苻廋

苻廋（ふ そう）

苻廋（生年不詳 - 368年）は、五胡十六国時代の前秦の皇族であり、初代君主である苻健の十男として生まれました。母は皇后の強氏であり、多くの兄弟がいました。

生涯

351年、父の苻健が前秦を建国すると、苻廋は魏公に封じられました。355年に苻健が亡くなり、兄の苻生が後を継ぐと、苻廋は鎮東大将軍・豫州牧に任じられ、陝城の守備を任されました。

357年、従弟の苻堅が苻生を殺害し、その地位を継承しました。その後、苻廋は洛州刺史に任じられます。

364年、兄の汝南公苻騰が苻堅に対して反乱を起こし、失敗して処刑されました。この時、王猛は苻堅に対し、苻生の弟である五公（苻方、苻柳、苻廋、苻武、苻幼）をまとめて処刑するよう進言しましたが、苻堅はこれを許しませんでした。

365年、苻堅が長安を留守にしていた隙に、弟の淮南公苻幼が杏城の兵を率いて長安を攻撃しましたが、李威に敗れて殺害されました。

367年、晋公苻柳と趙公苻双が共に反乱を企て、苻廋と燕公苻武に協力を持ちかけました。苻廋はこれに同意しましたが、鎮東主簿の姚眺は「明公（苻廋）は周公・召公のように至親として方面の重任を受けています。国家に難がある今こそ、力を尽くしてこれを除くべきです。どうして自ら難を為そうとするのですか！」と諫めましたが、苻廋は聞き入れませんでした。

このことが苻堅の耳に入ると、苻堅は苻廋らに長安へ来るように命じました。367年10月、苻柳は蒲坂で、苻双は上邽で、苻廋は陝城で、苻武は安定で、それぞれ兵を挙げ、苻堅に対して反旗を翻し、長安攻略を目論みました。苻堅は使者を派遣し、「私は卿らを厚遇し、恩も尽くしてきたのに、なぜ反乱を起こすのか！反乱を中止し、兵を退くべきである。そうすれば各々その地位を安堵し、一切を以前の通りとする」と説得し、各々に噛梨を送り信義を示しましたが、誰も従わず、兵を増強して守りを固めました。

368年1月、苻堅は後将軍楊成世・左将軍毛嵩を上邽・安定へ、輔国将軍王猛・建節将軍鄧羌を蒲坂へ、前将軍楊安・広武将軍張蚝を陝城へ侵攻させました。蒲坂・陝城へ侵攻する将軍たちには、城から三十里離れた地点で守りを固め、秦・雍の地を平定した後で共同で攻略するよう命じました。

2月、苻廋は陝城ごと前燕へ降伏を申し入れ、救援を要請しました。これに対し、前秦朝廷は動揺し、苻堅は前燕の襲来に備えて精鋭兵を派遣して華陰を守らせました。前燕の魏尹・范陽王慕容徳は前秦を討つ絶好の機会として朝廷へ出兵を要請しましたが、宰相の慕容評は先帝が崩御したばかりであることを理由に軍事行動を起こしませんでした。

3月、苻双は楊成世・毛嵩を打ち破りましたが、苻堅は武衛将軍王鑒・寧朔将軍呂光らを派遣して苻双・苻武を討伐させました。4月、苻双・苻武は隃麋へ進出しましたが、呂光らに大敗を喫し、安定を放棄して苻双と共に上邽へ退却しました。5月、苻柳は長安に向けて出撃しましたが、王猛・鄧羌に大敗を喫し、蒲坂へと撤退しました。7月、王鑒らの攻勢により上邽は陥落し、苻双・苻武は捕らえられて長安へ連行され、処刑されました。9月、王猛の攻勢により蒲坂も陥落し、苻柳は処刑されました。王猛は蒲坂に留まり、鄧羌に王鑒らと合流して陝城を攻めるよう命じました。

12月、苻廋は鄧羌らの攻勢に耐えきれず、陝城も陥落しました。苻廋が捕らえられて長安へ護送されると、苻堅は反乱を起こした理由を尋ねました。苻廋は「私は元々反逆の意思はありませんでしたが、兄弟たちが度々反乱を企てました。私も連座することを恐れ、謀反を起こしたのです」と答えました。苻堅は涙を流し、「汝は元々徳望の高い人物であり、今回の件が本心ではないこともよく分かっている。高祖（苻健）の後継を絶やすわけにはいかない」と述べ、苻廋に死を賜りましたが、彼の7人の子供たちの罪は免じました。また、長男に魏公を襲名させ、他の子供たちも県公に封じ、苻生とその兄弟で後継ぎのいない者の後を継がせました。母の苟氏は「苻廋と苻双は共に反乱を起こしましたが、なぜ苻双にだけ後を継がせる者を置かないのですか（苻双は苻堅の同母弟）」と問うと、苻堅は「この天下は高祖の天下です。高祖の子を絶やすわけにはいきません。また、苻双は太后（母の苟氏）を顧みず、宗廟を危ぶめんと謀りました。天下の法は私情に囚われるべきではありません」と答えました。苻廋の側近であった姚眺は、抜擢されて汲郡太守に任じられました。

苻廋の生涯は、前秦という激動の時代における皇族の宿命を物語っています。兄弟たちの反乱に巻き込まれ、最終的には自身も反旗を翻すことになった彼の悲劇は、権力闘争の残酷さを浮き彫りにしています。

参考文献

『晋書』巻112 載記12、巻113 載記13
『資治通鑑』巻99-101

もう一度検索