賢俊

賢俊：室町幕府を支えた真言宗の僧侶

賢俊（けんしゅん、1299年 - 1357年）は、鎌倉時代後期から南北朝時代にかけての真言宗の僧であり、歌人としても名を残しています。権大納言日野俊光を父に持ち、足利尊氏の腹心として、室町幕府の成立に大きく貢献しました。

生涯

正安元年（1299年）に生まれた賢俊は、醍醐寺宝池院流の賢助に師事し、密教を学びました。元弘の乱では、持明院統の皇族が避難していた六波羅探題において、五壇法を行う賢助を補佐しました。その後、師である賢助の死後、その跡を継ぐこととなります。

建武の乱では足利尊氏方につき、光厳上皇の院宣を尊氏に伝えるなど、幕府成立に大きく貢献しました。室町幕府の初代武家護持僧となり、絶大な権勢を誇りました。醍醐寺座主を22年間務め、東寺長者などの要職も歴任し、寺院社会に大きな影響力を持つようになりました。尊氏からの信頼も厚く、その関係を示す手紙や願文が残されています。

延文2年（1357年）に59歳で入滅。その際、洞院公賢から「栄華を極め、公家・武家ですら彼に匹敵する権勢を持つ者がいない」と評されました。

文化財と歌人としての側面

賢俊の著作である『紙本墨書賢俊日記』と『紙本墨書弘法大師二十五箇條遺告賢俊筆』は、重要文化財に指定されています。また、歌人としても才能を発揮し、『風雅和歌集』をはじめとする勅撰和歌集に10首が入集しています。

文観房弘真との関係

賢俊と、南朝側の僧侶である文観房弘真との関係については、伝統的に対立関係にあったとされてきました。しかし、近年では、両者は必ずしも対立していたわけではなく、緩やかな協調関係にあったとする説も出てきています。例えば、賢俊は文観から付法を受けていたという記録や、文観が醍醐寺の重宝を持ち出した際に、賢俊がそれを阻止しようとした形跡がないことなどが根拠として挙げられています。南北朝という時代の中で、それぞれの立場を守りながら、ある程度の協調関係を保っていた可能性も考えられます。

没後の影響

賢俊の死後、彼が力を入れていた三宝院は一時的に衰退しますが、足利義満の庇護によって再び発展を遂げることになります。

まとめ

賢俊は、室町幕府の成立に大きく貢献し、真言宗の僧侶として、また歌人としても才能を発揮した人物です。彼の生涯は、南北朝時代の政治や宗教、文化を理解する上で重要な役割を果たしています。

参考資料

内田啓一『文観房弘真と美術』法藏館、2006年。
内田啓一『後醍醐天皇と密教』法藏館、2010年。
田中久夫「賢俊」『国史大辞典』吉川弘文館、1997年。
兵藤裕己『後醍醐天皇』岩波書店、2018年。

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