藤原高衡

藤原高衡：奥州藤原氏の異端児

藤原高衡（ふじわら の たかひら）は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけての武将で、奥州藤原氏の第3代当主・藤原秀衡の四男として生まれました。隆衡とも記されます。

生涯

本吉荘の荘司

高衡は、父・秀衡の存命中は陸奥国桃生郡の本吉荘の荘司を務めていました。本吉荘は、奥州藤原氏にとって重要な拠点であり、高衡の祖父である基衡が藤原摂関家領であったこの荘園の年貢増徴を拒否したことで知られています。この荘園は金が多く産出され、奥州藤原氏の外交を支えるだけでなく、気仙・磐井郡の海上権益を掌握し、陸奥北部の海岸地域を支配下に置くという重要な役割を担っていました。高衡以外の兄弟の名乗りが平泉内の地名に由来するのに対し、高衡だけが遠く離れた本吉荘の名を冠していることは、彼が秀衡の息子たちの中で特別な地位にあったことを示唆しています。

奥州合戦以前の動向

秀衡の死後、四代目となった次兄の泰衡は、源義経を討ち、高衡を除く他の弟たちを殺害しました。しかし、高衡は泰衡に殺害されず、義経の首を鎌倉へ持参しています。この行動は、高衡が本吉荘という重要な拠点を守る役割を担っていたこと、あるいは泰衡に同調し義経派と対立していた可能性を示唆しますが、確証はありません。

奥州合戦と降伏

奥州藤原氏と源頼朝の間で奥州合戦が勃発すると、長兄の国衡は戦死、泰衡は逃亡の末に家臣の裏切りによって滅亡しました。高衡は9月18日に下河辺行平を通じて降伏し、捕虜となりました。秀衡の息子たちの中で唯一、奥州合戦を生き延びた高衡は、鎌倉に護送された後、相模国に配流されましたが、後に赦免され、梶原景時の取り成しで鎌倉幕府の客将のような存在となりました。相模国は梶原氏の所領であり、景時が彼を取り成した背景には、この関係があったと考えられます。高衡は、関東武士団の統治が難しい気仙郡を任され、この地で統治を行いました。また、高衡の領地には、源頼朝の死後、北条時政らに追われた梶原一門が匿われたとされています。これは、頼朝が東北全域を支配できなかった証拠であり、高衡は統治のために生かされたとも考えられます。

建仁の乱と最期

奥州合戦から12年後、城長茂らが幕府転覆を企てた建仁の乱に高衡も参加しました。しかし、長茂の決起が失敗すると、高衡は離脱を図り、父・秀衡と親交のあった藤原範季の邸宅に逃げ込みましたが、結局仲間によって連れ戻され、幕府の追っ手によって討ち取られました。没年齢は正確には不明ですが、三兄・忠衡の生年と没年齢から推測すると30歳前後であったと考えられています。

本吉氏との関係

奥州の戦国大名として知られる葛西氏は、領内の大身者たちの反乱に苦しみましたが、その中で反抗を繰り返した本吉氏は、桓武平氏千葉氏の分かれであるとされています。一方で、高衡が「本吉四郎」と呼ばれていたことから、本吉氏の祖であるという説も存在します。この説によれば、本吉氏が居城とした志津川城は、高衡の家臣である志津見五郎が築いたとされ、本吉郡は奥州藤原氏系本吉氏が支配していたが、奥州合戦後に千葉氏系本吉氏が取って代わったと考えられています。

基盤地域について

高衡は本吉冠者あるいは本吉四郎と呼ばれており、宮城県沿岸北部の本吉地域を基盤としていたことがうかがえます。現在も、本吉地域には高衡に関する多くの伝承が残っています。例えば、南三陸町志津川にある朝日館跡は高衡の館跡と伝えられており、本吉金などの産出を管理する拠点でした。また、保呂羽山の山頂にある保呂羽神社は、高衡が尊崇したと伝えられています。さらに、志津川にある大雄寺は高衡によって開基されたとされています。これらの伝承は、高衡が本吉地域で大きな影響力を持っていたことを示しています。

嚢塵埃捨録の記述

江戸時代に成立した『嚢塵埃捨録』には、奥州合戦の際、高衡が日詰五郎頼衡、名取別当の金剛坊秀綱とともに高舘城に籠り、鎌倉軍を迎え撃ったとあります。しかし、『吾妻鏡』など他の史料では、この記述と矛盾する点が多く、史実かどうかは不明です。特に、高衡と共に籠城したとされる日詰五郎頼衡は、史実では奥州合戦前に死亡しており、また金剛坊秀綱も阿津賀志山の戦いで討ち取られたとされています。しかし、『吾妻鏡』の記述にも混乱が見られるため、高舘城の戦いに関する記録も一概に否定することはできません。

平泉志の記述

明治初期に著された『平泉志』には、高衡が奥州合戦で数箇所を転戦し、その武勇を頼朝に惜しまれて助命され、相模国に配流されたとあります。この記述は『吾妻鏡』にはない内容であり、後世の記録物であるため容易に信用はできませんが、頼朝が人物を見抜く目に長けていたことから、高衡の武勇を見抜き、助命したという可能性を完全に否定することはできません。高衡が院と繋がりがあった可能性も考慮すると、助命・配流という処分が下されたこともあり得ると考えられます。

その他

高衡は、霊峰として知られる田束山（たつがねさん）の祭礼を司っていたと伝えられています。田束山は秀衡が篤く信仰した山であり、高衡に祭礼を任せた背景には、この山を重要視していた秀衡の意向があったと考えられます。また、高衡は宇治川の戦いにおいて、梶原景季と佐々木高綱が先陣を争った際、両者が乗っていた名馬を進上した人物としても知られています。これらの逸話は、高衡が単なる武将としてだけでなく、文化的な側面も持ち合わせていたことを示唆しています。また、朝日館跡は高衡の居城であったと伝えられており、その後、葛西氏の一族である本吉氏の居城となりました。

高衡は、奥州藤原氏の中でも特異な存在であり、その生涯は謎に包まれています。しかし、彼の足跡は今もなお、本吉地域を中心に数多く残されており、その波乱に満ちた人生は、歴史の中で語り継がれています。

脚注

参考文献

『吾妻鏡』 - 鎌倉時代末期に編纂された歴史書。
梶原等『梶原景時：知られざる鎌倉本体の武士』新人物往来社、2004年。ISBN 4404031874。
佐々木紀一「出羽清原氏と海道平氏（上）」『米沢国語国文』第46巻、山形県立米沢女子短期大学国語国文学会、2017年12月、51-74頁、ISSN 0287-6833、NAID 120006797999。


関連項目

建仁の乱
梶原景時
梶原神社
早馬神社
梶原氏
専光房良暹
本吉氏

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