賈堅

賈堅（か けん）

賈堅（生年不詳 - 358年）は、五胡十六国時代の前燕に仕えた人物。字は世固（せこ）。勃海郡出身の漢民族であり、祖父と父はともに晋に仕えていた。

生涯

賈堅は、後趙に仕え、殿中督（近衛兵を統率する役職）にまで昇進した。350年、冉閔が帝位を簒奪して魏を建国すると、賈堅は冉閔によって章武郡太守に任じられた。しかし、賈堅はこれに応じず、郷里の勃海に戻り、数千の兵を糾合して自立した。

同年9月、前燕の輔弼将軍慕容評が勃海に到来すると、使者を派遣して賈堅を招聘したが、賈堅は決して降らなかった。慕容評が攻め寄せると、高城においてこれを阻んだが、敗れて捕らえられた。

皇帝慕容儁は賈堅の才能を愛し、罪を許して仕官させた。輔国将軍慕容恪もその才能を高く評価し、賈堅は楽陵郡太守に任じられ、引き続き高城を統治した。この時、すでに60歳を超えていたという。

351年11月、前燕の将軍逄約が勃海へ逃亡すると、衆を集めて前燕に反旗を翻した。賈堅はこれを聞くと、人を派遣して郷里の民を諭し、その利害を説いた。これにより逄約の衆は散亡し、賈堅の下に集った。

後に泰山郡太守に任じられ、山茌に駐屯した。

358年12月、東晋の徐兗二州刺史荀羨は、前燕の防備が手薄なのを見て討伐軍を興し、山茌へも襲来した。この時、賈堅の兵はわずか七百であり、東晋軍はその十倍以上であった。賈堅が出撃しようとすると、諸将はみな「兵は少なく、固守すべきです」と諌めたが、賈堅は「守りを固めても免れることはできない。それならば、むしろ出撃して戦うべきである」と反論した。こうして出撃すると、賈堅は率先して戦い、荀羨の兵千人余りを討ち取ってから城へ帰還した。

荀羨が進軍して城を包囲すると、賈堅は「私は成人して以来、功名を打ち立てることを志してきたが、こうなってしまったのも運命であろう。屈辱の中で生き永らえるより、節を保って死ぬべきであろう」と嘆息し、将士に向かって「今や困窮して計を施すこともできなくなってしまった。お前たちはここを去るように。私はここに留まって死ぬであろう」と告げた。これを聞くと、将士らはみな「府君（賈堅）が去らないのならば、その衆が去るわけにはいきません。共に死ぬだけです」と涙を流し、賈堅へ乗馬するよう促した。賈堅は「私は逃れようとしても叶わぬであろう。今一度、お前たちと共に決戦に臨むが、もし防ぎきれなければ、私を顧みずに去るように」と述べると、遂に開門して出撃した。荀羨の兵が群がってくると、賈堅は橋の上に馬を立て、左右へ矢を放って敵兵を次々に射貫いた。しかし、荀羨の兵数は多く、彼らは橋を切り落として賈堅を捕らえ、城を攻め落とした。

荀羨は賈堅へ「君の祖父や父は代々晋の臣下であった。にもかかわらず、どうして大本に背いて降伏しなかったのか」と問うと、賈堅は「晋が中華を棄てたのであり、私が叛いたわけではない。民は主を失ったために、強者にその命を託したのだ。どうして容易に節を改めることなどできるというのか。私は身を起こし、趙から燕の時代に至るまで志を変えてなどいない。それなのに、汝はどうして降伏など口にする」と返した。荀羨がさらにこれを詰ると、賈堅は怒って「豎子（若造の意）め。この乃公（目下の者へ向けて使う一人称）が児女の思い通りになると思うのか」と言い放った。荀羨は怒って賈堅を雨中に晒し、数日に渡り食事を与えなかった。賈堅は悲憤の余り亡くなったという。

後に前燕の青州刺史慕容塵は司馬悦明を救援に向かわせ、荀羨を大敗させて山茌を奪還した。慕容儁は賈堅の子である賈活を任城郡太守に任じた。

人物

幼い頃から気概を有し、節操があることで評判であった。また、弓術に長けており、三石余りの弓を使いこなすことができたという。

逸話

慕容儁は賈堅が射術に長けていると聞き、その腕前を試そうと思った。これを受け、慕容恪は百歩の距離に牛を置くと、賈堅に射るよう命じた。慕容恪が「命中させる自信はあるかね」と問うと、賈堅は「若い頃は当たらないこともありましたが、年老いた今では命中させることなど造作もありません」と答えたので、慕容恪は大笑いした。いざ矢を放つと、一本目は背をかすめ、二本目は腹をかすめており、いずれも毛だけを射抜いていた。慕容恪が「命中させることはできないのかね」と問うと、賈堅は「不中こそが奇であって、命中させることにどのような困難があるというのです」と言い、一発で牛の中心に命中させた。賈堅は60歳を超えており、これを見た者たちはその精妙さに感服した。この話は、『附膚落毛』という故事成語になっている。

慕容儁は賈堅に年齢を尋ねると、賈堅は「新たに命を得てから三年になります」と答えた（当時賈堅は前燕に仕えて三年が経過していた）。慕容儁はこの発言に満足し、大いに喜んだ。

参考文献

『晋書』「慕容儁載記」巻110（載記第10）
『資治通鑑』巻99 - 巻100
* 『十六国春秋』巻32

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