花山院師兼

花山院師兼

花山院師兼（かさんのいん もろかね）は、南北朝時代に生きた公卿・歌人です。彼の出自については確かな史料が少なく、内大臣・花山院家賢の子とする説が有力ですが、権中納言・花山院兼信の子とする説も存在します。彼は南朝に仕え、歌人としての才能を発揮しました。

経歴

師兼は京都で生まれたとされています。正平12年/延文2年（1357年）1月には、父である家賢らと共に南朝へ出仕したと考えられています。当初、閑院流の家の養子となり叙爵された可能性も指摘されています。天授元年/永和元年（1375年）の『五百番歌合』に春宮権大夫（本官は権中納言か）として出詠したのが、記録に残る最初の活動です。その後、天授2年/永和2年（1376年）から始まった『千首和歌』にも参加し、天授年間後半に成立したとされる家集『師兼千首』には、「正二位行権大納言兼春宮大夫大学頭」という位署が見られます。弘和元年/永徳元年（1381年）1月には内裏歌会の序文を奉り、同年12月に成立した『新葉和歌集』には彼の歌が24首も収録されました。元中3年/至徳3年（1386年）8月には、長親・長親母らと共に『法門四十七首和歌』に歌を詠進しています。

元中4年/嘉慶元年（1387年）には、勅使として九州へ下向したという記録が『桜雲記』『南方紀伝』に見られますが、これを裏付ける史料がないため、真偽は不明です。元中6年/嘉慶3年（1389年）1月には左近衛大将に任じられました。その後の動向は詳しく分かっていませんが、明徳4年（1393年）3月12日に嵯峨で亡くなった「南方花山院内大臣四十五」という人物は、師兼である可能性が高いと考えられています。彼は南朝の末期に内大臣にまで昇進し、元中9年/明徳3年（1392年）の南北朝合一後に入洛したのかもしれません。

師兼千首

『師兼千首』は、師兼の家集であり、春・秋に各200首、夏・冬に各100首、恋・雑に各200首、合計1000首の和歌が収録されています。『耕雲千首』や『宗良親王千首』と同様に、天授2年（1376年）の『千首和歌』の一つと考えられてきましたが、実際には天授年間後半（1378年 - 1380年）に彼が個人的に詠んだものと考えられています。二条派の影響を受けた平板な詠みぶりの中にも、南朝の公卿や学者としての彼の境涯が表現された歌には、独特の趣があります。写本は宮内庁書陵部、内閣文庫、高松宮などに所蔵されており、『群書類従161』や『新編国歌大観10』に翻刻されています。

師兼の和歌は、南北朝時代の動乱の中で生きた公卿の心情や、古典への造詣の深さを伝える貴重な資料と言えるでしょう。

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