盤谷丸 (特設巡洋艦)

盤谷丸

盤谷丸（ばんこくまる）は、大阪商船が所有・運航していた貨客船です。平時にはサイゴン（現在のホーチミン）とバンコクを結ぶ航路で活躍しましたが、太平洋戦争中に日本海軍に徴用され、特設巡洋艦として運用されました。しかし、その実態は敷設艦や輸送船としての任務がほとんどでした。

概要

大阪商船は、1926年（大正15年）にサイゴン・バンコク航路を開設し、1935年（昭和10年）には月5航海の定期航路として確立していました。1937年（昭和12年）には、新鋭船によるサイゴン・バンコク急行航路を開設することになり、そのために建造されたのが「盤谷丸」と「西貢丸」です。

「盤谷丸」は、三菱神戸造船所が初めて建造した遠洋航路向けの貨客船で、1936年（昭和11年）11月11日に起工、1937年（昭和12年）3月30日に進水、同年9月20日に竣工しました。建造には、船舶改善助成施設が適用され、老朽化した2隻の船舶が解体されましたが、国際情勢の悪化により、これらの船は解体期限が延長された後に戦没しています。

バンコクへの入港には、水深の浅いチャオプラヤー川を航行する必要があり、満載状態で航行することも考慮し、「盤谷丸」と「西貢丸」は浅喫水設計が採用されました。船室は平甲板型で、和辻春樹の設計と中村順平のデザインによる内装は、タイの風景や大仏をモチーフにしたエッチング装飾が施され、大型の窓が設けられるなど、採光にも配慮されていました。また、2基のディーゼルエンジンとフルカンギアにより、推進効率を高めていました。

竣工からわずか9日後の9月29日、「盤谷丸」は処女航海に出発し、「西貢丸」とともに40日1航海の定期航海を行いました。しかし、日中戦争の勃発により、民間船の徴用や船繰りの都合から、サイゴン・バンコク急行航路は開航後わずか1年で休止となり、従来のサイゴン・バンコク航路に転用されました。1939年（昭和14年）4月には台湾の高雄への寄港が義務付けられ、一時的に「西貢丸」が大連航路に転用されたこともありましたが、「盤谷丸」は1941年（昭和16年）6月までサイゴン・バンコク航路に就航し続けました。

特設巡洋艦としての戦歴

1941年（昭和16年）8月15日、「盤谷丸」は日本海軍に徴用され、呉鎮守府籍となりました。同年9月20日には特設巡洋艦として正式に登録され、宇品造船所で特設巡洋艦としての艤装工事を受けました。「盤谷丸」は、「西貢丸」や「金城山丸」とともに呉警備戦隊に配属され、豊後水道での機雷敷設や広島湾での防潜網敷設に従事しました。

その後も呉防備戦隊の主力として、対潜哨戒、防備作業、母艦任務、通信連絡業務などに従事しました。1942年（昭和17年）4月18日のドーリットル空襲後には、串本に移動し、空襲への関与が疑われたソ連輸送船の臨検を行いました。同年10月には、横須賀鎮守府の指揮下に入り、久慈湾、宮古湾、金華山沖などで対潜機雷堰の構築作業を行いました。

1942年12月には、ソロモン諸島方面への陸戦隊輸送任務に加わり、横須賀第七特別陸戦隊をトラック諸島経由でラバウルへ輸送しました。その後、佐世保第七特別陸戦隊を乗せてラバウルへの輸送を予定していましたが、目的地がタラワに変更されました。無事に輸送任務を終え、佐伯に帰投しました。

陸軍部隊輸送と沈没

1943年（昭和18年）4月、「盤谷丸」は陸軍南海第一守備隊のクェゼリン環礁（タラワ）への輸送任務に起用されました。同年5月1日、南海第一守備隊は宇品で乗船し、佐伯を出撃、5月12日にトラックに到着しました。トラックで特務艦「間宮」と別れた後、5月16日にトラックを出撃しました。

この「盤谷丸」の動きは、アメリカ太平洋艦隊戦闘情報班によって監視されており、無線班が「盤谷丸」がイギリス軍の8インチ砲を搭載しているという誤った情報を入手していました。この情報に基づき、アメリカ潜水艦「ポラック」に対して、「盤谷丸」を迎え撃つよう指令が出されました。

5月20日午後、「盤谷丸」はジャルート環礁ジャンボール水道付近を航行中、「ポラック」から魚雷攻撃を受けました。3本の魚雷が命中し、「盤谷丸」は爆発炎上し、轟沈しました。沈没までの時間は約5分という短いものでした。

この攻撃で、乗員と陸軍南海第一守備隊隊員合わせて496名が戦死し、474名が救助されました。救助された将兵はジャルート環礁に上陸し、現地の警備隊に編入されました。「盤谷丸」の沈没は、太平洋戦争における悲劇の一つとして、多くの犠牲者を出した痛ましい出来事として記録されています。

艦長

津田威彦 大佐：1941年9月20日 - 1942年10月5日
稲上信壮 大佐：1942年10月5日 -

脚注

注釈

出典

参考文献

(issuu) SS-232, USS HALIBUT. Historic Naval Ships Association. https://issuu.com/hnsa/docs/ss-232_halibut
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関連項目

大日本帝国海軍艦艇一覧
* ジャルート環礁

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