竹中氏陣屋

竹中氏陣屋（たけなかしじんや）

岐阜県不破郡垂井町岩手に位置した、江戸時代の陣屋です。安土桃山時代には岩手城と呼ばれていましたが、江戸時代に入り竹中氏が旗本の身分に留まったため、居館は城郭ではなく陣屋と呼ばれるようになりました。竹中陣屋や岩手陣屋とも称されます。

この陣屋は、豊臣秀吉の優れた軍師として知られる竹中重治の子、竹中重門によって築かれたものです。周囲には大規模な水堀や石垣が巡らされており、その構造は陣屋というよりも、むしろ小型の城郭と呼ぶ方が適切と言えるほどの堅固さを備えていました。

元々、竹中氏の主要な居城は、峻険な山上に築かれた菩提山城（岩手山城）でしたが、日常生活には不便であったため、その麓に岩手城（後の陣屋）が築かれたと伝えられています。

現在、竹中氏陣屋の跡地は、岩手小学校の敷地や周辺の民有地となっています。しかし、往時を偲ばせる白壁造りの櫓門や、水堀、石垣の一部が今も残されています。また、陣屋跡の入り口付近には、竹中重治の像が建てられています。櫓門の北側には、やや見えにくい場所ながらも、道沿いの家々の裏手などを通って西側へと続く土塁の跡も現存しています。

この跡地は、1956年（昭和31年）に岐阜県の指定史跡となりました。公共交通機関を利用する場合、JR垂井駅から約5kmの距離にあり、垂井町巡回バスの「岩手公民館前」バス停で下車して徒歩約2分です。

竹中氏について

竹中氏は、平良文を祖とする鎌倉氏の流れを汲む一族とされています。鎌倉景正の孫である長江義景に始まる長江氏の支族、岩手氏に由来するという説が一般的ですが、他方で、清和源氏為義流や土岐氏の流れを汲む岩手氏を祖とする異説も伝えられています。また、大友氏の小庶子家に属する竹中氏（戸次氏の庶家）が、大友家の代官として豊後から各地へ広がった系統であり、美濃の竹中氏もその末裔の一つであるとする伝承も存在します。

竹中氏には、大きく分けて重元流（宗家）と重光流の二つの主要な流れがありました。

重元流竹中氏（宗家）

竹中氏の宗家である重元流は、戦国末期から江戸時代、そして幕末維新へと続く激動の時代を経験しました。竹中重門は、1588年（天正16年）頃に菩提山城の麓に岩手城を築きました（築城時期については文禄から慶長年間とする説もあります）。

1600年（慶長5年）の関ヶ原の戦いでは、重門は当初、西軍の石川貞清に協力して犬山城に籠城するなど、西軍に味方しましたが、井伊直政の仲介を受けて東軍に転じ、黒田長政の軍勢に加わって戦場に臨みました。竹中氏の領地も戦場となったことから、戦後、徳川家康より米1,000石を下賜され、それまでの所領であった不破郡岩手6,000石も安堵されました。これにより竹中氏は旗本として徳川将軍家に仕えることとなり、岩手城はこれ以降、岩手陣屋と呼ばれるようになりました。竹中氏宗家は、交代寄合として幕末まで家系を存続させました。

幕末期の当主である竹中重固は、江戸幕府において陸軍奉行などの要職を務め、武家官位も与えられていましたが、1868年（明治元年）の鳥羽・伏見の戦いで旧幕府軍の指揮官として新政府軍と交戦したため、将軍徳川慶喜と共に朝敵とされ、その官位を剥奪されました。居城であった岩手陣屋も没収されます。重固は、将軍慶喜が謹慎した後も戊辰戦争を戦い続け、箱館戦争まで転戦しました。この一連の抗戦の結果、竹中氏は改易され、その6,000石の所領は全て没収されることになりました。

捕縛された重固は、1869年（明治2年）8月15日に死罪一等を減じられ、福岡藩主黒田長知への永預という処分が下されました。しかし、前当主であった竹中重明に新たに300石が与えられることとなり、竹中家の家名は断絶を免れました。重固はその後、父重明への預かりという形を経て、翌年には正式に罪を許されました。一度は重明の帰農に伴い平民となった竹中家ですが、1881年（明治14年）には士族への復帰が認められました。

1884年（明治17年）に施行された華族令の草案段階では、旧交代寄合も男爵の授爵対象に含まれており、竹中家も男爵候補に挙げられていました。しかし、最終的に定められた規定では交代寄合は対象外となったため、竹中家は士族の身分に留まることになりました。

重光流竹中氏

竹中重元の三男である竹中重光の子たちからも家系が派生しました。

重光の長子である竹中重利は、羽柴秀吉から美濃国内に3,000石の所領を与えられ、宗家から独立した家を興しました。その後、領地替えにより豊後高田13,000石の大名となります。さらに、関ヶ原の戦いで徳川家康に味方した功績により豊後大分城を与えられ2万石の大名となりますが、子の竹中重義が長崎奉行に任命されながらも、密貿易の罪により幕府から切腹を命じられ、家は改易されて断絶しました。

重光の次子である竹中重定も羽柴秀吉に仕えました。また、その娘の一人は豊臣秀次の側室となり、羽柴土丸を産んでいます。関ヶ原の戦い以後は徳川家に仕え、摂津吹田を領する上級旗本として家系を存続させました。この家系は、鷹司家（鷹司松平家）とも姻戚関係を結んでいました。

このように、竹中氏は戦国乱世を経て、宗家が江戸幕府の旗本として存続した一方で、大名や別系統の旗本として派生した家系もあり、それぞれが激動の時代を生き抜きました。

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