聖絶

聖絶(せいぜつ)とは何か？――[聖書]]における[[ヘーレム]の解釈

「聖絶」とは、『[新改訳聖書]]』においてヘブライ語のヘーレム]を訳す際に用いられた語で、神への聖別、奉献、あるいは神への捧げ物として滅ぼすことを意味します。[[レビ記、申命記、ヨシュア記、サムエル記上巻など、旧約[[聖書]]において頻繁に登場する重要な概念です。

[ヘーレム]の多様な意味

ヘーレムの語源は「別にしておく」「俗用に供することを禁じる」という意味を持ちます。旧約[[聖書]]においては、主に以下の2つの文脈で使われています。

1. 神への奉献・聖別: 畑や家畜を神に捧げる場合、売買は許されず、完全に神に献げなければなりませんでした(レビ記27:28)。捧げられたものは祭司のものとなりました(レビ記27:21、民数記18:14)。人間を捧げる場合は必ず殺さなければなりませんでした(レビ記27:29)。
2. 敵対勢力への殲滅: イスラエルの敵対勢力に対しては、「神への奉納物として、異教の神を拝むものとそれに関連する事物をことごとく滅ぼし尽くす」ことを意味しました。これは、敵対勢力の人間、家畜、そして戦利品を全て破壊することを意味し、通常の戦闘では許される女の捕虜や戦利品も例外ではありませんでした。破壊できない金銀財宝などは神殿に納められ、民衆の手からは隔離されました。聖絶のものを私物した者は死刑に処せられました(申命記7：1-6、20:16-18)。

イスラエル国民自身も、ヤハウェ以外の神を崇拝した場合、あるいは預言されたように神によって聖絶される可能性がありました(出エジプト記22:20、申命記7:26、ヨシュア記6:18、エレミヤ書25:9)。

旧約[[聖書]]における聖絶の例

イスラエルの敵対勢力（カナンの王など）に対する聖絶（民数記21:2、ヨシュア記6章、民数記21章、サムエル記上15章）。
ヨベルの年に聖絶された畑（レビ記27:21）。
偶像礼拝をするイスラエル人に対する裁き（出エジプト記22章20節）。
異教の偶像に用いられた金銀を欲しがるイスラエル人に対する裁き（申命記7章26節）。

新約[[聖書]]におけるアナテマ

七十人訳[[聖書]]では、ヘーレムは「アナテマ」と訳されています。新約[[聖書]]では、アナテマは不信者に対する強い呪いを意味しますが、「聖絶」と訳された聖書はありません。カトリック教会では「破門」を意味する言葉として用いられるようになりました。ただし、『ルカによる福音書』21：5では、「エルサレム神殿への奉納物」の意味で使用されています。

語義の変化と翻訳

聖戦の時代が終わった紀元前後のイスラエルでは、「強い呪い」を意味する言葉へと変化しました(コリント前16:22、ガラテア1：8-9)。マックス・ウェーバーは、この変化はバビロニア捕囚後に既に起こっていたと主張しています。バビロン捕囚後、ユダヤ教は平和的な宗派的な教団へと変容し、ヘーレムは共同体からの破門を意味するようになりました(エズラ10：8)。

聖書の翻訳では、ヘーレムは場面に応じて様々な訳語が用いられています。例えば、『口語訳聖書』では「それを全く滅ぼし」、「新共同訳[[聖書]]』では「滅ぼし尽くせ」または「滅ぼし尽くして主にささげよ」、「文語訳聖書』では「詛(のろ)はれしものとしてヱホバに献ぐべし」と訳されています。『新改訳[[聖書]]』では「聖絶」と訳されていますが、これはキリスト教護教的な訳であると批判されています。岩波書店刊行の岩波委員会訳聖書でも「聖絶」が用いられていますが、教派的な解釈から自由な立場を取っている点が異なります。

様々な解釈

福音派: 旧約[[聖書]]の聖絶は、神への敬虔な信仰、神の命令の執行、神の愛の拡大、霊的な戦いなどとして解釈されています。

自由主義神学: イスラエル民族の部族神による行為であり、史実とは限らないとみなします。聖絶は、敵対勢力を神に捧げる宗教儀礼であり、必ずしも物理的な絶滅を意味しないとも解釈されています。また、実際には不徹底であり、バアル信仰の蔓延や異民族支配につながったと反省する歴史解釈も存在します。

ユダヤ人学者: 聖書無謬説を否定する立場からは、神がそのような命令をしたはずがない、あるいは命令が誤っていたと解釈されます。マルティン・ブーバーは『サムエル記』上15章の記述を神のお告げとは信じないと述べています。一方、エマニュエル・レヴィナスは、聖絶を「地図と歴史の上から抹殺する行為」と表現しています。

批判的視点: 聖絶は「民族浄化」「ホロコースト」であり、ジハードやオウム真理教のポアと類似性を指摘する声もあります。

まとめ

「聖絶」は、複雑で多様な解釈を持つ聖書的概念です。その意味は、時代や文脈、そして解釈者の立場によって大きく異なってきます。現代においても、この概念は、宗教、歴史、倫理、そして現代社会における暴力の問題と深く関わり合っています。様々な解釈を理解することで、聖書の世界観と現代社会との接点をより深く理解することができるでしょう。

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