酒折宮

酒折宮（さかおりみや）

酒折宮は、山梨県甲府市酒折に鎮座する神社です。その起源は、『古事記』や『日本書紀』に記された日本武尊（ヤマトタケルノミコト）の東征にまで遡るとされ、連歌発祥の地としても広く知られています。

概要

酒折宮は、日本武尊が東征の際に立ち寄った行宮の跡地と伝えられています。日本武尊は、この地で塩海足尼（しおみたりね）を甲斐国造に任じ、火打袋を授けたとされています。

山梨県内に数ある神社の中で、『古事記』・『日本書紀』に記述があるのは、この酒折宮のみです。また、甲府藩主・柳沢吉里によって、酒折宮の夜の雨は「甲斐八景」の一つに選ばれました。

祭神

日本武尊（やまとたけるのみこと）

歴史

記紀の酒折宮伝承

『古事記』・『日本書紀』には、日本武尊の東征の経路が記されています。

『古事記』：尾張 → 相模 → 上総 → 蝦夷 → 相模（足柄峠）→ 甲斐国酒折宮 → 信濃（倉野之坂）→ 尾張
『日本書紀』：尾張 → 駿河 → 相模 → 上総 → 陸奥 → 蝦夷 → 日高見国 → 常陸 → 甲斐酒折宮 → 武蔵 → 上野（碓日坂）→ 信濃 → 尾張

日本武尊は、東征からの帰路に甲斐国酒折の地に立ち寄り、行宮を設けたとされています。滞在中には、塩海足尼を甲斐国造に任じ、「行く末はここに鎮座しよう」と宣言したと伝えられています。塩海足尼は、その言葉に従い、火打袋を神体とする社殿を造営し、酒折宮を創建したとされています。

ヤマトタケルの東征経路は、古代律令制下の官道でいうと、往路が東海道、帰路が東山道にあたります。また、「倉野之坂」や「碓日坂」は、いずれも令制国の国境に位置しています。甲斐国は、東海道と東山道の結節点に位置することから、酒折宮は「坂」に関係する祭祀を司っていた神社であると考えられています。

連歌伝承

日本武尊が酒折宮に滞在中のある夜、

「新治 筑波を過ぎて 幾夜か寝つる」

と歌いかけたところ、家臣の中に答える者がいませんでした。すると、焚き火番の老人が、

「日々（かが）並（なべ）て 夜には九夜（ここのよ） 日には十日を」

と答えたそうです。日本武尊は、老人の機知に感嘆し、彼を東国造に任命したと伝えられています。

この逸話が後世に連歌の発祥として位置づけられ、酒折宮は連歌発祥の地として多くの学者や文学者が訪れる場所となりました。

概史

酒折宮は、もともと御室山（月見山または酒折山）の中腹に鎮座していましたが、後に現在の場所に移されました。御室山の山中や山麓には、多くの古墳や遺跡が残っており、古くから信仰されていた様子がうかがえます。しかしながら、酒折宮に関する史料はほとんど残っておらず、伝承の酒折宮との関係性も定かではありません。

江戸時代には、『甲斐国志』をはじめとする地誌類において、現在の酒折宮が記紀に記される「酒折宮」に比定されるようになり、連歌発祥の地としても注目されるようになりました。甲斐の名所の一つとして多くの文人が来訪し、俳人大淀三千風や歌川広重などもこの地を訪れています。

明治時代に入り、近代社格制度において村社に列しました。

酒折宮伝承の解釈

酒折宮に関する日本武尊の伝承は、古代甲斐と畿内政権との関わりを示すものとして重要視されています。

考古学的な調査からは、古墳時代から古代にかけての甲斐国において、甲府盆地を中心に勢力が拡大し、畿内との交流も行われていたことが分かっています。

酒折宮伝承の歴史的背景については、考古学的な発掘調査の結果や文献資料に基づいて、様々な研究が行われています。

境内

酒折宮は、甲府盆地の中央北縁、八人山の南麓に位置しています。境内は小規模ですが、静かで落ち着いた雰囲気です。

石碑

境内には、山県大弐が建立した『酒折祠碑』や、本居宣長が撰文し平田篤胤が揮毫した『酒折宮寿詞』など、多くの石碑が建立されています。

祭事

酒折宮では、例祭や連歌祭など、年間を通して様々な祭事が行われています。

酒折宮を題材とした美術・文学

酒折宮は、土佐光起や歌川広重などの絵画や、樋口一葉の小説『ゆく雲』など、多くの美術作品や文学作品の題材となっています。

現地情報

所在地：山梨県甲府市酒折3-1-13
交通アクセス：JR中央本線 酒折駅 徒歩約5分

周辺

酒折宮の周辺には、不老園や甲斐善光寺などの観光スポットがあります。

酒折宮は、歴史と文化が息づく場所であり、訪れる人々に様々な感動を与えてくれるでしょう。

参考文献

酒折宮公式サイト
宮地直一・佐伯有義監修『神道大辞典 縮刷版』、臨川書店、昭和44年

外部リンク

酒折宮（公式サイト）
* 酒折宮・酒折連歌とは（酒折連歌賞サイト）

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