羅先特別市

羅先特別市について

羅先特別市（ラソントクピョルシ）は、朝鮮民主主義人民共和国の北東部に位置する特別市です。かつては羅津（ラジン）と先鋒（ソンボン）という二つの地域が統合された都市であり、日本海に面する重要な港湾都市としての役割を担っています。特に、羅先経済貿易地帯は海外資本を積極的に導入した経済特区として知られています。

地理

羅先特別市は、日本海に面しており、その沿岸部は複雑に入り組んだ地形をしています。市域の北東部では、豆満江（中国名：図們江）が日本海に注ぎ込む豆満江デルタ地帯を形成しています。この豆満江を挟んで、対岸には中国吉林省延辺朝鮮族自治州の琿春市、そしてロシア連邦沿海地方のハサンが位置しています。羅津港は古くから天然の良港として知られ、夏季には多くの観光客が訪れます。また、沿岸部には西藩浦、東藩浦、晩浦などのラグーン群があり、これらは渡り鳥の保護区としてラムサール条約に登録されています。

行政区画

羅先特別市は、羅津区域と先鋒区域という二つの主要な行政区画に分かれています。

羅津区域には、以下の洞（行政区画）が含まれます。

寛谷洞（クァンゴクトン）
南山洞（ナムサンドン）
東明洞（トンミョンドン）
新安洞（シナンドン）
新海洞（シネドン）
新興洞（シヌンドン）
安住洞（アンジュドン）
安和洞（アナドン）
駅前洞（ヨクチョンドン）
踰峴洞（ユヒョンドン）
地境洞（チギョンドン）
倉坪洞（チャンピョンドン）
清渓洞（チョンゲドン）
解放洞（ヘバンドン）
武倉里（ムチャンニ）
厚倉里（フチャンニ）

先鋒区域には、以下の洞と里が含まれます。

上峴洞（サンピョンドン）
中峴洞（チュンピョンドン）
下峴洞（ハピョンドン）
松坪洞（ソンピョンドン）
豆満江洞（トゥマンガンドン）
雄尚洞（ウンサンドン）
牛岩洞（ウアムドン）
白鶴洞（ペカンドン）
元汀洞（ウォンジョンドン）
下汝坪洞（ハヨピョンドン）
屈浦里（クルポリ）
鮒浦里（プポリ）
四会里（サフェリ）
造山里（チョサンニ）
下桧里（ハフェリ）
洪儀里（ホンイリ）

歴史

この地域は、古くは高句麗や渤海国の領土であり、その後、女真族との抗争を経て、15世紀前半に朝鮮王朝の支配下に入りました。日本統治時代には、羅津と雄基という二つの町があり、咸鏡北道慶興郡に属していました。これらの町は、工業都市である清津市の近くに位置し、羅津は漁村、雄基は国境を守る部隊が駐屯する港町でした。1932年に満州国が建国されると、この地域は日満間の連絡ルートとして重要視され、大規模な港湾である羅津港が建設されました。これにより、多くの日本人が満州東部へ渡りました。

1945年8月、ソ連軍の対日参戦とともに、羅津と雄基は空襲を受け、ソ連軍が上陸しました。朝鮮民主主義人民共和国成立後、この地域はソ連や中国との貿易で発展し、1980年代初頭には、雄基が先鋒と改名されました。1990年代に入ると、ロシア極東、中国東北部、そして北朝鮮の接点として注目され、「羅津・先鋒経済貿易地帯」が発足しました。2000年には羅津-先鋒が「羅先」と改称され、現在に至ります。この経済特区は行政的な位置づけが変動しており、2010年には特別市に位置づけられました。

年表

朝鮮王朝時代：慶興郡の一部
1895年：咸鏡北道慶興郡に属する
1932年：羅津港の築港工事が開始
1934年：慶興郡新安面が羅津邑に昇格
1936年：羅津府が発足、慶興郡から離脱
1945年8月12日：ソ連軍が上陸
1945年（光復後）：羅津府と慶興郡豊海面が合併し、羅津市が発足
1949年：羅津市が羅津郡に格下げ、周辺地域を編入
1952年12月：郡面里統廃合により、羅津郡が再設置
1967年8月：羅津郡が羅津市に格上げ
1993年9月：咸鏡北道羅津市・先鋒郡の全域をもって、羅津-先鋒市を置く
2000年8月：羅津-先鋒市が羅先直轄市に昇格
2001年5月：咸鏡北道羅先市に降格
2005年1月：羅先特級市に昇格
2006年9月頃：羅先直轄市になる
2010年1月：羅先特別市になる
2015年：羅津地区と先鋒地区を再設置
2020年：羅津地区を羅津区域に、先鋒地区を先鋒区域に改称

国際貿易拠点としての羅先経済貿易地帯

1990年代初頭、中国の提案を受けて国連開発計画が主導した豆満江地域開発計画の一環として、「羅津・先鋒経済貿易地帯」が発足しました。この計画は、北東アジアの玄関となる国際貿易地帯を目指し、ロシア、中国、北朝鮮の三国が協力して進められました。経済特区には、多くの海外企業が進出し、羅津港の利用権が中国やロシアに付与されています。羅津港は、波が静かで水深があり、冬でも凍結しないため、物流拠点としての利用価値が高いとされています。中国は、羅津港を利用することで、吉林省からの輸送コストを削減し、ロシアは、極東の主要港であるウラジオストクの負担軽減を図っています。しかし、政治的な不安定要因や資金不足により、経済特区の発展は必ずしも順調ではありませんでした。

交通

羅先特別市には、以下の鉄道網があります。

平羅線（平壌 - 羅津）：厚倉駅、明湖駅、羅津駅
咸北線（青岩 - 羅津）：青鶴駅、四会駅、洪儀駅、ムルゴル駅、九龍坪駅、雄尚駅、東先鋒駅、先鋒駅、寛谷駅、雄羅駅、羅津駅
洪儀線（洪儀 - 赤池）：洪儀駅、赤池駅
豆満江線（ムルゴル - ロシア国境）：ムルゴル駅、赤池駅、豆満江駅、朝鮮・ロシア友情橋（ - ハサン駅）
勝利線（先鋒 - 勝利）：先鋒駅、勝利駅
羅津港線（羅津 - 羅津港）：羅津駅、羅津港駅

主な名所

羅津市

羅津港：羅津半島と大草島、小草島に守られた天然の良港。
大草島：羅津港沖に浮かぶ島で、観光名所。
琵琶海水浴場：澄んだ海水と美しい自然が魅力の海水浴場。
麝香山

先鋒郡

先鋒港：原油の取り扱い港。
先蜂革命事績館：金日成、金正日、金正淑の革命事蹟を展示。
オットセイ保護区：葛隠端の南側にある諸島がオットセイの保護区。
屈浦里西浦項遺跡：旧石器時代からの歴史を示す文化層がある。
西藩浦：朝鮮最大の海跡湖。
牛岩：大規模な乳牛牧場。

主な宿泊施設

エンペラーホテル：香港資本の高級ホテル。かつてはカジノがあった。
羅津ホテル（1級）
東明山ホテル
東明山ホテル３号棟
南山旅館（3級）
琵琶ホテル（2級）
琵琶観光ホテル（3級）
先鋒ホテル（3級）

工場

羅先麺類加工工場
羅先製薬工場

羅先特別市は、その地理的な位置から、国際貿易と経済交流の拠点としてのポテンシャルを持っています。しかし、政治的な変動や経済的な課題も抱えており、今後の発展が注目されます。

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