苻融

苻融（ふ ゆう）

苻融（生年不詳 - 383年）は、五胡十六国時代の前秦の皇族であり、第3代皇帝・苻堅の末弟にあたります。魏王苻雄の末子として生まれ、字は博休、諡号は哀公。

生涯

伯父の苻健の時代に陽平公に封じられ、兄の苻堅が皇帝となると、漢族の王猛が丞相に昇格した後、その後任として冀州牧に任命されました。苻融は苻堅から厚い信頼を受け、冀州全域を統括し、その秩序を維持しました。また、優れた統率力で将兵からの信望も厚かったと伝えられています。

375年に王猛が病没すると、苻融は長安に召還され、侍中・中書監・司隷校尉・太子太傅・録尚書事などの要職を歴任しました。この頃、苻堅が東晋への遠征を計画しますが、苻融は寵妃の張夫人、甥の中山公苻詵、僧侶の釈道安らと共に、遠征を思いとどまるよう懸命に諫言しました。しかし、苻堅は彼らの意見を聞き入れませんでした。

383年の淝水の戦いでは、苻融は征南大将軍に任じられ、先鋒隊として20万の兵を率いて東晋の寿春を攻略しました。その後、苻堅率いる本隊が到着し、東晋との決戦に臨むことになります。しかし、かつて東晋の梁州刺史だった降将の朱序が「秦は大敗したぞ！」と叫び、東晋に帰参して前秦を裏切ると、苻堅の本隊を襲撃しました。同時に東晋本隊の攻撃も受けたため、前秦軍は総崩れとなり、苻融は兄と共に敗走する最中に戦死しました。

人物

苻融は兄・苻堅をよく補佐しました。苻堅が異民族を重用し、自らの氐族を遠ざける政策を行った際には、「陛下は鮮卑や羌を可愛がり、彼らを畿内に住まわせ、同族である氐を遠方に派兵しておられます。鮮卑らは皆国の賊であり、我らの仇でございます」と泣いて諫言しましたが、聞き入れられませんでした。

また、苻堅が南征を計画した際には、東晋には謝安などの人材が揃い、長江の険に守られているため攻撃は容易ではないこと、中原平定後間もなく将兵が疲弊していること、鮮卑や羌などの異民族を重用し、氐族をないがしろにしている現状は国家にとって危険であることを進言しましたが、これも聞き入れられず、南征は強行されました。

苻融の諫言は、苻堅の政策の誤りを的確に指摘するものでしたが、受け入れられることはありませんでした。淝水の戦いでの敗北と苻融の死は、前秦崩壊の大きな要因の一つとなりました。

参考文献

川本芳昭『中国の歴史05、中華の崩壊と拡大。魏晋南北朝』（講談社、2005年2月）
三崎良章『五胡十六国、中国史上の民族大移動』（東方書店、2002年2月）

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