楊安

楊安（よう あん）

楊安（生没年不詳）は、五胡十六国時代の前仇池の公族で、後に前秦の武将として名を馳せました。略陽郡清水県出身の氐族であり、祖父は前仇池の第4代君主である楊初、父は第5代君主の楊国です。

生涯

楊安は仇池公・楊国の子として生まれました。永和11年（355年）1月、父が位を継ぐと、東晋朝廷より振威将軍・武都郡太守に任じられます。しかし、永和12年（356年）、楊初の弟である楊俊が楊国を殺害し、位を簒奪すると、楊安は前秦へ亡命しました。

前秦では、かねてより名将としての誉れが高かった楊安の活躍が期待され、鄧羌にも匹敵すると称されました。しかし、亡命者であったためか、長らく佐命の列に連なることはなく、建元年間以前は征討の任も与えられませんでした。

建元元年（365年）頃、前将軍に抜擢されます。同年7月、匈奴の右賢王曹轂・左賢王劉衛辰が兵を挙げて反旗を翻すと、楊安は討伐軍の前鋒として曹轂を迎え撃ちます。曹轂は弟の曹活を同官川に進ませて楊安を攻撃させましたが、楊安はこれを大破し、曹活を始め四千人余りを斬首しました。曹轂は大いに恐れて降伏しました。

建元2年（366年）、苻堅の命により、楊安は王猛と共に兵2万を率いて荊州北部の諸郡を攻撃します。さらに転進して南郷を攻め、安陽の民1万戸余りを引き連れてから帰還しました。

建元3年（367年）、前涼の君主張天錫が西方で独立勢力を築いていた李儼を攻撃すると、李儼は苻堅へ救援を要請しました。苻堅の命により、楊安は李儼救援を命じられ、2万の兵を率いて出撃し、先発していた王猛と合流します。楊安らは枹罕へと進軍すると、前涼の前将軍楊遹と枹罕の東で戦ってこれを大破し、捕虜・斬首併せて1万7千の戦果を挙げました。

同年10月、上邽の苻双・蒲坂の苻柳が苻堅に反旗を翻しました。さらに陝城の苻廋・安定の苻武がこれに呼応して、共同で長安へと侵攻する準備を始めました。建元4年（368年）1月、楊安は広武将軍張蚝と共に苻廋のいる陝城を攻撃するため軍を進めます。苻堅は楊安らへ、陝城から三十里の地に駐屯して動かないようにし、秦州・雍州の地を安定させてから力を併せて攻め取るよう命じました。12月、鄧羌・王鑒らと合流すると、共に陝城を攻めて陥落させ、苻廋を長安へと護送しました。後に鎮南将軍に任じられました。

建元6年（370年）6月、苻堅は王猛を総大将に任じ、楊安・張蚝・鄧羌ら十将、歩兵騎兵合わせて六万の兵を与えて、前燕討伐に向かわせました。7月、王猛の命により、楊安は晋陽攻略に当たります。しかし、晋陽には兵も糧食も十分備わっていたので、なかなか攻め落とすことができませんでした。9月、王猛が晋陽に到着すると、張蚝に命じて地下道を掘って城内への進入路を作り、壮士数百人を与えて城内に侵入させて城門を内から開かせました。これを合図に楊安は王猛と共に城内に突入し、前燕の并州刺史慕容荘を捕えました。前燕平定後には戦功によって博平県侯とされ、吏部尚書に進められました。

建元7年（371年）2月、使持節・都督益梁二州諸軍事・梁州刺史に任じられました。3月、西県侯苻雅・揚武将軍姚萇らと共に騎兵7万を率いて仇池を攻め、楊俊の後を継いだ仇池公楊纂を降伏させました。4月、都督南秦州諸軍事に任じられ、仇池を鎮守しました。また、時期は不明ですが、楊纂を殺害しています。

建元9年（373年）7月、東晋の梁州刺史楊亮が子の楊広（楊佺期の兄）を派遣して仇池へ侵攻すると、楊安はこれを撃破しました。沮水一帯の東晋軍はみな城を捨てて潰走し、楊亮は恐れて撤退しました。9月、楊安は勝ちに乗じて進撃し、遂に漢川に侵攻しました。その後、さらに軍を転進させて梓潼へ侵攻すると、涪城を守る梓潼郡太守周虓を降伏させました。11月、さらに進撃を続けると、遂に益州・梁州の二州を陥落させました。これにより、西南夷に位置する邛・莋・夜郎といった地は尽く前秦に帰順しました。楊安は功績により右大将軍・益州牧に任じられ、成都を鎮守しました。

建元10年（374年）5月、蜀人の張育・楊光らが挙兵して苻堅に反旗を翻し、巴獠の酋長張重・尹万ら五万人がこれに呼応して成都を包囲しました。楊安は鄧羌らと共に5万の兵を率いてこれを撃ち、張重・尹万らを大破しました。7月、張育は尹万と主導権争いを始め、遂に離反すると兵を率いて相対峙しました。楊安はこの隙を突いて攻撃を仕掛け、これを破りました。攻勢に晒された張育と楊光は綿竹まで軍を退きました。9月、楊安は張重・尹万の軍と成都の南で戦闘を行い、首級二万三千を挙げる勝利を収め、張重を討ち取りました。さらに鄧羌は張育・楊光と綿竹で戦闘を繰り広げ、彼らを斬り殺しました。こうして益州は平定されました。

後に荊州刺史に任じられ、樊城・鄧城を鎮守しました。

建元14年（378年）1月、長楽公苻丕らが東晋領の襄陽を攻めると、楊安は樊城・鄧城の兵を率いて軍の前鋒となり、これを陥れました。

これ以降、史書に楊安の名は記載されていません。

参考文献

『晋書』巻113、巻114
『資治通鑑』「晋紀」巻100 - 巻104
* 『十六国春秋』巻42

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