親衛隊経済管理本部

親衛隊経済管理本部（SS-WVHA）とは

親衛隊経済管理本部（SS-Wirtschafts-Verwaltungshauptamt, 略称SS-WVHA）は、ナチス親衛隊（SS）の経済部門を統合した組織です。日本語では「経済行政本部」とも訳されます。長官はオズヴァルト・ポール親衛隊大将が務めました。

沿革

オズヴァルト・ポールは1934年に親衛隊本部管理局局長に就任して以来、親衛隊の経済問題を主導してきました。1940年、親衛隊本部管理局は独立した本部（Hauptamt）となり、「予算及び建設本部（Hauptamt Haushalt und Bauten）」に改組されます。この組織は国家予算から資金を得ていたため、ポールは親衛隊企業の投機のため、党予算で運営される「管理及び経済本部」（Hauptamt Verwaltung und Wirtschaft）を別途創設しました。

1942年2月1日、これら2つの組織が統合され、親衛隊経済管理本部（SS-WVHA）が誕生しました。さらに、同年3月16日には、親衛隊作戦本部の管理下にあった強制収容所総監府がSS-WVHAの管轄下に移され、強制収容所総監リヒャルト・グリュックスがD部集団長に就任しました。この組織変更は、総力戦体制が強まる中で、強制収容所の役割が、危険人物の隔離よりも奴隷労働力の供給源として重要視されるようになったことを示しています。

経済管理本部は、強制収容所の運営にも責任を持つようになり、収容所囚人の所持品を強奪していました。ポールは、現金、金、時計、装飾品、眼鏡といった高級品をベルリンのWVHAに集めさせ、国立銀行に納めていました。ニュルンベルク裁判でのラインハルト作戦に関する記述によると、囚人からの強奪品は100万ライヒスマルクに達するとされています。

経済管理本部は、各親衛隊および警察指導者司令部に「経済指導者（Wirtschaftsführer）」を派遣し、親衛隊地方組織の経済問題を調整しました。1944年には、秩序警察本部が空襲で破壊されたため、それまで秩序警察が担当していた親衛隊と警察間の経済問題の調整権限もSS-WVHAに移されました。

組織図

親衛隊経済管理本部は、以下の組織で構成されていました。

長官: オズヴァルト・ポール親衛隊大将
A部集団、部隊管理: ハインツ・ファンスラウ親衛隊少将
AI部、予算: ハンス・レルナー親衛隊少将
AII部、財政及び給料問題
AIII部、法務: ヴァルター・ザルペター親衛隊上級大佐
AIV部、会計: ヨーゼフ・ホークト親衛隊大佐
B部集団、部隊経済: ゲオルク・レルナー親衛隊中将
BI部、食糧: エルヴィン・チェンチャー親衛隊上級大佐
BII部、衣料
BIII部、宿所
BIV部、原料及び調達部門
BV部、運輸: ルドルフ・シャイデ親衛隊大佐
C部集団、建設: ハンス・カムラー親衛隊中将
CI部、一般建築
CII部、特別建築: マックス・キーファー親衛隊中佐
CIII部、技術
CIV部、芸術
CV部、中央建築監督
CVI部、工事維持及び内部調整
D部集団、強制収容所: リヒャルト・グリュックス親衛隊中将
DI部、中央事務所: アルトゥール・リーベヘンシェル親衛隊中佐、ルドルフ・ヘス親衛隊中佐
DII部、労働配置: ゲルハルト・マウラー親衛隊大佐
DIII部、保健及び収容所衛生: エンノ・ロリンク親衛隊大佐
DVI部、収容所管理: アントン・カイントル親衛隊中佐、ヴィルヘルム・ブルガー親衛隊大佐
W部集団、経済: オズヴァルト・ポール親衛隊大将
WI部、ドイツ採石場（DESTなど）
WII部、東部採石場
WIII部、食品企業
WIV部、製材
WV部、農業
WVI部、織物・皮革
WVII部、書籍・絵画
WVIII部、特殊任務

W部集団は特に重要な部門で、強制収容所の囚人をどこで働かせるかを決定する権限を持っていました。囚人の奴隷労働力は、軍事基地建設や、IG・ファルベン、ハインケル、ユンカース、クルップ、メッサーシュミットなどの大手企業に貸し出されました。さらに、W部集団は全ドイツに500を超える親衛隊企業を経営していました。ドイツ土石製造有限会社（DEST）やドイツ装備製造有限会社（DAW）などが代表的です。独ソ戦後には、ソ連占領地の企業も傘下に入りました。

その他の活動

映画『シンドラーのリスト』には、オスカー・シンドラーがユダヤ人を故郷に連れ帰る際、親衛隊員に対し「W部門の規則では、正当な理由なしに労働者を殺害することは違法である」と述べるシーンがあります。これは事実に基づいた描写ですが、人道的な配慮からではなく、ドイツ軍需産業の維持を目的としたものでした。

参考文献

栗原優『ナチズムとユダヤ人絶滅政策 ホロコーストの起源と実態』ミネルヴァ書房、1997年。
ラウル・ヒルバーグ 著、望田幸男・原田一美・井上茂子 訳『ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅 上巻』柏書房、1997年。
ラウル・ヒルバーグ 著、望田幸男・原田一美・井上茂子 訳『ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅 下巻』柏書房、1997年。
* 山下英一郎『制服の帝国 ナチスSSの組織と軍装』彩流社、2010年。

外部リンク

The Building today (former WVHA (at Berlin Lichterfelde) and Informationsdesks (1999; R. Golz)

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