都市間高速鉄道計画

都市間高速鉄道計画（IEP）とは

イギリス運輸省が主導する都市間高速鉄道計画（Intercity Express Programme、IEP）は、イースト・コースト本線（ECML）やグレート・ウェスタン本線（GWML）といった主要幹線での高速鉄道化を目的としたプロジェクトです。

2012年から2013年にかけて、日立製作所を母体とする合弁会社アジリティ・トレインズが、高速鉄道車両800形（クラス800）と801形（クラス801）を受注したことで、計画は大きく進展しました。この受注に伴い、カウンティ・ダラムのニュートン・エイクリフに新工場が建設され、地域経済にも貢献しています。

計画の提案段階

2000年代中ごろ、日立製作所は、CTRL（Channel Tunnel Rail Link）での高速鉄道車両395形の受注を目指すと同時に、都市間高速鉄道計画にも積極的に関与していました。日立は、イギリスの大手ゼネコンであるJohn Laing社や投資会社Barclays Private Equityと共同で、特別目的会社アジリティ・トレインズを設立し、入札に臨みました。

当初、新造される高速鉄道車両は「日立スーパーエクスプレス」と呼ばれていました。アジリティ・トレインズは、この車両の最高速度を201km/hとし、小改良によって225km/hまで向上可能であると提案しました。また、保安装置にはヨーロッパ標準の車内信号方式であるERTMSを搭載することが計画されました。

スーパーエクスプレスは、5両から10両編成で、多様な車種が導入される予定でした。具体的には、交流25kV50Hz対応の架空電車線方式の電車編成、ハイブリッド気動車編成、電気・ディーゼル両用車両（バイモード車）編成などが計画されました。アジリティ・トレインズは、以下の5つのタイプを提案しました。

• - タイプ1：気動車10両編成（2種類）

- タイプ1A：インターシティ（都市間輸送用）
- タイプ1B：インターアーバン（近郊形車両）

• - タイプ2：都市間輸送用電気・ディーゼル両用車両
• - タイプ3：通勤輸送用電車5両編成
• - タイプ4：通勤輸送用電気・ディーゼル両用車5両編成
• - タイプ5：都市間輸送用電車10両編成

電気・ディーゼル両用編成では、両端の制御車が電力供給の役割を担い、一方の制御車は架空電車線方式に対応し、集電装置や変圧器、整流器を搭載し、客室も備えています。もう一方の制御車は、ディーゼルエンジン、交流ブラシレス発電機、二次電池を搭載したハイブリッド方式で、騒音対策のため客室は設けられていません。これらの先頭車は付随車であり、中間車に編成全体の車軸の50%にあたる動力台車を搭載し、電力は引通線経由で供給されます。

ハイブリッドシステムは、インターシティ125で使用されている43形ディーゼル機関車とマーク3客車で試用されたものと類似の方式が採用されました。車両1両あたりの全長は26.0m（気動車の動力車は21.0m）、全幅は2.7mで、イギリスの車両限界に適合した寸法となっています。

5両編成の車両は、ロンドンからのECMLやGWMLの通勤輸送用として計画されました。また、オプションとしてウェスト・コースト本線の南区間でも使用される予定でした。さらに、キングス・クロス駅からキングズ・リンやケンブリッジ方面への路線では、タイプ3が使用される予定でした。パディントン駅からのテムズバレー方面も通勤輸送用区間として計画されました。10両編成の導入はECMLが最初で、2013年からインターシティ125を置き換えるとともに、エディンバラ方面へのインターシティ225の置き換えも計画されました。

製造と雇用

アジリティ・トレインズは、当初70両分の車両構体を日本で製造し、イギリスへ輸送する予定でした。イギリスの新工場では、最終的に500人の従業員を雇用し、車両を完成させる計画でした。

仮契約と批判

イギリス政府が国外企業と総額75億ポンドにも及ぶ仮契約を結んだことに対し、雇用確保の観点から批判の声も上がりました。鉄道海員運輸労働者全国組合(en:Maritime and Transport Union's general)の委員長ボブ・クローは、「英国運輸省は、高速列車の車両がイギリスで製造されるのか、単に組み立てられるのかという基本的な問題に答えていない」と発言し、英国での完全な製造を主張しました。

正式受注と生産体制

2009年2月、日立はイースト・コースト本線とグレート・ウェスタン本線で運行する高速鉄道車両の製造優先交渉権を獲得しました。

キャメロン政権の歳出削減政策による一時的な交渉凍結を経て、2012年7月、日立はシーメンス、アルストム、ボンバルディアといった鉄道大手との競争に打ち勝ち、596両の高速鉄道車両の製造と、2017年から27年間にわたるリース・保守事業を一括で受注しました。さらに2013年7月には、800形電車270両の追加受注も獲得しました。

受注した車両は最高速度200km/hで、5両編成（定員約300人）と9両編成（定員約600人）で運行されます。日立は8200万ポンドを投じてニュートン・エイクリフに車両生産工場を建設し、730人の研究開発スタッフを雇用、2016年から月産35両のペースで車両を生産し、最終的に総計866両を提供します。車両のリース事業は、日立の子会社などが出資する特別目的会社アジリティ・トレインズが行います。

2013年11月1日、ニュートン・エイクリフで工場の着工式が執り行われ、2015年9月3日には開所式が開催されました。

都市間高速鉄道計画は、イギリスの鉄道インフラの近代化に大きく貢献するプロジェクトであり、日立製作所を中心とするアジリティ・トレインズの活躍が、今後の鉄道輸送の発展に繋がるでしょう。

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