篠原長房

篠原長房とは

篠原長房（しのはらながふさ）は、戦国時代の武将であり、三好氏の家臣として阿波国（現在の徳島県）を拠点に活躍しました。篠原長政の子として生まれ、三好長慶の弟・三好実休の重臣として、その才能を発揮しました。阿波国麻植郡上桜城主として、地域を統治する一方、軍事面でも手腕を発揮し、三好氏の勢力拡大に貢献しました。能吏としての側面を持ちながら、戦場においても勇猛果敢に戦い、その生涯は激動の戦国時代を象徴しています。

三好実休の重臣として

篠原氏は「三好千満（実休）内者」と呼ばれる家臣団の筆頭格であり、長房は実休の側近として活躍しました。天文22年（1553年）に実休が阿波国守護・細川持隆を討ち下剋上を果たすと、長房もこれに従い、実休の指揮下で各地を転戦しました。播磨国や摂津・山城、讃岐国など各地で戦功を挙げ、その名を轟かせました。永禄2年（1559年）には、蓮如の孫にあたる教行寺兼詮の娘を妻に迎え、勢力を拡大しました。

永禄4年（1561年）からの畠山高政・根来寺との戦いでは、実休に従い和泉国に出陣し、久米田の戦いでは先陣を務めました。しかし、この戦いで実休が討死すると、長房は混乱した軍勢をまとめ上げ、退却を成功させました。その後、三好長慶の指揮下で教興寺の戦いにて高政を破り、実休の仇を討ちました。久米田の戦いの後、長房は出家し、岫雲斎怒朴と号しました。

三好家内紛と信貴山城の戦い

実休の死後、阿波の国主は嫡男の三好長治が継ぎましたが、幼少であったため、長房が一族とともに長治を補佐しました。永禄7年（1564年）に長慶が亡くなると、長房は三好長逸・松永久秀らと協力し、三好家の立て直しを図りました。しかし、畿内の三好宗家では内紛が勃発し、長房は足利義栄を擁立し、四国勢を率いて畿内に上陸しました。

長房は三好三人衆と連携し、松永久秀と対立しました。越水城を拠点に各地を転戦し、松永勢と激しく戦いました。永禄11年（1568年）には、足利義栄の将軍就任を祝う宴に出席し、三人衆と共に信貴山城を攻略するなど、勢力を拡大しました。この頃の長房は、フロイスの『日本史』にも「三好三人衆以上の勢力を持ち、阿波国で絶対的な権力を持っていた」と記されており、三好氏を支える重要な人物でした。

織田信長の上洛と野田城・福島城の戦い

しかし、同年、織田信長が足利義昭を擁して上洛すると、長房らの勢力は急速に衰退しました。信長の勢いに押され、長房は越水城を放棄して阿波国へ逃れました。足利義栄の病死、松永久秀と三好義継の信長への臣従など、状況は悪化の一途をたどりました。その後、長房は阿波で再起を図り、三好三人衆とともに和泉国に上陸し、本圀寺を襲撃しましたが、信長方の反撃にあい、再び阿波国に退きました。

元亀元年（1570年）、長房は三好康長や三人衆とともに摂津に上陸し、野田城・福島城を築城しました。信長はこれに対し遠征し、両城を攻めましたが、石山本願寺の参戦もあり、三人衆は持ちこたえました。しかし、信長が浅井・朝倉軍との戦いに専念するため撤退すると、長房は本願寺と盟約を結び、阿波・讃岐の軍勢を率いて再び畿内に上陸しました。しかし、松永久秀の仲介で信長と和睦することとなりました。

本太城、高屋城、高槻城の戦い

四国に戻った長房は、元亀2年（1571年）に安富盛定に娘を嫁がせ、讃岐での地盤を強化しました。浦上宗景の求めに応じ備前国にも出兵し、小早川隆景の兵を破りました。その後、長房は再び畿内に上陸し、高屋城を攻めました。荒木村重や池田知正と協力して茨木城や郡山城を落とし、高槻城を包囲しましたが、信長の仲介で和睦しました。

長房は三好家の中でも優れた才能を持ち、軍事・政治の両面に通じていたため、周囲から嫉妬されることもあったと伝えられています。

上桜城の戦いと篠原氏滅亡

長房は、三好長治の母である小少将と対立し、上桜城に引き籠もるようになりました。小少将は、長房の補佐役であった篠原自遁と親しくなり、長房を疎むようになったとされます。長房が政務を正し、小少将の不義を諌めたことが、長治との対立につながったとも言われています。

元亀4年（1573年）5月、長房は長治・真之に上桜城を攻撃され、激しく抵抗しましたが、7月16日に長重とともに戦死しました。篠原自遁の讒言が原因であるとされています。一方、十河存保が織田信長と接触し、長房が対織田戦を主導していたため、阿波三好家から排除されたという見方もあります。

長房の妻と子供たちは、紀伊国に落ち延び、後に豊臣秀吉の家臣として仕えた者もいたとされています。長房の死後、上桜城は廃城となり、長房を討ち取った川島惟忠が川島城を築城しました。

信仰と宗教

フロイスは長房を、キリスト教に理解のある人物と評しており、その権力を非常に強力なものと見ていました。長房自身はキリスト教に入信しませんでしたが、深く理解し、宣教師たちを庇護しました。また、フロイスが京都に戻れるように、三好義継や三人衆に働きかけたとも伝えられています。長房の家臣にはキリシタン武士の武田市太夫がおり、長房のキリスト教への寛容な態度は、彼の影響を受けていたと考えられています。

一方、長房の後室は本願寺と関係が深い教行寺実誓の娘であり、上桜城の戦いでは、雑賀衆が長治側について長房を攻撃しているという事実も、宗教的な背景が複雑に絡み合っていたことを示唆しています。

篠原長房の死とその後

篠原長房は、戦国時代を駆け抜けた武将であり、三好氏の最盛期を支えた重要人物でした。しかし、主家との対立により非業の死を遂げました。彼の生涯は、戦国時代の武将の栄枯盛衰を物語っており、歴史にその名を刻んでいます。

脚注

注釈

出典

参考文献

今谷明『戦国三好一族』洋泉社、2007年。
若松和三郎「篠原長房雑考」（『ふるさと阿波』74号から82号に収録）
若松和三郎『戦国三好氏と篠原長房』戒光祥出版〈中世武士選書シリーズ17〉、2013年。ISBN 978-4-86403-086-1。

関連作品

三日木人『三好長慶の遺命ー篠原長房士魂録ー』（郁朋社、2021年10月。ISBN 978-4-87302-744-9）