簡文帝 (東晋)

簡文帝（かんぶんてい）

簡文帝（319年 - 372年）は、東晋の第8代皇帝であり、その治世は激動の時代でした。本名は司馬昱（しばいく、または、し ばゆ）。初代皇帝である元帝の末子として生まれました。

生涯

即位前

幼少の頃から利発であったため、父である元帝に深く愛されました。322年には琅邪王に封じられ、その後、生母の死をきっかけに会稽王に改封されました。以降、右将軍や侍中といった要職を歴任し、346年からは褚太后の詔命により政務を総括し、東晋朝廷の実質的な最高決定権者となりました。皇族の長老として、数代にわたり若き皇帝を補佐する立場にありました。

即位

369年、桓温が前燕に対する北伐で大敗を喫すると、その権勢を挽回するため、371年に海西公を廃位し、司馬昱を皇帝として擁立しました。簡文帝は桓温の傀儡として、その意向に従い皇族や官吏の任免を行いました。

崩御と遺詔

即位の翌年、簡文帝は病に倒れ、崩御に際して桓温に皇位を禅譲しようと遺詔を作成しました。しかし、侍中の王坦之が遺詔を破り、謝安の奇策もあって、孝武帝が後を継ぐことになりました。

人物

若い頃から風格があり、容姿も美しかったと伝えられています。物静かで落ち着いた性格でしたが、政治手腕には欠けていたと評されています。謝安は彼を「恵帝の類いの人物」と評し、謝霊運は彼の事績から、赧王・献帝の類いであると評しました。

逸話

簡文帝には多くの逸話が残されています。

撫軍将軍時代、鼠の足跡を見て兆候を予測した。
業務処理が遅いことを桓温に催促された際、「一日の万機をどうして早く得ることができるのか？」と答えた。
桓温と武陵王司馬晞と共に馬車に乗った際、桓温が速度を上げても平然としていた。
華林園に行幸した際、「心にあう所が必ずしも遠くにあるわけではない」と詠んだ。
田畑の稲を見て「これは何の草なのか？」と尋ね、米がどのように使われる穀物なのかさえ見分けられなかった。
桓温が武陵王司馬晞を讒訴した際、「運命が晋に味方するならば、公（桓温）は前日の詔を奉行すべきだが、晋の大運が尽きたならば、賢路のために避けてあげるよ」という詔を下した。
李陵容との間に孝武帝や司馬道子をもうけた。
熒惑が太微垣の端門を守る星変をめぐって「天子は亡国に遭い、諸侯・三公がその以上を図るだろう」という占兆が出てきた。

宗室

王妃：王簡姫（贈順皇后）
長男：会稽思王 司馬道生
次男：司馬兪生 - 早世
側室：李陵容（文皇太后）
六男：孝武帝 司馬曜（昌明）- 第9代皇帝
七男：会稽文孝王 司馬道子
皇女：鄱陽公主 - 王誕の兄の王嘏に嫁いだ。
側室：貴人徐氏
皇女：新安公主 司馬道福 - 王献之に嫁いだ。
側室：淑儀胡氏
三男：臨川献王 司馬郁（深仁）- 早世
四男：司馬朱生 - 早世
側室：淑儀王氏
五男：司馬天流 - 早世
生母不詳の子女
皇女：武昌公主 - 桓沖の子の桓修に嫁いだ。

簡文帝の生涯は、東晋の政治的混乱を象徴しており、その人物像は後世に様々な評価を与えています。

参考文献

『晋書』巻9 帝紀第9 太宗簡文皇帝
三崎良章『五胡十六国 中国史上の民族大移動』東方書店、2002年2月。
川本芳昭『中華の崩壊と拡大 魏晋南北朝』講談社〈中国の歴史05〉、2005年2月。
駒田信二; 常石茂『新十八史略4』河出書房新社、1997年7月。

関連項目

* 東晋の人物一覧

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