藤原経宗

藤原経宗：権謀術数の時代を生き抜いた公卿の生涯

藤原経宗は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活躍した、稀代の公卿です。藤原北家大炊御門家の出身で、権力闘争が激しかった時代に、巧みな政治的手腕で生き延び、高い地位を保ち続けました。その生涯は、時代の波に翻弄されながらも、常に自身の立場を巧みに守り、時に権力の中枢に君臨するまでのドラマチックなものでした。

若き日の登竜門と政治的停滞

保安4年（1123年）に叙爵された経宗は、その後、右少将、左中将を歴任します。母方の縁戚関係から、閑院流の庇護を受けていたと推測されますが、崇徳天皇の退位と待賢門院の出家によって、閑院流が衰退すると、経宗の昇進にも陰りが見え始めます。久安5年（1149年）、31歳という年齢でようやく参議となり公卿に列したものの、その道のりは決して平坦なものではありませんでした。

後白河天皇への接近と権力基盤の構築

近衛天皇の崩御と後白河天皇の即位は、経宗にとって大きな転機となりました。後白河天皇と従兄弟関係にあった経宗は、さらに後白河天皇の妃である姉の子、守仁親王（後の二条天皇）の立太子に伴い春宮権大夫に任じられ、皇太子の外戚として政治的地位を飛躍的に高めました。高齢の中御門宗能に代わり、春宮坊を取り仕切る実質的な権限を掌握したのです。

その後、権中納言、正三位への昇進、右衛門督兼任など、めざましい昇進を遂げます。保元の乱後には、敗れた藤原忠実を訪ね、政治の極意を学び、摂関への野心を抱いたと言われています。

平治の乱と信西暗殺

保元3年（1158年）の二条天皇の践祚後、朝廷は後白河院政派と二条親政派に分裂しました。経宗は、院政派への参加を避け、葉室惟方と共に親政派として明確な立場を示します。信西への反感を背景に、藤原信頼、藤原成親、源師仲らと共に反信西派を形成し、平治元年（1159年）にはクーデターを実行、信西を殺害して政権を掌握します。

しかし、主導権は源義朝を背景とした藤原信頼ら院政派が握っていました。経宗と惟方は、平清盛と内通して二条天皇を清盛の六波羅邸へ脱出させ、院政派を壊滅させます。

失脚と配流

親政確立を目指す経宗と惟方でしたが、信西暗殺の首謀者であったことは明らかで、後白河院の怒りを買います。平清盛によって逮捕され、拷問を受けた後、解官され、阿波国に配流されました。

復権と左大臣への就任

応保元年（1161年）には高倉天皇の立太子の陰謀が発覚し、二条天皇の親政が確立。翌年、経宗は召還されます。慎重な行動を心がけた後、長寛2年（1164年）には本位に復し、右大臣に任じられます。「阿波大臣」と呼ばれた経宗は、高齢の太政大臣や若年の左大臣、内大臣に代わり、実質的に太政官を取りまとめました。

二条天皇崩御後、後白河院は清盛の協力で憲仁親王（後の高倉天皇）を立太子。経宗は左大臣に任じられ、後白河院、平氏双方からの信頼を得ました。

平家没落期と後白河法皇への忠誠

治承2年（1178年）には安徳天皇の立太子に伴い東宮傅に任じられますが、九条兼実に批判されます。以仁王の挙兵や源頼朝の挙兵にも関与しながらも、平家への完全な服従は避けました。

寿永2年（1183年）の平家の都落ち後、経宗は後白河院の意を受けて院殿上での除目を主張。九条兼実らからの反対を押し切り、強引に除目を強行し、平家一門が掌握していた国司職に院近臣を任命します。

平家滅亡後も、後白河法皇を補佐する「朝の宿老」「国の重臣」として活躍。源義経の頼朝追討の宣旨に同意するなど、重要な役割を担いました。しかし、義経の没落後、頼朝の要求により議奏から除外されます。

晩年とその後

文治5年（1189年）に病により官職を辞し、出家、同月28日に71歳で薨去しました。

経宗は和歌にも秀で、勅撰[[和歌集]]にも作品が採録されています。日記『高門記』も残されており、その生涯は様々な史料から詳細に知ることができます。彼は、激動の時代を生き抜いた優れた政治家であり、その功績は今日でも高く評価されています。彼の生涯は、権力闘争の渦中を生き抜くための知略と、時代の流れを読む洞察力を兼ね備えた人物像を浮き彫りにしています。 また、嫡子・頼実も太政大臣にまで上り詰め、大炊御門家は清華家として確固たる地位を築き、経宗の功績は子孫にまで受け継がれたのです。

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