阿曽原温泉
富山県黒部市の山奥深く、黒部奥山国有林地内に佇むのが阿曽原温泉（あぞはらおんせん）である。この温泉は、近接する山小屋「阿曽原温泉小屋」によって管理されており、利用できるのは毎年7月から10月までの登山シーズンに限られる。小屋に宿泊する登山者は無料で入浴できる一方、通過者やテント泊利用者は所定の料金を支払うことで利用が可能となる。
温泉施設は小屋から徒歩で5分から10分ほど谷を下った先に設けられている。コンクリート造りの露天風呂が一つあり、時間帯によって男女別の利用時間が定められている。その時間割は小屋や風呂の入口に掲示されており、夜20時以降は混浴時間となる。なお、阿曽原温泉が位置する黒部市宇奈月町阿曽原地区は、日本郵便から「交通困難地」に指定されており、一年を通じてこの地域宛てに郵便物を送ることは不可能である。
この温泉の管理を担う阿曽原温泉小屋は、1949年（昭和24年）に開設された。黒部峡谷の核心部を貫く「下廊下」沿いの水平歩道に位置し、この水平歩道や、仙人谷ダムで接続する日電歩道（黒部ダム方面）、雲切新道（仙人温泉方面）といった主要な登山ルートの中継拠点としての役割を果たしている。下廊下における唯一の山小屋であること、特に日電歩道が黒部ダムまで通行可能となるのが例年9月頃であることから、一般的に夏のイメージが強い山小屋としては珍しく、秋に最も多くの登山者で賑わう。しかし、10月末になると日没が早まり、冷え込みによる路面凍結や積雪のリスクが高まるため、例年この時期をもって小屋の営業を終了する。営業期間外は、風呂、トイレ、水場といった施設も利用できなくなる。
2024年時点での経営者は、かつて富山県警察山岳警備隊員であった人物が務めている。収容定員は宿泊で50名、加えてテントサイトとして30張分のスペースが確保されている。小屋およびテントサイトには水洗トイレと水場が完備されている。一帯は中部山岳国立公園の域内にあるため、指定されたキャンプサイト以外でのテント設営は禁止されている。
黒部峡谷は国内有数の豪雪地帯であり、温泉が位置する阿曽原谷も雪崩が多発する危険な場所である。そのため、恒久的な建物を設置することは難しく、小屋はプレハブ工法で建てられている。毎年秋の営業終了後には一度解体され、翌年の初夏に再び組み立てられるという、極めて特殊な運用形態をとる。冬季に同様に解体される山小屋としては、白馬鑓温泉小屋や白馬尻小屋などが知られている。かつて新型のプレハブユニットへの入れ替えが検討されたこともあったが、新型ユニットは軽量化された鉄骨が冬季の保管中に雪の重みで変形する恐れがあり、また豪雪に耐えうる強度を持つものを特注すると莫大な費用がかかる。このため、施設の老朽化が進んでいるにも関わらず、古い型のユニットが引き続き使用されているのが現状である。
阿曽原温泉の歴史は、仙人谷ダム建設に伴う資材運搬用トンネル、現在の関西電力黒部専用鉄道の掘削工事と深く結びついている。阿曽原谷付近での掘削作業中、摂氏160度を超える極めて高温の岩盤に突き当たり、工事は著しく難航した。この区間は後に「高熱隧道」として知られるようになる。トンネル開通後、導水管の設置などで温度は若干低下したが、現在も摂氏40度前後を保っている。阿曽原温泉の湯は、この高温の岩盤によって熱せられた湧水を利用しており、露天風呂は導水管に通じるトンネル坑口のすぐ脇にあり、湯は直接トンネル内から引かれている。
このトンネル掘削のため、阿曽原谷にはコンクリート造り6階建て（うち2階までは鉄筋入り）の作業員宿舎が建設された。しかし、トンネル貫通後の1940年1月8日未明、阿曽原谷で発生した泡雪崩が宿舎を直撃して倒壊させ、さらにその直後に発生した火災により、多数の死傷者を出した悲劇があった。現在の阿曽原温泉小屋は、この旧宿舎の跡地に建てられており、今なおその基礎部分の一部が残されているのを確認できる。
阿曽原温泉の泉質は単純温泉である。源泉温度は、1978年時点で約89℃、2018年時点では47.3℃を記録している。毎分46.3リットルの湯が自然湧出しており、pHは7.4、溶存物質総量は754 mg/kgとなっている。
阿曽原温泉へのアクセスは、公共交通機関の終点から長時間の徒歩が必須となる。黒部峡谷鉄道の欅平駅からは水平歩道を経由して約12キロメートル、あるいは関電トンネル電気バスの黒部ダム駅からは日電歩道を経由して約19キロメートルの道のりとなる。これらの歩道は、いずれも崩落の危険箇所や難所を含む上級者向けの本格的な登山ルートであり、通行には細心の注意が必要となる。その危険性から、阿曽原温泉は「日本一危険な温泉」という異名を持つほどである。
阿曽原温泉や仙人谷ダム建設を題材にした小説『高熱隧道』や、CDドラマ『天地無用! 魎皇鬼CDスペシャル2 太陽系七つの秘湯』に登場するなど、創作作品の舞台としても知られる。同じ富山県の北アルプス山中にあり、近隣の山小屋が管理する温泉として、祖母谷温泉や高天原温泉などがある。
温泉施設は小屋から徒歩で5分から10分ほど谷を下った先に設けられている。コンクリート造りの露天風呂が一つあり、時間帯によって男女別の利用時間が定められている。その時間割は小屋や風呂の入口に掲示されており、夜20時以降は混浴時間となる。なお、阿曽原温泉が位置する黒部市宇奈月町阿曽原地区は、日本郵便から「交通困難地」に指定されており、一年を通じてこの地域宛てに郵便物を送ることは不可能である。
この温泉の管理を担う阿曽原温泉小屋は、1949年（昭和24年）に開設された。黒部峡谷の核心部を貫く「下廊下」沿いの水平歩道に位置し、この水平歩道や、仙人谷ダムで接続する日電歩道（黒部ダム方面）、雲切新道（仙人温泉方面）といった主要な登山ルートの中継拠点としての役割を果たしている。下廊下における唯一の山小屋であること、特に日電歩道が黒部ダムまで通行可能となるのが例年9月頃であることから、一般的に夏のイメージが強い山小屋としては珍しく、秋に最も多くの登山者で賑わう。しかし、10月末になると日没が早まり、冷え込みによる路面凍結や積雪のリスクが高まるため、例年この時期をもって小屋の営業を終了する。営業期間外は、風呂、トイレ、水場といった施設も利用できなくなる。
2024年時点での経営者は、かつて富山県警察山岳警備隊員であった人物が務めている。収容定員は宿泊で50名、加えてテントサイトとして30張分のスペースが確保されている。小屋およびテントサイトには水洗トイレと水場が完備されている。一帯は中部山岳国立公園の域内にあるため、指定されたキャンプサイト以外でのテント設営は禁止されている。
黒部峡谷は国内有数の豪雪地帯であり、温泉が位置する阿曽原谷も雪崩が多発する危険な場所である。そのため、恒久的な建物を設置することは難しく、小屋はプレハブ工法で建てられている。毎年秋の営業終了後には一度解体され、翌年の初夏に再び組み立てられるという、極めて特殊な運用形態をとる。冬季に同様に解体される山小屋としては、白馬鑓温泉小屋や白馬尻小屋などが知られている。かつて新型のプレハブユニットへの入れ替えが検討されたこともあったが、新型ユニットは軽量化された鉄骨が冬季の保管中に雪の重みで変形する恐れがあり、また豪雪に耐えうる強度を持つものを特注すると莫大な費用がかかる。このため、施設の老朽化が進んでいるにも関わらず、古い型のユニットが引き続き使用されているのが現状である。
阿曽原温泉の歴史は、仙人谷ダム建設に伴う資材運搬用トンネル、現在の関西電力黒部専用鉄道の掘削工事と深く結びついている。阿曽原谷付近での掘削作業中、摂氏160度を超える極めて高温の岩盤に突き当たり、工事は著しく難航した。この区間は後に「高熱隧道」として知られるようになる。トンネル開通後、導水管の設置などで温度は若干低下したが、現在も摂氏40度前後を保っている。阿曽原温泉の湯は、この高温の岩盤によって熱せられた湧水を利用しており、露天風呂は導水管に通じるトンネル坑口のすぐ脇にあり、湯は直接トンネル内から引かれている。
このトンネル掘削のため、阿曽原谷にはコンクリート造り6階建て（うち2階までは鉄筋入り）の作業員宿舎が建設された。しかし、トンネル貫通後の1940年1月8日未明、阿曽原谷で発生した泡雪崩が宿舎を直撃して倒壊させ、さらにその直後に発生した火災により、多数の死傷者を出した悲劇があった。現在の阿曽原温泉小屋は、この旧宿舎の跡地に建てられており、今なおその基礎部分の一部が残されているのを確認できる。
阿曽原温泉の泉質は単純温泉である。源泉温度は、1978年時点で約89℃、2018年時点では47.3℃を記録している。毎分46.3リットルの湯が自然湧出しており、pHは7.4、溶存物質総量は754 mg/kgとなっている。
阿曽原温泉へのアクセスは、公共交通機関の終点から長時間の徒歩が必須となる。黒部峡谷鉄道の欅平駅からは水平歩道を経由して約12キロメートル、あるいは関電トンネル電気バスの黒部ダム駅からは日電歩道を経由して約19キロメートルの道のりとなる。これらの歩道は、いずれも崩落の危険箇所や難所を含む上級者向けの本格的な登山ルートであり、通行には細心の注意が必要となる。その危険性から、阿曽原温泉は「日本一危険な温泉」という異名を持つほどである。
阿曽原温泉や仙人谷ダム建設を題材にした小説『高熱隧道』や、CDドラマ『天地無用! 魎皇鬼CDスペシャル2 太陽系七つの秘湯』に登場するなど、創作作品の舞台としても知られる。同じ富山県の北アルプス山中にあり、近隣の山小屋が管理する温泉として、祖母谷温泉や高天原温泉などがある。
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