褚遂良

褚遂良（ちょ すいりょう）

褚遂良（596年 - 658年）は、唐代に活動した著名な政治家および書家であり、初唐の三大家として名を馳せました。彼の字は登善で、また河南県公から河南郡公に封じられたことから「褚河南」とも呼ばれています。褚遂良は太宗に仕え、その優れた諫言で知られ、後に高宗の教育にも貢献しました。しかし、武則天が皇后となることに反対したため、彼は不遇の時代を迎え、左遷されることになりました。

経歴

褚遂良は褚亮の子として生まれました。出身は杭州銭唐県で、本貫は河南郡陽翟県です。大業13年（617年）に薛挙が自立すると、その配下で通事舎人としての職務に就きました。武徳元年（618年）、父とともに唐に降伏し、秦王府で鎧曹参軍を担いました。貞観10年（636年）には秘書郎から起居郎へ昇進し、さらに魏徴の推薦により書道顧問となりました。

貞観18年（644年）、諫議大夫に就任し、太宗に対して深い信頼を受ける存在となりました。太宗の後継問題においては李治を推薦し、彼の傅役に任命されました。貞観23年（649年）には太宗の崩御に際して、高宗を補弼するよう遺詔を受け、死刑の回避権を得ることとなりました。その後、高宗の在位中に尚書右僕射に昇進し、長孫無忌や李勣と共に重要な役割を果たしました。

しかし、永徽6年（655年）に高宗が武則天を皇后に立てることを提案し、褚遂良はこれに強く反対しました。その結果、彼は武則天に恨まれ、死刑にされそうになりましたが、遺詔によりそれは免れました。最終的には潭州都督や桂州都督として左遷され、その後愛州へと流罪にされ、そこで亡くなりました。彼の二人の子、褚彦甫と褚彦沖も愛州に流され、殺害されましたが、神龍元年（705年）に彼の家族は名誉を回復されました。

書風（「褚法」）

褚遂良は、六朝期からの楷書を高度に完成させ、南派の虞世南、北派の欧陽詢の書風を取り入れながら独自の書風「褚法」を確立しました。特に彼の晩年の作品である『雁塔聖教序』は楷書の傑作とされ、後の書風に大きな影響を与えています。

一般的に彼の書は、力強さを特徴とする北派に属するとの見解がありますが、結体が扁平で安定感のある南派の特性も持っており、その分類に関する議論はあまり重要ではないと言われています。彼は王羲之の真書を学び、40代の作品には隷書の運筆法が見られ、50代の作品には躍動感に富んだ流麗なスタイルが特徴です。褚遂良の書は、その優雅さと変化の多様性において、初唐の三大家の中でも特に優れたものとされています。

作品

褚遂良の現在残っている主要な作品は以下の4つです。すべて楷書体で記されています。
1. 伊闕仏龕碑
貞観15年（641年）の作品で、洛陽南方の龍門にある石窟に刻まれた碑文です。
2. 孟法師碑
貞観16年（642年）の碑で、隋の女道士・孟法師に捧げられたものです。
3. 房玄齢碑
永徽3年（652年）に建碑され、唐の開国功臣に関する碑です。
4. 雁塔聖教序
永徽4年（653年）の作品で、玄奘の功績を讃える文が刻まれています。

他にも、「枯樹賦」や「文皇哀冊」、さらには「倪寛賛」といった作品も取り扱われています。これらの作品の多くは古くから名品として評価され、書道の歴史に名を刻んでいます。

脚注

褚遂良の生涯や業績に関する情報は、『旧唐書』や『新唐書』などの歴史書に記録されています。書道辞典や書道に関する専門書においても、彼の業績が確認されており、多くの文献から学ぶことができます。彼の影響は、書道だけでなく唐代の政治においても大きなものでした。

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