豊臣秀吉の直臣となりました。天正15年（1587年）には河内国高安郡内に500石の所領を与えられます。天正18年（1590年）には摂津国豊嶋郡において300石を加増されました。文禄・慶長の役の際には、肥前国の名護屋城に滞在しました。その翌年には河内国交野郡において700石を加増され、父（上条政繁）の遺領と合わせて合計1500石を知行するに至ります。

江戸幕府旗本

慶長5年（1600年）の関ヶ原の戦いでは、東軍に味方しました。対上杉勢力の守備隊に属していたと考えられています。義春自身に対する新たな加増はなく、所領は1500石のままでしたが、次男の上杉長員は翌慶長6年（1601年）に1490石を与えられています。

その後、大坂城にて豊臣秀頼に仕えましたが、慶長19年（1614年）の大坂冬の陣の際に、徳川方への内通を疑われ城を退去することになった片桐且元に同行して大坂城を出ました。そして翌慶長20年（1615年）の大坂夏の陣では、徳川方に属して参戦しています。戦後、江戸幕府に仕えることとなり、徳川家康の命によって再び畠山姓を名乗ることになり、江戸に住居を構えました。後に、以前出奔した上杉家とも和解を果たしたと伝えられています。

寛永20年（1643年）、京にて死去しました。

なお、義春の死の直前、大徳寺の僧である藍渓宗瑛によって記された「畠山氏入道寿影賛 寛永廿癸未」（『綱宗禅師語録』に所収）という史料には、「能州太守畠山氏後裔源義明(中略）齢九十五」との記述が見られます。この記述によれば、少なくとも最晩年における義春の実名は「義明」が正しく、享年も95歳であった可能性が示唆されており、没する直前に自身の寿像を描かせたことになります。

子息

義春には複数の子がいました。

長男：景広
畠山氏を名乗ったとされ、和解した上杉家の米沢藩において重臣となったという説があります。一方で、病弱で晩年は京で義春と共に暮らしていたという話も伝わっています。景広の子である政利は、米沢藩士として500石を与えられ、藩主家親族に準じる「一門」という厚遇を受けています。
次男：長員
上条上杉家の名跡を継承しました。子の代から高家旗本となっています。その禄高は1490石であり、同じく旗本となった宅間上杉家や深谷上杉家といった上杉系旗本の中でも高禄でした。
三男：義真
能登畠山氏を称し、江戸幕府の幕臣となり、3120石という大身旗本となりました。こちらも子の代から高家となっています。米沢藩三代目藩主の上杉綱勝が家督を相続した際はわずか8歳だったため、義真は綱勝が江戸城へ登城する際に必ず付き添うなど、後見人としての役割を果たしました。
四男：義広
小山田義広と名乗ったとされ、紀州藩主である徳川頼宣の家臣となったと伝えられています。

異説

義春が、能登畠山氏当主であった畠山義隆の子である春王丸と同一人物であるとする説が存在します。しかし、これは義隆の弟にあたる畠山義綱の弟である義春と、春王丸の名前が混同されている可能性があることに留意すべきです。

もう一度検索