立花鑑備

立花鑑備：兄の影を生きた藩主

立花鑑備（たちばな あきのぶ）は、江戸時代後期、筑後国柳河藩の第11代藩主（公式には10代）です。しかし、その藩主としての道のりは、兄である第10代藩主・立花鑑広（あきひろ）の夭折という悲劇から始まりました。

兄の死と替え玉

鑑備は、第9代藩主・立花鑑賢（あきたか）の次男として生まれました。兄・鑑広は若くして亡くなり、しかも将軍への初御目見も済んでいない状況でした。当時の幕府の制度では、17歳未満では末期養子が認められない可能性が高く、藩は存続の危機に瀕していました。

そこで藩は、鑑備を兄・鑑広の「替え玉」として擁立することを決断します。文政13年（1830年）に家督を相続していた兄が亡くなった天保4年（1833年）7月11日の夜、鑑備は極秘裏に江戸藩邸に入れられ、鑑広として家督を継承したのです。

偽りの藩主として

藩は幕府に対し、「鑑広は病気から無事全快した」と報告し、鑑備は公式には兄と同一人物として扱われました。幼名を万寿丸、諱を鑑広と称し、天保6年（1835年）には鑑広として将軍に初御目見を果たし、従五位下・左近将監に叙任されます。その後、鑑備と諱を改めましたが、江戸武鑑における家督相続年は、鑑広のものがそのまま用いられました。

苦悩と孤独

鑑備は、兄の婚約者であった兎見（とみ、山内豊策の娘）との婚約も引き継ぎましたが、兎見は夭折してしまいます。その後、天保11年（1840年）に広島藩主・浅野斉賢（なりかた）の娘である加代子（かよこ）と婚姻しますが、天保13年（1842年）に離縁しています。

その後、鑑備は国元である柳河に下向しますが、病に倒れ、江戸に戻ることができませんでした。藩の公式行事にも参加できないまま、柳川城の別邸「御花畠」で静かに過ごし、弘化3年3月24日（1846年4月19日）に20歳という若さでこの世を去りました。

死後

鑑備の死後、家督は養嗣子である立花鑑寛（あきひろ）が継承しました。鑑寛は、第8代藩主・立花鑑寿（あきひさ）の孫であり、鑑広の養弟から一門の監物家立花主税の養子になっていた人物でした。

明治35年（1902年）に至るまで、鑑備が鑑広とは別人であるという事実は極秘とされていました。それは、藩の存続を守るための苦渋の決断であり、鑑備自身もまた、その重責を背負いながら短い生涯を終えたのです。

立花鑑備は、兄の影武者として生きた悲劇の藩主として、その名を知られています。

参考文献

「三百藩藩主人名事典4」（1986年・新人物往来社）
「旧柳川藩志・上巻」（柳川・山門・三池教育会編）
* 「柳川市史別冊・図説立花家記」（柳川市史編集委員会、2010年）

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