速鳥丸

速鳥丸（はやとりまる）：幕末に姫路藩が建造した西洋式帆船

速鳥丸は、幕末に姫路藩が建造した西洋式帆船です。黒船来航による大船建造の禁の解除後、姫路藩では藩の財政を安定させるため、西洋式船舶の建造計画が持ち上がりました。

建造の経緯

計画を提案したのは、藩お抱えの国学者であった秋元安民です。当時、アメリカ船に救助された4人の漂流民が帰国しており、秋元は彼らの知識を活用することを思いつきました。この4人の漂流民（清太郎・源次郎・甚八・喜代蔵）は、ジョセフ彦や仙太郎と同じ「栄力丸」の乗船者で、上海在住の音吉の援助で帰国に成功していました。うち清太郎と源次郎は士分に取りたてられ、本荘善次郎と山口洋五郎と名乗っています。

安政2年10月13日（1855年11月22日）に建造計画がまとまり、藩は源次郎を矢倉格（5人扶持・金5両）、清太郎を矢倉格取扱沖船頭（2人扶持・銀3匁）として建造作業に携わらせました。秋元は、悪天候に強い洋式船を交易に利用することで、海難事故による藩財政への打撃を避けることを目指しました。

1番船は安政4年11月（1857年12月頃）に御津造船所で起工され、安政5年6月24日（1858年8月3日）に進水、「速鳥丸」と命名されました。船の大きさについては複数の記録があり、例えば『播州郷土資料』によれば船舷13間3尺（24.5m）・上通長15間（27.3m）・450石積み、『大日本線路細見録』によれば長さ14間2尺（26.1m）・幅2間3尺5寸（4.7m）・トン数58.25トン、勝海舟の『船譜』によれば長さ15間（27.3m）・幅3間（5.5m）・450石積みとなっています。

速鳥丸は2本のマストを備え、『軍艦速鳥丸図』では前部マストに横帆、後部マストに縦帆を張ったブリガンティンとして描かれていますが、スクーナー（前後とも縦帆を張る形式）とする文献もあります。

後続の船

姫路藩では「速鳥丸」の後も、安政6年6月（1859年7月頃）に「金花丸」、文久3年6月（1863年7-8月）には「神護丸」が建造されています。「金花丸」は小型の二檣スクーナーで、長さ8間（14.5m）・幅1間4尺（3.0m）・100石積み。「神護丸」はより大型で長さ18間（32.7m）・幅4間（7.3m）・1200石積み。帆装形式はスクーナーまたはブリガンティンとする文献もありますが、『軍艦神護丸図』や船絵馬『神護丸図絵馬』では2本マストの前檣に横帆・後檣に横帆と縦帆併用のブリッグとして描かれています。

運用

速鳥丸は、進水から約半月後の安政5年7月15日（1858年8月23日）に飾磨沖で試験航海を終え、計画通りに国内交易物資の輸送船として使用されることになりました。最初の実用航海では江戸品川沖まで10日間で到着し、往路は米1000俵・木綿30個・石を100石と船客18人、復路は干鰯や大豆を無事に運びました。以後も、米や木綿、砂糖、購入兵器などを運び、藩財政の立て直しに貢献し、明治5年（1872年）までに行った航海は80回に及びました。

後続の「神護丸」「金花丸」も同様に交易物資の輸送船として活用されました。「神護丸」は明治6年（1873年）１月に品川出港後、遠州灘で大しけに遭難し、伊豆子浦海岸にて破船しました。

速鳥丸は、日本の洋式帆船建造黎明期における重要な事例であり、漂流民の知識を活用した点が特筆されます。その後の金花丸、神護丸の建造と運用も、当時の海運事情を知る上で貴重な情報源となります。

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