議会の大諫奏

議会の大諫奏（Grand Remonstrance）

1641年、イングランド議会がチャールズ1世に対して提出した「大諫奏（Grand Remonstrance）」は、議会と国王の対立を決定的なものとし、清教徒革命（イングランド内戦）へと繋がる重要な出来事でした。

背景：チャールズ1世の専制政治

チャールズ1世は、父ジェームズ1世と同様に王権神授説を信奉し、議会との対立を深めていました。議会の承認を得ない課税、反対派の投獄、外交の失敗などにより、議会の不満は増大。特に、寵臣バッキンガム公の失政と、その後のカンタベリー大主教ウィリアム・ロードによる宗教政策は、議会との溝をさらに深くしました。

1628年には「権利の請願」が提出され、課税には議会の承認が必要であることが定められました。しかし、チャールズ1世はこれに従わず、1629年に議会を解散し、専制政治を敷きました。この間、チャールズ1世は議会承認のない課税を強行し、ロードの助言により国教会による国家統一を推し進め、ピューリタンを弾圧。スコットランドにも国教を強制したため、1638年にはスコットランドで反乱が勃発しました（主教戦争）。

大諫奏の内容

主教戦争の戦費調達のため、チャールズ1世は1640年に議会を再召集しますが、議会は国王批判の場と化しました。専制の責任者としてストラフォード伯とロードが投獄された後、議会は専制を制限する立法を進めました。しかし、教会制度改革をめぐり議会内に亀裂が生じ、アイルランドでカトリック住民の反乱が発生すると、軍の統帥権をどちらが持つかを巡って再び対立が激化しました。

そこで議会は、ジョン・ピム、ヘンリー・ベイン、オリバー・クロムウェルらを中心に「大諫奏」を作成しました。この抗議文は、チャールズ1世の悪政を詳細に告発するものでした。その内容は以下の通りです。

国王と国民の間の不信と争いの増大
純粋な宗教の抑圧
カトリック・アルミニウス主義者・異端者の育成
議会によらざる国王財政の確保

具体的には、

スペインとの和平策
兵隊の民宿
消費税、船舶税、騎士強制金などの不法な課税
議員の不法な投獄
一般取引の制限、禁止、独占
星室庁の圧政
違法な裁判
コモン・ローの放棄
官職売買
主教の専制と抑圧
ロードの専制化、高等宗務官裁判所の権限拡大
国王権力の絶対化
スコットランドへの国教強制
アイルランドにおける弾圧
ロンドン市に対する強制金
ローマ化への計略
カトリック的陰謀

など、チャールズ1世の専制政治と悪政を204条にわたって具体的に列挙しました。さらに、議会改革の成果を並べた後、悪政防止のためのさらなる改革を提案しました。具体的には、

ストラフォード伯を始めとする重臣、廷臣の弾劾
3年会期法の制定
星室庁および高等宗務官裁判所の廃止
教会および主教権力の抑制
森林境界の復元
騎士強制金の是正
王室収支の健全化

これらを踏まえ、国王の外交・官吏任命権に議会の同意を求め、カトリック監視のための常任委員会設置を提案しました。これらは、議会が国王大権を制限し、議会主権を確立しようとする意図を明確に示していました。

大諫奏の提出と不成立

この急進的な内容のため、大諫奏は議会内で意見が分かれ、159対148という僅差で下院を通過しました。その後、チャールズ1世に提出されましたが、拒否されたため法案として成立しませんでした。この出来事により、議会は王党派と議会派に分裂し、対立はさらに激化しました。

清教徒革命へ

議会はその後も軍統帥権を巡って国王と対立を続け、チャールズ1世は議会派の主要人物を逮捕しようと試みましたが失敗。1642年3月に議会は民兵条例を可決、6月には制限君主制を求める「19か条提案」をチャールズ1世に提示しましたが、これも拒否されました。これにより、国内は国王軍と議会軍に分かれて内戦が勃発し、イングランド全土を巻き込む清教徒革命（第一次イングランド内戦）へと発展しました。



大諫奏は、チャールズ1世の専制政治に対する議会の強い反発を示すものであり、後の清教徒革命、そしてイギリスにおける議会政治の確立への重要な一歩となりました。

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