藤原高光

藤原高光

藤原高光（ふじわら の たかみつ）は、平安時代中期に活躍した貴族であり、歌人としても名を残しています。藤原北家、右大臣・藤原師輔の八男として生まれました。三十六歌仙の一人として数えられ、その才能は和歌の世界でも高く評価されています。

生涯

官僚としての活躍

天暦2年（948年）に昇殿を許されると、父である藤原師輔とともに村上天皇の前で『文選』や『三都賦序』を暗唱し、その才能を披露しました。天暦9年（955年）には姉である中宮・藤原安子の計らいにより従五位下に叙爵し、翌年には侍従に任官しました。その後、左衛門佐、右近衛少将と武官を歴任し、天徳5年（961年）には従五位上に昇進しました。

出家への転身

しかし、父である藤原師輔の死をきっかけに、高光は出家を決意します。同母弟である尋禅が師事していた比叡山延暦寺の横川の良源のもとで出家し、法名を如覚と改めました。当時、藤原氏の中心人物であった師輔の子息の出家は、世間に大きな衝撃を与え、『多武峯少将物語』をはじめとする多くの物語で語り継がれています。

多武峰での生活

出家後、高光は良源と尋禅との関係に馴染めず、翌年には横川を離れ、多武峰に移り住みました。多武峰では草庵を営み、静かな生活を送ったとされています。

人物

歌人として

『拾遺和歌集』をはじめとする勅撰和歌集に23首の歌が収録されており、家集として『高光集』が残されています。歌人としての才能は高く評価されており、後世にその作品が伝えられています。

逸話

『今鏡』には、高光が束帯着用の際に笏の代わりに懐紙を笏の形に畳んで所持していたという逸話が記されています。これは、彼の型にはまらない個性を示していると言えるでしょう。

官歴

天暦2年（948年）8月17日：昇殿
天暦9年（955年）11月22日：従五位下（中宮御給）
天暦10年（956年）3月14日：中務侍従
天徳2年（958年）正月19日：昇殿、閏7月：左衛門佐
天徳4年（960年）正月25日：右近衛少将
天徳5年（961年）正月7日：従五位上。正月25日：兼備後権介。12月5日：出家

系譜

父：藤原師輔
母：雅子内親王（醍醐天皇の第十皇女）
妻：藤原敦敏の娘
女子：昭平親王妃

妖怪退治の伝説

美濃国に現れた「さるとらへび」という妖怪を退治したという伝説が残されています。朝廷からの命を受け、高光は妖怪を討伐し、その功績は後世に語り継がれています。この伝説は、高光が武人としても優れていたことを示唆しています。

高賀六社

高賀山周辺には、高光が創建したと伝わる六つの神社（高賀六社）が存在します。

高賀神社（岐阜県関市）
那比新宮神社（岐阜県郡上市）
本宮神社（岐阜県郡上市）
星宮神社（岐阜県郡上市）
瀧神社（岐阜県美濃市）
金峰神社（岐阜県美濃市）

星宮神社と鰻の伝説

高光が星宮神社の辺りで道に迷った際、粥川谷の鰻が正しい道を教えたという伝説があります。また、善貴星という神が粥を施した地ともされ、その後の粥川では鰻の捕獲が禁じられました。粥川は「粥川ウナギ生息地」として国の天然記念物に指定されています。中流域には、高光が使用した矢を納めたとされる矢納ヶ渕があります。

その他の伝説

菅谷には、高光が草鞋を履き替えたとされる草鞋が森があり、高賀山の神が討伐のための矢を作るように命じたとされる矢作神社が存在します。矢作神社には、妖怪退治に使われた矢、木鉾、獅子頭が宝物として所蔵されています。

関連書籍

小久保崇明 編『多武峯少将物語 :本文及び総索引』笠間索引叢刊 笠間書院, 1972
新田孝子『多武峰少将物語の様式』風間書房, 1987.12
松原一義『多武峯少将物語 校本と注解』桜楓社, 1991.2
笹川博司『高光集と多武峯少将物語 本文・注釈・研究』風間書房, 2006.11

参考文献

* 市川久編『近衛府補任 第一』続群書類従完成会、1992年

もう一度検索