軍用列車

軍用列車とは

軍用列車とは、軍隊が鉄道を利用して兵士、兵器、物資を前線へ輸送するために運行する列車のことです。鉄道は、トラックなどの他の兵站輸送手段とは異なり、空襲などから逃れることが難しいため、軍用列車には対空砲などの自衛用の火器が搭載されることがあります。また、鉄道及び沿線の防衛に特化したものを装甲列車と呼びます。軍用列車のために敷設された鉄道は軍用鉄道（軍用線）と呼ばれ、現在でも廃線跡として残っている場所があります。

軍用列車は、占領地などで専用に敷設された鉄道路線を用いるものと、既存の鉄道インフラを転用するものがあります。

歴史

1802年にリチャード・トレビシックが蒸気機関車を発明して以来、各国の軍部は軍事用に鉄道を利用する研究を続けました。しかし、19世紀中頃になるまで実用化には至りませんでした。これは、輸送機器があってもインフラとしての鉄道網が整備されていなかったこと、初期の蒸気機関車の牽引能力が低く、輸送できる量が限られていたことが原因です。技術改良が進み、軍が満足できる輸送力が得られるようになったのは、鉄道誕生から約半世紀後のことでした。

最初に軍事に鉄道を利用したのはプロイセン王国（後のドイツ帝国）で、1846年のこととされています。その後、クリミア戦争や南北戦争で鉄道が広く利用され、南北戦争では最初の列車砲である13インチ列車臼砲が登場しました。

明治時代の日本でも、鉄道の軍事利用は当初から考慮されていました。敵の艦砲射撃を避けるため、東海道本線は海岸沿いを避け、内陸の御殿場回りで線路が敷設されました。「敵の攻撃に対して脆弱である」との理由で電化にも反対されましたが、輸送効率の問題から昭和時代に路線は熱海経由の海岸沿いとなり、電化も実現しました。また、日露戦争に備えて内陸沿いに路線が移された小倉裏線のような専用の軍用路線や、軍用駅として足立軍用停車場が建設されました。しかし、平時には利用価値が低いこれらの施設は、1916年に廃止されています。

運行

軍用列車の運行情報は機密扱いになることがあります。盧溝橋事件の後、日本国鉄は兵員などの輸送を優先的に行いました。戦力の移動は軍事機密に関わるため、当時は一般には詳しく知らされていませんでしたが、1936年から1942年の間に軍用品の輸送実績が25倍に増加したのに対し、生産用物資と生活必需品以外の一般物資の輸送は減少しました。また、この頃に時刻表が陸軍式の24時間表記に改められました。

主な輸送物資

軍用列車で輸送される物資は、梱包された貨物が中心です。兵器類が搭載されている場合でも、自衛用に設置されているものを除き、即座に使用可能な状態ではありません。この点が装甲列車との違いです。

物資の輸送形態がコンテナ化されていない場合、積み卸しに手間がかかります。第二次世界大戦中のVI号戦車などは、車両限界をクリアするために、無限軌道を鉄道輸送用に交換する必要がありました。

主な輸送物資は以下の通りです。

将兵: 戦闘部隊、補充兵、休暇で後送される将兵、負傷した傷病兵、戦死者の遺体・遺骨
弾薬: 砲弾、銃弾、グレネードなど
糧秣: 麦、米、肉、野菜などの食料品、酒などの飲料、缶詰やレーションなどの加工食品
燃料: ガソリン、軽油など。液体ロケット燃料のような特殊なものも。かつては薪や石炭のような固形燃料も
動物: 軍馬、軍犬、軍鳩など。牛や豚などの家畜類も輸送されることがある
建設資材: 鉄鋼、材木、セメントなどの建築材料
医薬品: 薬品や医療機器など。軍医が乗務する病客車を連ねた、移動病院的な医療専門の専用列車は病院列車となる
火器: 大砲やミサイルなどの重火器、機関銃以下の小火器
軍用車両: 戦車や装甲車などの装甲戦闘車両、トラックやジープのようなソフトスキン
郵便物: 軍用郵便。検閲は積み込まれる前に済んでいる

その他、前線に娯楽を届ける慰問団として民間人や軍属を運んだり、捕縛した捕虜を後送する捕虜護送列車などもあります。

見送りと群衆事故

出征する兵士を乗せた軍用列車の見送りは、親族や地域住民にとって大きなセレモニーでした。日本では戦時色が強くなるにつれて規模が拡大し、しばしば群衆事故を招きました。

1934年1月8日 - 京都駅構内で、海軍に入隊する新兵を見送るために集まった人垣で将棋倒しが発生。死者77名、重軽傷者74名。
1937年10月27日 - 横浜駅を出発する軍用列車を見送る人々が並走する京浜線内に侵入。京浜線の急行電車に100余人がはね飛ばされ、死者26人。
* 1939年7月27日 - 戸塚駅近くの日本光学工場裏手の駅構内線路内で、同社社員約500人が同僚の見送りを行っていたところに準急列車が進入。15人が死傷。

軍用列車は、戦時下における人々の生活と深く結びついていたのです。

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