董文用

董文用（とう ぶんよう）

董文用（1224年 - 1297年）は、13世紀のモンゴル帝国に仕えた漢人将軍であり、政治家としても活躍しました。字は彦材（げんざい）といいます。

生涯

1224年に生まれた董文用は、10歳の時に父・董俊を亡くし、兄の董文炳（とう ぶんへい）の庇護のもとで育ちました。幼い頃から学問に励み、詩賦の才能を発揮していました。1250年、董氏一族が仕えていたソルコクタニ・ベキの命により、一族から選ばれてソルコクタニに仕え、カラコルムに住むことになります。同時期には、史天沢（してんたく）の長男である史格（し かく）も同様の理由でモンゴル高原に派遣されています。

その後、トルイの長男モンケが第4代皇帝となると、その弟のクビライが東アジア方面遠征軍の司令官に抜擢され、董文用はクビライに文書官として仕えるようになりました。

帝位継承戦争での活躍

1253年、クビライが雲南・大理遠征を開始すると、董文用は弟の董文忠（とう ぶんちゅう）と共に従軍し、主に兵站の維持を担当しました。1257年と1259年には、南宋遠征軍が再編成され、クビライ軍は長江中流域に侵攻。董文用は、周辺のモンゴル・漢人諸軍の徴発を担当しました。1259年9月、クビライが長江を渡河する際、兄の董文炳が先鋒を申し出、董文用らもそれに同調したため、クビライは董文用に甲冑を下賜し、一族は南宋軍を打ち破ったとされています。しかし、同年中にモンケ・カアンが急死したことで、クビライとアリクブケの間で帝位を巡る内戦（帝位継承戦争）が勃発しました。

1260年、クビライは自派の者のみを集めて即位を宣言し、「中統」という新たな元号を制定。董文用は、支配下の地域への宣諭を担当し各地を巡りました。同年7月、クビライの下に戻った董文用は、張文謙（ちょう ぶんけん）の推薦もあり、左右司郎中の地位に就きます。1261年8月には参議都元帥府事（さんぎとげんすいふじ）の地位に就き、1262年には、山東半島の済南で叛乱を起こした李璮（りぜん）の討伐軍に参加しました。その後、元帥のアジュが南宋侵攻の司令官に抜擢された際、アジュは董文用を配下に加えようとしましたが、董文用は「諸侯で総兵の地位にある者は、その子弟は兵事についてはならないという新たな制度があります。今、兄の董文炳が経略使総重兵（けいりゃくしそうちょうへい）に任じられて山東地方に鎮撫しており、私が従うことはできません」と述べて断りました。

クビライ治下の文官として

帝位継承戦争中、クンドゥカイによって荒らされた旧西夏国領（西夏中興等路）では住民が離散していました。董文用は、「至元」と改元された1264年に西夏中興等路行省郎中（せいかちゅうこうとうろこうしょうろうちゅう）の地位を与えられます。現地に赴任した董文用は、流民の帰還に尽力し、帰還した民には種子や農具を分け与え、生活を安定させました。当時、旧西夏国領はオゴデイ家のコデン家の勢力圏であり、コデンの孫であるジビク・テムルが君主でしたが、その無軌道な生活によりコデン家の財政は破綻しかけていました。そこで董文用が法に基づいてこれを改善しようとしたところ、従来のやり方を否定する董文用に不満を持つ者たちがジビク・テムルに訴え、董文用はジビク・テムルに召し出されることになります。ジビク・テムルの下を訪れた董文用は、自らが天子（クビライ）の命を受けた官吏であり、審問を行うのであれば同じく天子の命を受けた王傅（おうふ）にさせるべきだと申し出ました。これを受け入れたジビク・テムルが王傅に董文用の審問をさせると、董文用は王の配下たちの不法な振る舞いを理路整然と糾弾したため、王傅はその言を認め、ジビク・テムルに董文用の正しさを報告しました。そこでジビク・テムルは改めて董文用に謝罪し、ジビク・テムルの理解を得た董文用は、1265年までにこの地方の復興を成功させました。

1271年に司農司（し のうし）が設立されると、董文用は山東東西道巡行勧農使（さんとうとうざいどうじゅんこうかんのうし）の地位を授けられました。李璮の叛乱以来、山東地方は田野が荒廃していましたが、董文用の働きにより、5年の内に天下の勧農使の中で最も成果を挙げたと評されるほど農業生産を向上させました。1275年、丞相のアントンの推薦によって董文用は紇石里（ケシクテイ）に代わって工部侍郎（こうぶじろう）とされました。しかし、紇石里は当時権勢を極めていたアフマドの与党であり、アフマドの恨みを買った董文用は、工部侍郎の鷹を餓死させたという罪を捏造され、クビライによって左遷されてしまいました。

左遷後の活躍

1276年には衛輝路総管（えいきろそうかん）とされましたが、この地は連年の徴兵によって民の10分の9が兵事に携わり、民力が低下していました。更に、南宋の首都臨安（りんあん）が陥落したことによって、連日南宋の財物を運ぶ護送隊が通り、住民の農業を妨げていました。そこで董文用が護送隊の者に護送兵を減らし、民への負担を減らすよう申し出ると、相手は董文用の正しさを認めた上で、万が一問題が起こった時に誰が責任を取るのかと問いただしたため、董文用は自らの名前と官名を記し、それを保障としました。このような董文用の配慮により、衛輝路は復興に向かったとされています。

中央への復帰

1282年、董文用は兵部尚書（へいぶしょうしょ）に抜擢され、再び中央へ呼び戻されました。以後、朝廷の大議で関わらないものはなかったと言われています。1283年に江淮省（こうわいしょう）より行台（御史台の出先機関）を行省（中書省の出先機関）に属させるよう進言があった際には、董文用の反対により却下されました。その後、礼部尚書（れいぶしょうしょ）に転じましたが、当時朝廷では中書右丞（ちゅうしょううじょう）の盧世栄（ろ せいえい）が権勢を得ており、董文用は盧世栄の政策を痛烈に批判したと記録されています。

1285年には江淮行中書省参知政事（こうわいこうちゅうしょしょうさんちせいじ）に任命されましたが辞退しようとしたところ、クビライよりこれまでの業績を評価され慰留されたため、董文用はこの任官を受け入れました。

1288年には御史中丞（ぎょしちゅうじょう）となり、胡祗遹（こ しいつ）、王惲（おう いん）、雷膺（ら いん）、荊幼紀（けい ようき）、許楫（きょ しゅう）、孔従道（こう じゅうどう）ら10名余りを按察使（あんさつし）に、徐琰（じょ えん）、魏初（ぎ しょ）らを行台中丞（こうだい ちゅうじょう）に推挙しました。また、当時はサンガが台頭していた時代でしたが、アフマドや盧世栄の時と同様、董文用は権勢におもねることなくこれを批判したと伝えられています。

1294年、晩年のクビライは董文用に諸子を伴って入見するよう命じましたが、董文用は辞退したため遂にクビライに見えることはありませんでした。その後、クビライの後を継いだテムルに引き続き仕えました。

晩年

1297年、董文用は老齢を理由に官を辞し、同年6月に74歳で亡くなりました。董士貞（とう し てい）、董士亨（とう し きょう）、董士楷（とう し かい）、董士英（とう し えい）、董士昌（とう し しょう）、董士恒（とう し こう）、董士廉（とう し れん）、董士方（とう し ほう）という8人の息子がいました。董文用の息子たちについては記録が少ないですが、三男の董士楷については、著名な儒学者である陳孚（ちん ふ）の娘を娶ったことが知られています。

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