社長三代記

東宝が製作・配給を手がけた映画『社長三代記』（しゃちょうさんだいき）は、1958年1月3日に劇場公開された。サラリーマン社会を舞台にした人気シリーズ『社長シリーズ』の通算4作目にあたる作品である。仕様はモノクロ、東宝スコープ方式が採用され、上映時間は86分となっている。

本作は、シリーズの歴史においていくつかの重要な転換点を含んでいる。まず、技術的な面では、『社長シリーズ』として初めてシネマスコープ方式が導入された点が挙げられる。これにより、ワイドスクリーンでの迫力ある映像表現が可能となった。また、スタッフ面では、後にこのシリーズの主要な監督として多くの作品を手がけることになる松林宗恵が、本作で初めて監督として参加した。さらに、キャスト面においても、個性派俳優として知られる加東大介がこの作品からレギュラーメンバーとして加わり、以降のシリーズに欠かせない存在となった。

公開時のキャッチコピーは「人が変われど三等社長は、よろめくものと見つけたり」という、シリーズ特有のユーモラスな視点を打ち出したものであった。

物語は、架空の企業「福富電機」を舞台に展開する。東京フィルムビルが会社の外観として、旧東宝本社ビル屋上が屋上シーンのロケ地として使用されるなど、当時の東京の風景も随所に織り交ぜられている。この会社を舞台に、社長とその家族、そして周囲を取り巻く個性的な社員たちの日常や人間関係、仕事や家庭での様々な出来事がコミカルかつ時にシリアスに描かれる。

キャスト陣は、当時の東宝映画を彩る豪華な顔ぶれが揃っている。森繁久彌が二代目社長の浅川啓太郎を演じ、その妻を久慈あさみが務めた。本作で新たに三代目社長となる大場太平役を加東大介が演じ、その妻を杉葉子、娘を団令子が演じた。また、社長秘書の長谷川清役に小林桂樹、会長である福原ヨネ役に三好栄子、末娘に雪村いづみといった主要メンバーに加え、三木のり平、有島一郎、司葉子といった実力派俳優たちが脇を固めている。

主なキャストは以下の通り。

浅川啓太郎（二代目社長）：森繁久彌
浅川厚子（啓太郎の妻）：久慈あさみ
長谷川清（社長秘書）：小林桂樹
福原ヨネ（富之助の妻、会長）：三好栄子
福原トメ子（末娘）：雪村いづみ
大場太平（三代目社長）：加東大介
大場まつ子（太平の妻）：杉葉子
大場春枝（長女）：団令子
長谷川ちよ（清の母）：英百合子
中村明子（秘書課員）：司葉子
松村俊夫（新入社員）：太刀川洋一
池田定吉（経理部長）：三木のり平
奥村（姉妹会社専務）：有島一郎
エミ（バーのマダム）：中田康子
梅千代（新橋の芸者）：扇千景
うさぎ（半玉）：笹るみ子
通訳：トニー谷
ミスター・ブラウン : ハロルド・コンウェイ

主なスタッフは以下の通りである。

監督：松林宗恵
製作：藤本真澄
脚本：笠原良三
音楽：宅孝二
撮影：小原譲治
美術：村木与四郎
録音：西川善男
照明：西川鶴三
編集：大井幸三
監督助手：岡本喜八

また、劇中には、シリーズの源流ともいえる1952年の映画『三等重役』の一場面が、8ミリ映写機で上映される形で登場する。これは、かつての先代社長（河村黎吉）の姿を回想するシーンとして効果的に用いられている。

本作は、公開時に稲垣浩監督、鶴田浩二主演の時代劇映画『柳生武芸帳 双龍秘剣』と二本立てで上映された。

『社長三代記』は、シリーズのフォーマット確立期における重要な作品であり、新たな要素を取り入れつつ、企業という組織の中で展開される人間模様や、経営者の苦悩と滑稽さをユーモアたっぷりに描き出している。当時の社会情勢やサラリーマンの日常を反映した描写も多く含まれており、時代を映し出す資料としても興味深い一面を持っている。

もう一度検索