近鉄特急史

近鉄特急史

近鉄特急は、近畿日本鉄道（近鉄）における優等列車の発達史であり、日本の私鉄特急の歴史においても重要な位置を占めています。ここでは、その沿革と、競合関係にあった国鉄・JRの列車についても触れていきます。

近鉄の発足までの優等列車（戦前）

大阪電気軌道（大軌）の創業

1914年（大正3年）4月、近鉄のルーツである大阪電気軌道（大軌）が、上本町駅 - 奈良駅間（現在の近鉄奈良線）を開通させました。当時、官鉄関西本線が大阪 - 奈良間を70分で結んでいたのに対し、大軌は生駒トンネルを掘削し、最短ルートで55分という所要時間を実現しました。

参宮急行電鉄（参急）の躍進

1930年（昭和5年）1[[2月20日]]、大軌の子会社である参宮急行電鉄（参急）が、桜井駅 - 山田駅（現在の伊勢市駅）間を仮開業させました。既存の大軌桜井線（上本町駅 - 桜井駅間）と直通することで、大阪 - 伊勢間130km超の長大な路線が完成し、2200系電車を用いた急行電車が2時間45分で全区間を走破しました。これは、当時の国鉄関西本線・参宮線の普通列車が5時間、準急列車が3時間30分を要していたのと比較すると、画期的な速さでした。

1932年（昭和7年）1月1日には、大軌・参急線に初の「特急電車」が登場し、上本町駅 - 宇治山田駅間を2時間1分で結びました。この特急電車には「五十鈴」（いすず）という愛称が与えられました。

伊勢電気鉄道（伊勢電）の参入

参急と同じ1930年（昭和5年）12月には、後の近鉄名古屋線の一部となる伊勢電気鉄道（伊勢電）も、桑名駅 - 大神宮前駅間約83kmを全通させました。1935年（昭和10年）12月には、高出力車を用いた特急「はつひ（初日）」・「かみち（神路）」の運転を開始し、同区間を1時間25分で結びました。

関西急行電鉄（関急電）による名古屋進出

1938年（昭和13年）6月、参急の子会社である関西急行電鉄（関急電）が、桑名駅 - 関急名古屋駅（後の近鉄名古屋駅）間を開通させました。これにより、名古屋 - 大阪間の新たなルートが完成し、乗り換えが必要ながらも省線（東海道本線）の急行列車よりも速い3時間15分で結ばれました。

戦時体制下の特急

1938年（昭和13年）12月、大軌・参急・関急電の路線から「特急」の名称が消滅し、すべて急行電車に統合されました。しかし、速度の低下などはなく、むしろサービスアップが図られました。

有料特急の運転開始と愛称

1947年（昭和22年）10月8日、大阪線の上本町駅 - 伊勢中川駅間と、名古屋線の伊勢中川駅 - 近畿日本名古屋駅（後の近鉄名古屋駅）間に、伊勢中川駅で乗り換える形で名阪直通の特急が運転を開始しました。これは、国鉄・私鉄を通じて戦後初の特急復活であり、特急料金を徴収して座席定員制を採用した、日本初の有料特急列車となりました。

名阪直通運転開始から新幹線開通まで

1959年（昭和34年）1[[2月12日]]、近畿日本名古屋駅 - 上本町駅間直通特急（「名阪特急」）が運転を開始しました。同時に、（2代目）「ビスタカー」と称される10100系電車の営業運転が開始されました。名阪間の所要時間は近畿日本名古屋行が2時間27分、上本町行が2時間30分に短縮されました。

1964年（昭和39年）10月1日、東海道新幹線が開通すると、「ひかり」が名阪間を1時間31分で走行し始め、名阪甲特急は速度では勝負にならなくなりました。しかし、新幹線の開通により東京 - 名古屋 - 京都 - 大阪の所要時間が大幅に短縮されたため、近鉄はそれら各地の駅から新幹線に接続して、伊勢志摩、奈良、吉野といった観光地への観光客輸送を図るようになりました。

大阪万博と難波線・鳥羽線の開通

1970年（昭和45年）3月15日、近鉄[[難波線]]が全通し、近鉄は大阪の南の繁華街である難波にできた近鉄難波駅まで乗り入れました。

万博以後と特急網の完成

1988年（昭和63年）3月18日、「アーバンライナー」こと、6両編成の21000系電車が営業運転を開始しました。近鉄特急の最高速度がそれまでの110km/hから120km/hへ引き上げられ、難波 - 名古屋間は最速2時間5分、鶴橋 - 名古屋間は最速1時間59分となり、名阪の所要時間はついに2時間を割り込むこととなりました。

1994年（平成6年）3月15日、「伊勢志摩ライナー」こと23000系電車が「阪伊甲特急」・「名伊甲特急」で運転を開始しました。大阪線・山田線・鳥羽線・志摩線の一部区間で130km/h運転が開始されました。

2020年（令和2年）3月14日、名阪特急に新型車両80000系「ひのとり」が投入されました。

今後の計画

阪神電気鉄道や山陽電気鉄道への乗り入れ構想、フリーゲージトレインの開発、Osaka Metro中央線への乗り入れ検討などが計画されています。

近鉄線と並行する国鉄・JR線の優等列車など

近鉄の各路線には、並行して東海道新幹線・東海道本線、関西本線、奈良線、紀勢本線・参宮線などといった国鉄 - JRの路線が存在しています。ここでは、それらの路線で運行されていた優等列車についても触れていきます。

大阪・京都 - 伊勢間（草津経由）

戦前には、鉄道省（省線）が姫路駅 - 鳥羽駅間に準急列車を走らせていました。戦後には、京都駅 - 鳥羽駅間にキハ55系気動車を使用した有料の準急「鳥羽」が新設されました。その後、急行「志摩」に格上げされましたが、1986年（昭和61年）に廃止されました。

大阪 - 伊勢間（奈良経由）

戦前には、湊町駅 - 山田駅・鳥羽駅間に準急（快速）・普通列車が設定されていました。戦後は、速達列車は設定されず、普通列車が数往復設定される程度にとどまりました。

大阪 - 名古屋間

東海道本線では、戦前には特急「燕」や急行列車が運行されていました。戦後には、準急列車「比叡」が登場し、名阪間を結びました。しかし、東海道新幹線の開業により、優等列車は大きく削減されました。

関西本線では、戦前には準急列車が運行されていました。戦後には、準急「かすが」が登場しましたが、1973年（昭和48年）に関西本線湊町 - 奈良間電化の際、同区間運転を打ち切り、関西本線経由の名阪直通列車は消滅しました。

名古屋 - 伊勢間

戦前には、準急列車が運行されていました。戦後には、快速列車が登場しましたが、1966年（昭和41年）に急行「いすず」に格上げされたものの、1968年（昭和43年）に廃止されました。1990年（平成2年）には、JR東海が伊勢鉄道伊勢線を経由して、名古屋駅 - 鳥羽駅間を結ぶ快速「みえ」の運行を開始しました。

関連項目

• - 近畿日本鉄道
• - 東海旅客鉄道
• - 西日本旅客鉄道
• - 阪神電気鉄道
• - 山陽電気鉄道
• - 大阪電気軌道
• - 伊勢電気鉄道
• - 奈良電気鉄道
• - 日本国有鉄道
• - みえ
• - かすが
• - アーバンネットワーク
• - 日本の列車愛称一覧
• - 東海道本線優等列車沿革
• - 主なダイヤ改正時の東海道本線優等列車
• - 東海道新幹線
• - 東海道本線
• - 関西本線
• - 参宮線
• - 奈良線
• - 伊勢鉄道伊勢線
• - 阪神なんば線
• - 阪神本線
• - 山陽電気鉄道本線

脚注

注釈

出典

主要参考文献

• - 「近鉄特急 上」（著者・編者 田淵仁、出版・発行 JTB）
• - 「近鉄特急 下」（著者・編者 田淵仁、出版・発行 JTB）
• - 「時刻表でたどる鉄道史」（著者・編者 宮脇俊三・原口隆行、出版・発行 JTB）
• - 「時刻表でたどる特急・急行史」（著者・編者 原口隆行、出版・発行 JTB）
• - 「東海道新幹線 (2)」（著者・編者 須田寬、出版・発行 JTB）
• - 「まるごとJR東海ぶらり沿線の旅」（著者・編者 徳田耕一、出版・発行 河出書房新社）
• - 「国鉄・JR列車名大事典」（著者・編者 寺本光照、出版・発行 中央書院）
• - 「東への鉄路 上」（著者・編者 木本正次、出版・発行 学陽書房）
• - 「東への鉄路 下」（著者・編者 木本正次、出版・発行 学陽書房）
• - 「時刻表復刻版」（著者・編者 JTB、出版・発行 同左）
• - 「決定版 近鉄特急」（著者・編者 寺本光照、林基一、出版・発行 ジェー・アール・アール）
• - 「JTB時刻表 各号」（著者・編者 JTB、出版・発行 同左）
• - 「JR時刻表 各号」（著者・編者 交通新聞社、出版・発行 同左）
• - 「近鉄時刻表 各号」（著者・編者 近畿日本鉄道、出版・発行 同左）
• - 「京阪神からの旅行に便利な交通公社の時刻表」（著者・編者 日本交通公社、出版・発行 同左）
• - 「鉄道ピクトリアル1988年12月号増刊 特集：近鉄特急」（著者・編者 電気車研究会 出版・発行 同左）
• - 「鉄道ピクトリアル2003年1月号増刊 特集：近畿日本鉄道」（著者・編者 電気車研究会 出版・発行 同左)

もう一度検索