系図 (武満徹)

『系図 ―若い人たちのための音楽詩―』（Family Tree - Musical Verses for Young People -）は、日本の作曲家、武満徹が手がけた、少女の語り手とオーケストラのための作品です。副題にある『若い人たちのための音楽詩』が示すように、子供から大人まで幅広い世代に親しまれる音楽を目指しています。

この作品は、1992年にニューヨーク・フィルハーモニックの創立150周年を記念して委嘱されました。初演は1995年4月20日、レナード・スラットキンの指揮、ニューヨーク・フィルハーモニック、そしてサラ・ヒックスによる語り（英語版）で行われました。日本初演は、世界初演の直後に女優の遠野凪子の語り、岩城宏之の指揮、NHK交響楽団によって放送初演の形式で実現しました。日本語版による舞台初演は、同年9月7日に長野県松本文化会館で、遠野凪子の語り、小澤征爾の指揮、サイトウ・キネン・オーケストラの演奏によって行われました。武満徹の急逝後、NHK教育テレビで放送された追悼番組では、この作品の制作風景と完成版「映像詩 系図」（朗読：遠野凪子）が放映され、多くの人々の心を打ちました。

詩人・谷川俊太郎の詩集『はだか』から、武満徹自身が6篇を選び、再構成したものがテキストとして使用されています。詩の英訳はウィリアム・I・エリオットと川村和夫が担当しました。原作の詩集では主人公は少年で一人称は「ぼく」ですが、本作では少女に変更され、一人称が「わたし」となっています。この変更は、作品に新たな視点と繊細さをもたらしています。

曲の最後に登場するアコーディオンの旋律は、映画監督ジム・ジャームッシュの映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』のために以前作曲されたものの、使用されなかった楽曲を再利用したものです。この旋律は、武満徹が大変気に入っていたため、自宅の食卓でBGMとして流していたというエピソードも残っています。

作品は全6曲から構成され、演奏時間は22分から25分程度です。各曲のタイトルは以下の通りです。

第1曲: むかしむかし (Once Upon a Time)
第2曲: おじいちゃん (Grandpa)
第3曲: おばあちゃん (Grandma)
第4曲: おとうさん (Dad)
第5曲: おかあさん (Mom)
第6曲: とおく (A Distant Place)

武満徹は、語り手として12歳から15歳の少女が望ましいと述べています。この指定は、作品の持つ純粋さや無垢な視点を強調する意図があると考えられます。

編成は、フルート3（2番はピッコロ、3番はアルト[[フルート]]持ち替え）、オーボエ2（2番はイングリッシュホルン持ち替え）、クラリネット4（4番はバスクラリネット持ち替え）、ファゴット3（3番はコントラ[[ファゴット]]持ち替え）、ホルン4、トランペット3（C管）、トロンボーン3、チューバ、打楽器3（1:ヴィブラフォン、2:グロッケンシュピール・チューブラーベル・サスペンデッドシンバル・アンティーク[[シンバル]]（Gと高いE）、3:タムタム（3台）・スチールドラム・サスペンデッドシンバル（2台）・チューブラーベル）、ハープ、チェレスタ、アコーディオン、語り手、そして弦五部（14-12-10-8-6）という大規模なものです。

『系図』は、これまでに数多くの演奏家によって演奏されてきました。特に、語り手は遠野凪子をはじめ、小澤征良、吉行和子、太田麻華、蓮佛美沙子、夏菜、中井貴恵、上白石萌歌、山口まゆ、浜辺美波、唐田えりか、のん、谷花音、田幡妃菜、高平響、白鳥玉季、宇田琴音、寺田光、五藤希愛など、様々な世代の俳優や声優が務めており、それぞれの個性と表現によって作品に新たな命を吹き込んでいます。岩城宏之による室内管弦楽版も存在し、より親密な空間での演奏も可能にしています。

この作品は、家族への深い愛情と、過ぎ去った日々への郷愁を、美しい音楽と詩的な言葉で描き出しています。少女の語りを通して、聴衆は自身の家族や故郷を思い起こし、心の奥深くに響く感動を体験することでしょう。

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