白取千夏雄

白取千夏雄：漫画編集者としての生涯

白取千夏雄（しらとり ちかお、1965年7月17日 - 2017年3月17日）は、日本の漫画編集者であり、伝説的な漫画雑誌『ガロ』の元副編集長として知られています。彼の人生は、日本の漫画史、特にアンダーグラウンドなサブカルチャーシーンに深く関わっており、その足跡は多くの人々に影響を与えています。

『ガロ』との出会い

北海道函館市で生まれた白取は、1984年に上京し、国際アニメーション研究所に入学します。そこで『月刊漫画ガロ』の初代編集長であった長井勝一と出会い、彼の経営する青林堂にアルバイトとして入社することになります。これが、白取と漫画の世界との深い関わりの始まりでした。

1985年、白取は青林堂の正社員となり、編集者としてのキャリアをスタートさせます。彼は『ガロ』で男性作家を中心に担当し、特に根本敬との仕事は、彼の編集者としての個性を際立たせるものでした。ゴキブリの死体を貼り付けた原稿を印刷所に持ち込み、怒られたというエピソードは、当時の『ガロ』の特異な雰囲気を物語っています。また、持ち込み原稿にも積極的に目を通し、血で描かれた原稿に強烈な印象を受けたという逸話も残っています。

『ガロ』の革新と分裂

白取は、漫画家志望であったこともあり、図案文字やレタリングも手掛けるなど、手先の器用さを活かしていました。1990年代初頭には『ガロ』のDTP化を推進し、新人作家の発掘にも尽力しました。ねこぢる、古屋兎丸、福満しげゆきといった、後に人気となる作家たちを発掘した功績は大きく、彼の才能が窺えます。

1997年、白取は青林堂を退職し、親会社のツァイトに移籍。山中潤社長体制下で『ガロ』副編集長と『デジタルガロ』編集長を兼任し、雑誌のデジタル化を積極的に進めました。しかし、このデジタル化路線は編集部内の反発を招き、手塚能理子ら編集部員の退社、青林堂の分裂と『ガロ』の休刊につながる大きな騒動を引き起こします。この出来事は、白取にとって大きな転機となり、彼のキャリアに深い影を落としました。

『ガロ』休刊後の活動

青林堂の分裂後、白取は残務処理に当たり、福井源社長時代の『ガロ』復刊にも関与しました。しかし、ツァイトの倒産後はフリーの編集者として活動することになります。その後、大和堂の蟹江幹彦が青林堂の経営を引き継ぎ、『ガロ』が復刊しますが、白取は自身が創設した読者投稿コーナー「4コマガロ」の担当を一方的に降板させられるなど、不遇な扱いを受けます。結局、『ガロ』は2年で再び休刊となり、白取は青林堂から完全に撤退することになりました。

病との闘いと晩年

2005年、白取は白血病の宣告を受け、2007年には妻である漫画家のやまだ紫と共に京都に移住します。京都精華大学で非常勤講師を務める傍ら、日本ジャーナリスト専門学校の講師にも就任しますが、病状悪化のため休職を余儀なくされます。2009年には、最愛の妻であるやまだ紫が他界するという悲劇に見舞われます。

2015年には、メルケル細胞癌を併発し、手術や放射線治療、化学療法を受けますが、癌は転移。2017年3月17日、白取は静かに息を引き取りました。

遺されたもの

白取の死後、彼の半生を綴った自伝『全身編集者』が刊行され、後に『『ガロに人生を捧げた男』-全身編集者の告白-』と改題され、商業出版されました。この自伝は、彼の編集者としてのキャリアだけでなく、病との闘いや家族との絆、そして漫画への情熱が描かれており、多くの読者に感動を与えました。

白取千夏雄は、『ガロ』という伝説的な雑誌と共に、その生涯を漫画に捧げました。彼の編集者としての才能、革新的な試み、そして人間としての魅力は、多くの人々の記憶に残り続けるでしょう。

白取千夏雄を語る上で欠かせないエピソード

長井勝一に薫陶を受けた最後の弟子であると自称。
青林工藝舎を率いる手塚能理子とは確執があった。
古屋兎丸が『ガロ』に連載していた4コマ漫画『パレポリ』に登場。
元青林堂社長の山中潤とは、2014年に20年ぶりに和解。
劇画狼が編集者としての弟子。
『キッチュ』創刊号のインタビューが生前最後の仕事。
漫画家としては「白取ちかお」名義で作品を発表。

主な著書

『全身編集者』（おおかみ書房/2019年5月20日発売）
* 『『ガロに人生を捧げた男』-全身編集者の告白-』（興陽館/2020年3月15日初版発行）

これらの著作は、白取の視点から描かれた非メジャー漫画史であり、自伝的な内容を含んでいます。彼の足跡を辿る上で、重要な資料となっています。

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