白井賢胤

白井賢胤：戦国時代の安芸国を駆け抜けた武将

白井賢胤は、安芸国の国人領主、白井氏の当主として、戦国時代の波乱に満ちた生涯を送りました。彼は、強大な勢力であった大内氏に仕え、後に毛利氏に降伏するという、時代の流れに翻弄されながらも生き抜いた人物です。

白井氏と賢胤の出自

白井氏は、千葉氏の一族であり、「胤」の字を通字としていました。安芸白井氏は、安芸郡天竜山の府中城を本拠地とし、代々、守護職である安芸武田家の警護衆を務めていました。しかし、大内氏との度重なる戦闘の末、賢胤の祖父にあたる白井膳胤の代に大内方に寝返りました。

父である白井房胤は、大寧寺の変において陶隆房（後の晴賢）による大内義隆殺害に深く関与した人物でした。義隆被官であった吉見正頼がこの政変に反旗を翻すと、その討伐に赴きました。賢胤の名前にある「賢」の字は、陶晴賢から偏諱を賜ったものと考えられています。

大内氏家臣としての活動

備後国旗返城の領有問題をきっかけに陶氏と毛利氏の関係が悪化すると、賢胤は陶氏に従い毛利氏と対峙します。1554年には、府中城と対をなす仁保島城が毛利軍によって攻撃され、賢胤は府中出張城に撤退しました。同年6月には折敷畑合戦で陶家臣の宮川房長が毛利元就の奇襲により討ち死にするという大敗を喫します。

同年10月、賢胤は大内水軍の総司令官である「警護奉行人」に任命され、広島湾岸各地を襲撃しました。1555年3月には、保木と連携して仁保島城の奪回を目指しますが、香川光景に撃退され、海田の海戦でも毛利方水軍の阿曽沼広秀に敗れました。しかし、野間隆実の拠点の保木に対する調略は成功し、川内警護衆の有力な将を含む400余騎の加勢を得ることに成功しました。

毛利軍の攻撃により矢野城に追い詰められた野間隆実に対し、熊谷信直の処遇を巡る交渉が行われました。元就の意向を受けた信直が戦後処理の全責任を負うことになり、加勢勢力や調略を受けた者は処刑され、隆実も殺害されました。ほぼ同時期に賢胤も府中出張城から逃亡し、周防国の宇賀島に身を寄せました。その後、宮島に築城された宮尾城の攻撃に主力として参加しましたが、攻略はなりませんでした。

厳島の戦いと毛利氏への臣従

毛利氏の勝利に危機感を抱いた陶晴賢は、大内軍を率いて宮島に上陸し、厳島の戦いが勃発しました。しかし、毛利元就の奇襲により大内軍は壊滅し、陶晴賢も自害しました。この戦いの後も、賢胤は大内氏に仕え続けましたが、防長経略の結果、1557年に大内義長が自害すると、毛利氏に臣従しました。小早川隆景の配下となり、乃美宗勝らと共に毛利水軍の一員として活動しました。

晩年と死没

この頃から、賢胤は縫殿助と名乗るようになったと考えられています。没年については、1575年の石山合戦での戦死という説がある一方で、1587年に嫡子である晴胤が豊臣秀吉の九州征伐の際に戦病死したことを伝える小早川隆景からの書状が賢胤宛に送られているという説もあります。

白井房胤との関係性

白井房胤と賢胤は同一人物であるという説も存在します。この場合、賢胤は初め陶隆房から「房」の字を受け房胤と名乗り、後に隆房が晴賢と改名した際に重ねて偏諱を与えられ賢胤と名乗ったことになります。しかし、多くの系図では父子関係にあるとされています。また、賢胤の嫡男である晴胤も陶晴賢から「晴」の字を賜ったものと考えられています。

賢胤の孫である景胤は、小早川隆景より「景」の字を受けています。

白井賢胤は、戦国時代の激しい動乱の中で、その生涯を終えました。彼が仕えた大内氏と毛利氏は、中国地方の覇権を争い、その中で賢胤は自らの立場を守りながら、一族の存続のために奔走しました。彼の足跡は、戦国時代の地方領主の生き様を今に伝える貴重な歴史の証人と言えるでしょう。

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