鄭賜

鄭賜（てい し）の生涯

鄭賜（てい し）は、明代初期に活躍した官僚・政治家です。字は彦嘉といい、建寧府甌寧県を本貫とします。生年は不詳ですが、1408年に没しています。

初期の官歴

1385年（洪武18年）、進士に及第し、監察御史に任じられました。当時の明朝は、胡惟庸の獄や藍玉の獄といった大規模な粛清事件が相次ぎ、多くの官吏が罪に問われて辺境に流されていました。鄭賜は、龍江でこれらの流刑となった官吏たちによる部隊を編成するよう命じられます。過酷な環境下で疲弊する囚人たちに対し、鄭賜は彼らの枷を外し、休息を与え、食事を供給し、病気の人には医療を施しました。その結果、多くの囚人が体力を回復しました。任期を終えると、湖広布政司参議に任命され、同僚の呉文と協力して行政の弊害を取り除き、民衆を安定させました。また、少数民族からも尊敬を集めました。

その後、母親の死去に伴い官を辞して喪に服しますが、喪が明けると北平布政司参議に転じ、燕王朱棣に仕えました。しかし、罪に問われ安東の屯田に送られることになります。1398年（洪武31年）、建文帝が即位すると、燕王朱棣や楚王朱楨が鄭賜を王府の長史に推薦しましたが、建文帝はこれを許可しませんでした。同年12月、鄭賜は南京に召し出され、工部尚書に任命されます。

燕王の挙兵と鄭賜

燕王朱棣が挙兵すると、鄭賜は河南の軍を監督し、燕軍の進攻を防ぐ役割を担いました。1402年（建文4年）6月、燕王朱棣が南京に入城すると、鄭賜は李景隆によって、斉泰や黄子澄に同調したとして弾劾されます。逮捕された鄭賜は、朱棣に「どうして敵同士になったのか」と問われましたが、「臣は職務を尽くしたまでです」と答えました。朱棣はこれを笑って鄭賜を釈放し、7月には刑部尚書に任命しました。

永楽帝の時代

1403年（永楽元年）、鄭賜は都督の孫岳が洪武帝の建てた寺を破壊して戦艦を建造したことを弾劾し、孫岳を海南島に流罪としました。1404年（永楽2年）には、李景隆が亡命者を匿い反乱を計画しているとして弾劾。さらに、陳瑛と共に耿炳文の僭越を弾劾し、耿炳文を自殺に追い込みました。また、祁陽教諭の康孔高が病気の母の看病のため任地への帰還を遅らせた際、鄭賜は康孔高を逮捕するよう上奏しますが、永楽帝は康孔高の事情を理解し復職を命じました。

1405年（永楽3年）9月、鄭賜は李至剛に代わって礼部尚書に任命されました。1406年（永楽4年）1月、西域から仏舎利が献上された際、鄭賜は囚人を釈放するよう請願しましたが、永楽帝はこれを認めませんでした。また、同年6月1日に日食があった際、雲に隠れて見えなかったにもかかわらず、鄭賜は祝賀を提案しましたが、これも永楽帝によって却下されました。鄭賜は過去の例を挙げて反論しましたが、永楽帝は「天下は広いのだから、京師で見えなくても、どこかで見えているかもしれない」と述べて、許可しませんでした。

晩年と死後

鄭賜は温厚な性格でしたが、重要な道理を理解しない面があり、永楽帝は次第に彼を軽んじるようになりました。同じく礼部尚書の趙羾の方が重用されるようになります。1408年（永楽6年）6月、鄭賜は失意のうちに亡くなりました。1425年（洪熙元年）、太子少保の位を追贈され、諡は文安とされました。著書に『聞一斎集』4巻があります。

人物評価

鄭賜は、激動の時代を生き抜いた官僚であり、その生涯は幾度も変転を繰り返しました。当初は監察御史として腐敗を正す役割を担い、その後は地方官として民政に尽力しました。しかし、燕王朱棣の挙兵という大きな転換期を迎え、その中で重要な役割を果たしました。永楽帝の時代には、礼部尚書として宗教や儀礼に関する業務を統括しましたが、皇帝との意見の相違が目立つようになり、晩年は不遇でした。温厚な性格とは裏腹に、官僚としての職務を忠実に遂行しようとする強い意志を持っていた人物であったと言えるでしょう。

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