議会制民主主義党

議会制民主主義党（PDP）

議会制民主主義党（Parliamentary Democracy Party、略称：PDP）は、1969年8月にミャンマーの元首相ウー・ヌによって設立された政治組織です。ミャンマー語では「ပါလီမန်ဒီမိုကရေစီပါတီ」と表記されます。

結成の背景

1962年3月2日、ネ・ウィン将軍が主導した軍事クーデターにより政権を追われたウー・ヌは、裁判を受けることなく拘束され、投獄されました。1966年10月になり、ようやく彼は釈放されます。

その後、ネ・ウィンは1968年11月29日、ウー・ヌを含むかつて政治に携わった33名を招集し、国家統一策と新憲法への反映を目的とする国内統一諮問委員会を設置しました。この委員会で、ウー・ヌはネ・ウィンへの権力返還要求や暫定議会設置などの提案を行いましたが、承認されませんでした。これを受け、ウー・ヌは1969年4月に委員会を離脱し、表向きはインドへ巡礼の旅に出ますが、密かに軍事政権打倒の計画を進めていました。

彼の計画には、かつてクーデターで投獄され、6年間獄中でネ・ウィン打倒策を練っていた英字新聞「ネイション」の創刊者エドワード・ローヨンが深く関わっていました。ローヨンは退役軍人と少数民族武装勢力を結集した武装組織の結成、国民を扇動する僧侶の活用、そして西側諸国からの支援獲得を目指し、国民的人気の高い敬虔な仏教徒であるウー・ヌが必要不可欠な存在でした。釈放されたローヨンはネ・ウィンとの面談に成功し、パスポート発行などの協力を得ますが、海外への資産持ち出しの意図を伝えた際にはネ・ウィンの表情が硬くなったとされます。

ウー・ヌはまず、元国軍ナンバー2で当時喫茶店を経営していたアウンジーに協力を求めましたが、「国軍はネ・ウィンに忠誠を誓うだろう」として断られました。また、元外務大臣サオ・クンキオや元カレンニー州議長サオ・ウンナにも接触しましたが、彼らからも協力を拒否されました。サオ・ウンナは「戦争で国軍に挑むことは不可能」と警告したと伝えられています。しかし、ボー・レッヤやボー・ヤンナインといった元「30人の同志」たちは計画に賛同し、インドでウー・ヌと合流しました。合流予定だったボー・セチャは直前に亡くなっています。

党の結成と組織体制

その後、ウー・ヌはイギリスに渡り、1969年8月29日、ロンドンで記者会見を開き、ネ・ウィン政権を武力で打倒するための議会制民主主義党（PDP）結成を発表しました。声明では、1962年のクーデターの違憲性、新エリート層による国民搾取、そして武力行使の必要性を訴え、国民への誓いを述べました。

PDPはタイのバンコクに本部を設置し、ウー・ヌを筆頭にミャンマー国内外の著名人を含む体制を構築しました。ネ・ウィンの弾圧から逃れたカレン族政治家による民族解放評議会（NLC）や、ヤンゴンの銀行支店長イェチョートゥーからの支援を受け、中産階級の若い民主化活動家グループや学生部隊を中核とする武装組織「愛国解放軍（PLA）」を結成しました。PLAは、元駐米大使の子息ティンマウンウィンや、元ヤンゴン大学生デヴィッド・ゾートゥンらが率いました。

軍資金については、ヤンゴン占領後に独占的石油採掘権を与える条件でカナダ企業から数百万ドルを受け取ったとされるほか、反共の防波堤としての価値を見出したCIAから資金提供を受けていたとの説もあります。元CIA職員ウィリアム・ヤングや、著名な医師ゴードン・シーグレーブの息子スターリング・シーグレーブらがウー・ヌを支援したと伝えられています。

一方、ネ・ウィンはウー・ヌの動きを軽視しており、「国外にいる方が危険でない」「勝算も資金もなく、空っぽの箱だ」と述べたといいます。ウー・ヌの記者会見声明は、皮肉にも政府刊行物にも掲載されました。

民族統一解放戦線（NULF）の結成と活動

PDPは武装勢力との連携を模索しましたが、ウー・ヌの過去の政策（仏教国教化、国境画定問題）からカチン独立軍（KIA）には拒否され、カレンニー民族進歩党（KNPP）もウー・ヌ指示による指導者殺害を主張して協力を拒否しました。

協力関係を結べたのは、かつてコーカン革命軍を率いたジミー・ヤンや、チン民主党など一部の勢力でした。特にジミー・ヤンは泰緬孤軍の司令官から資金援助を引き出すことに成功しました。

1970年5月25日、ウー・ヌはカレン民族同盟（KNU）のマン・バザン、新モン州党（NMSP）のナイ・シュエチンと共にバンコクで記者会見を開き、民族統一解放戦線（NULF）の結成を発表しました。NULFは「大ビルマ主義」のネ・ウィン政権打倒と、すべての民族が平等かつ公正な原則に基づいて自治権を持つ連邦共和国樹立を目標としました。連邦は既存の州に加え、モン州、アラカン州、チン州を新設する構想でした。PDPからKNU、NMSPへの資金提供があったとされますが、NMSPでは資金使用を巡る内紛が生じ、組織分裂の原因ともなりました。

PLAは北部、中部、南部に司令部を設け、タイの闇市場で兵器を調達し、都市の若者や村の少年兵をリクルートして軍事訓練を行いました。兵力は最盛期に約6,000人に達したと言われています。反ネ・ウィンプロパガンダ放送を行うラジオ局を開設したり、金貨を鋳造して「解放区」の通貨と主張し、海外に配布したりもしました。

PLAはKNUやNMSPの軍事部門と共に、国軍の前哨基地への攻撃、鉄道や送電線の破壊といったゲリラ活動を展開しました。PDPの発表によれば、数年間にわたり多数の戦闘が発生し、国軍に大きな損害を与えたとされます。特にバルーチャン水力発電所からの送電線爆破は、ヤンゴンでの停電を引き起こしました。

組織の衰退と終焉

しかし、PDPの抵抗には限界がありました。期待された国軍兵士の合流は少なく、ヤンゴン上空からのビラ撒きも効果がありませんでした。ウー・ヌが少数民族武装勢力と同盟を組んだことは、ビルマ族中心の国民の不評を買っていました。また、KNUの司令官たちはビルマ族兵士の自領内立ち入りに消極的で、KNU内部で兵士処刑事件が発生するなど、連携は円滑ではありませんでした。

さらに、ウー・ヌを含む多くのPDP幹部がジャングルでの活動に加わらず、バンコクの高級ホテルで贅沢な生活を送っていたことが、兵士たちの反感を招きました。1972年4月、KNU幹部が連邦構想におけるカレン州の分離独立権を主張した際、ウー・ヌはこれに反対し、PDP議長を辞任しました。これにより、事実上PDPの活動は終焉を迎えましたが、一部の司令官は組織維持のために活動を続けたといいます。

人民愛国党への改名と末期

1972年にはPLAがビルマ共産党などとの合同部隊に敗北し、年末にはボー・ヤンナイン率いるPLA南部部隊が壊滅的な損害を受けました。1974年3月にはNULF部隊がミャワディ攻略に失敗し、NULFから離脱する勢力も現れました。

同年、士気を高める目的でPDPは人民愛国党（People’s Patriotic Party：PPP）に改名しましたが、組織の衰退は止まりませんでした。バースエら多くの指導者が離脱し、ボー・ヤンナインはKNUとの金銭問題で追放されるなど、組織は分裂しました。ティンマウンウィンは連邦団結党（USP）を、ボー・ムアウンは反ファシスト人民統一党（AFPUP）を結成するなど、離合集散が進みました。綱領やルールを失った組織は、司令官の私兵化が進み、資金繰りにも窮し、闇商人からの通行税徴収などで生計を立てる状態となりました。

ボー・レッヤとトゥインに率いられたPPP部隊のみが軍事活動を続け、ミャンマー南部の政府機関を標的としたゲリラ攻撃を展開しました。しかし、これらの攻撃は民間人にも死傷者を出し、かえってPPPに対する市民のイメージを悪化させました。ヤンゴンでの反政府デモとの連携も限定的でした。1976年には主要幹部のタイ入国が禁止され、タイからの支援も途絶えました。

1978年後半にはPPP内部で派閥争いが発生し、内ゲバ鎮圧に入ったKNLAとの銃撃戦でボー・レッヤが死亡しました。1980年の恩赦により、多くのPPP指導者が政府に投降するか、海外へ亡命し、組織は事実上消滅しました。トゥインのみがKNUと関係を保ち、PPPの残党を率いて細々と活動を続けました。

その後の元PDP指導者たち

8888民主化運動に先立つ1987年、海外に亡命した元PDP指導者らがビルマ民主主義回復委員会（CRDB）を結成し、海外で反政府活動を行いました。1988年の8888民主化運動の高まりを受け、ウー・ヌは単独で民主平和連盟（LDP）を結成し、元PDP・AFPFLの同志が多数参加しました。しかし、ウー・ヌの暫定政府樹立宣言は他の民主化指導者から距離を置かれる結果となり、若い世代との断絶から運動の主導権を握れませんでした。LDPは1990年の総選挙で議席を獲得できず、惨敗しました。

CRDBの一部メンバーは元NULFメンバーとの連携を試みましたが、過去の経緯からKNU指導者に拒否されました。また、ウー・ヌの息子ら元PDP関係者がビルマ民主団結同盟（ADSUB）を結成しましたが、参加者が少なく、短期間で自然消滅しました。PPPの残党はビルマ民主同盟（DAB）に参加しましたが、こちらも加盟組織の停戦により有名無実化しました。

こうして、都市部の中産階級の支持を受けた民主化運動の潮流は、アウンサンスーチー率いる国民民主連盟（NLD）に取って代わられ、ウー・ヌや元PDP指導者たちの運動は歴史の表舞台から姿を消しました。

もう一度検索