祐天

祐天：念仏の力で怨霊を鎮めた伝説の僧侶

祐天（ゆうてん）は、江戸時代に活躍した浄土宗の僧侶で、増上寺の第36世法主を務めました。その生涯は、単なる僧侶の枠を超え、呪術師としての側面も持ち合わせていました。特に、怨霊を鎮めたという数々の伝説は、当時から人々の間で語り継がれ、現代においても多くの物語や創作の源泉となっています。

生涯

1637年、陸奥国（現在の福島県いわき市）に生まれた祐天は、12歳で増上寺の檀通上人に弟子入りしました。しかし、経文を覚えることができず破門されてしまいます。失意の中、成田山新勝寺に参篭した祐天は、不動尊から剣を喉に刺し込まれる夢を見て、智慧を授かったと伝えられています。この出来事をきっかけに、祐天は卓越した力を発揮し始めました。

その後、祐天は5代将軍徳川綱吉やその生母桂昌院、徳川家宣の帰依を受け、幕府の命により下総国の大巌寺や弘経寺、江戸の伝通院といった名刹の住持を歴任しました。1711年には、ついに増上寺の法主に就任し、大僧正に任じられるという栄誉に浴します。晩年は、麻布に草庵を結んで隠居し、1718年に82歳でその生涯を閉じました。死後、祐天は目黒の善久院（後の祐天寺）に埋葬されました。

怨霊を鎮めた伝説

祐天の伝説の中で最も有名なのは、怨霊を鎮めたとされる逸話です。特に、密教僧ではなかったにもかかわらず、念仏の力で強力な怨霊を鎮め、成仏させたという伝説は、多くの人々の心を惹きつけました。その除霊譚は、生前に書かれた『死霊解脱物語聞書』などの出版物によって広まり、説教節や『祐天大僧正御伝記』といった伝記を通して、地蔵菩薩の化身として語り継がれてきました。この様な伝説は、民衆の間で広く信仰され、今日まで語り継がれています。

鎌倉大仏の復興

祐天は、荒廃していた鎌倉大仏の復興にも尽力しました。明応7年（1498年）の大地震で損壊し、露座となっていた大仏を、浅草の商人、野島新左衛門（泰祐）の喜捨を得て、養国と共に復興事業に着手しました。大仏の鋳掛修復を行い、念仏専修の寺院「清浄泉寺高徳院」として再興。当時、浄土宗関東十八檀林の筆頭であった光明寺の「奥之院」と位置づけました。

累ヶ淵の説話

祐天の奇譚として最も有名なのが、下総国飯沼の弘経寺にいた頃の出来事である、累ヶ淵の説話です。この話は、羽生村の女性、累の怨霊を成仏させたというもので、『死霊解脱物語聞書』に記されています。この説話は、後の創作に大きな影響を与え、曲亭馬琴の読本『新累解脱物語』や、三遊亭円朝の怪談『真景累ヶ淵』など、数々の作品が生まれました。

祐天が登場する作品

祐天を主人公とした作品も多く、朝松健の『元禄霊異伝』、『元禄百足盗』、『妖臣蔵』は、祐天を主人公とした伝奇時代小説の三部作として知られています。

まとめ

祐天は、僧侶としての活動に加え、呪術師としての側面も持ち合わせていた稀有な人物でした。その生涯は、多くの伝説と物語に彩られ、後世の人々に大きな影響を与えました。怨霊を鎮めたという逸話は、人々の心の拠り所となり、今日まで語り継がれています。また、鎌倉大仏の復興にも尽力するなど、その功績は多岐にわたります。祐天は、単なる歴史上の人物としてだけでなく、人々の信仰と創造性の源泉として、今もなお生き続けています。

参考文献

根岸鎮衛　『耳嚢』全3冊　長谷川強校注、岩波書店〈岩波文庫〉、1991年。
祐海　『祐天大僧正利益記』上中下全3冊、文化5年（1808年）。
* 祐天寺研究室・伊藤 丈〔主編〕　『祐天寺史資料集』全五巻、大東出版社、2002-2010年。

もう一度検索