藤原良近

藤原良近（ふじわら の よしちか/まさちか）は、平安時代前期に活躍した貴族であり、藤原式家の出身です。父は中納言を務めた藤原吉野で、その四男として生まれました。最終的な官位は従四位下、神祇伯にまで至りました。

経歴

良近は、天安2年（858年）に刑部大丞として官界に入り、その後、式部少丞、蔵人を経て、貞観2年（860年）には従五位下に叙爵されました。翌年の貞観3年（861年）には伊勢権守に任じられましたが、すぐに召還され右少弁に任命されるという異例の人事を受けます。貞観4年（862年）には母の死去により一時的に官職を辞しますが、服喪期間が明けないうちに本官に復帰しました。

その後、良近は清和天皇の側近として弁官を歴任します。貞観5年（863年）に左少弁、貞観12年（870年）に右中弁、貞観16年（874年）には左中弁と、順調に昇進を重ねました。貞観10年（868年）には数ヶ月間、越前権守を務めた期間を除いて、一貫して弁官として朝廷に仕えました。また、貞観14年（872年）には、少納言の職にあった者が病気や服喪で相次いで職務に就けない状況となったため、判少納言として少納言の職務も代行しました。弁官としての職務を遂行する傍ら、土佐権守や美濃権守も兼任しました。その間、貞観8年（866年）に従五位上、貞観13年（871年）に正五位下へと昇進を果たしています。

貞観17年（875年）には従四位下、神祇伯に叙任されましたが、同年9月9日に53歳でこの世を去りました。最終的な官位は、神祗伯従四位下兼行美濃権守でした。

人物

良近は、その容姿や態度が優れており、清らかで美しいと評判でした。学識はさほど高くなかったものの、政治の理論に優れていたため、朝廷内で重用されるようになりました。また、並外れた腕力の持ち主であったという逸話も残されています。ある時、酒に酔って牛車に乗っていた際、同乗者に「自分が牛の動きを止めてみせる」と戯れに言い、手で車の床を押さえて牛車を動かなくしました。牛は足を突っ張って進もうとしたものの、全く動かなかったと伝えられています。

関連作品

『伊勢物語』には、良近に関する逸話が語られています。左衛門督の在原行平が、当時左中弁であった良近を招いて酒宴を開いた際、在原業平が花瓶に生けられた藤の花を題材に和歌を詠みました。その和歌の内容は藤原氏を讃美するもの（情緒に欠ける）であったため、周りの者は訝しんだものの、業平がその歌は良近ではなく太政大臣の藤原良房の栄華を讃美したものであると説明したため、非難は収まったとされています。

官歴

良近の官歴は、『日本三代実録』に詳しく記されています。

天安2年（858年）：刑部大丞、式部少丞、蔵人
貞観2年（860年）11月16日：従五位下
貞観3年（861年）1月13日：伊勢権守、5月20日：右少弁
貞観4年（862年）：辞官（母服喪）、復本官
貞観5年（863年）2月16日：左少弁、3月28日：次侍従
貞観8年（866年）1月7日：従五位上
貞観10年（868年）2月17日：越前権守
貞観12年（870年）1月25日：右中弁、7月5日：築河内国堤使長官
貞観13年（871年）：正五位下
貞観14年（872年）2月15日：判少納言
貞観15年（873年）：兼土佐権守
貞観16年（874年）：左中弁、美濃権守
貞観17年（875年）：従四位下、8月15日：神祇伯、9月9日：卒去（神祗伯従四位下兼行美濃権守）

系譜

『尊卑分脈』によると、良近の系譜は以下の通りです。

父：藤原吉野
母：不詳
生母不詳の子女
男子：藤原高用
女子：清和天皇更衣

脚注

この記述は以下の文献を参考としています。

1. 武田祐吉、佐藤謙三訳『読み下し 日本三代実録 上巻』戎光祥出版、2009年
2. 『尊卑分脈 第二篇』吉川弘文館、1987年

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