陳敏 (西晋)

陳敏（ちん びん）

陳敏は、西晋時代に活躍した人物です。字は令通といい、廬江郡の出身でした。彼の生涯は、西晋末期の動乱期における地方勢力の台頭と没落を象徴しています。

生涯

若い頃から才能を発揮し、郡の廉吏としてその名を上げ、尚書倉部令史に任じられました。彼の転機となったのは、永康2年（301年）に趙王・司馬倫が帝位を簒奪した事件です。これに対し、司馬冏・司馬穎・司馬顒の三王が司馬倫討伐のために挙兵しました。

洛陽に長く駐屯した三王の軍勢により、洛陽の食糧事情は悪化の一途をたどります。この状況を打開するため、陳敏は朝廷に「南方の米穀は数十年の備蓄があり、これを中原に輸送すべき」と進言しました。この進言が受け入れられ、陳敏は合肥度支、後に広陵度支として、食糧輸送の任にあたることになりました。

太安2年（303年）には、張昌の乱が発生し、その配下である石冰が寿春に派遣されます。寿春都督の劉準が恐れおののく中、陳敏は大軍を率いて寿春に駐屯します。彼は劉準に対し、「反乱軍は烏合の衆であり、容易に崩壊する。私に指揮権を与えてくれれば、必ず反乱軍を打ち破ってみせる」と進言し、劉準はこれを受け入れ、陳敏に兵を増援しました。陳敏は呉弘、石冰らを破り、破竹の勢いで北上。石冰の軍勢は陳敏の10倍もの兵力でしたが、陳敏はこれを打ち破り、遂には揚州に到達しました。

永安元年（304年）3月、陳敏は軍を返し、徐州の賊である封雲を討伐しました。封雲配下の張統は封雲を斬って投降。これにより揚州・徐州は平定され、陳敏はその功績により広陵相に任じられました。

永興2年（305年）、恵帝が長安に避難し、各地で争いが起こる中、陳敏は江東に割拠する野心を抱き始めます。父はこれを聞き、「我が家を滅ぼすのは、必ずこの子であろう」と嘆きました。父の死後、陳敏は職を辞します。

東海王・司馬越が恵帝を長安から迎えに行く際、陳敏を右将軍、仮節、前鋒都督に任じました。司馬越は陳敏に書面を送り、その功績を称え、国難を救うよう説得しました。しかし、陳敏は中原の混乱に乗じ、東へ戻ることを願い出て、歴陽に拠点を築きます。呉王の常侍である甘卓が洛陽からやって来ると、陳敏は皇太弟の命令を偽り、自らを揚州刺史に任命させました。さらに、江東の有力者である顧栄ら40人余りを将軍や郡守に任命し、勢力を拡大します。陳敏は自分の息子に甘卓の娘を娶らせ、関係を強化しました。

12月、陳敏はついに挙兵し、部下から都督江東軍事・大司馬に推戴され、楚公となります。恵帝からの詔を偽り、恵帝を迎え入れることを宣言しますが、揚州刺史の劉機や丹陽郡太守の王広らはこれに反発し、官位を捨てて逃走します。陳敏の弟である陳昶は、顧栄らに裏切りの兆候があることを察知し、彼らを誅殺するよう進言しますが、陳敏は聞き入れませんでした。陳昶は烏江に拠り、陳敏の弟である陳恢は江州を攻撃させますが、江州刺史の応邈は弋陽へ逃走します。弟の陳斌は東方の諸郡を攻略し、呉越の地を占拠しました。

永嘉元年（307年）、司馬越の軍諮祭酒を務める華譚は、陳敏が勝手に官署を設け、顧栄ら江東貴族に官爵を与えていることを知ります。華譚は顧栄らに書面を送り、陳敏に従うのを止めるよう強く諫めました。周玘・顧栄らは、常に災いを恐れており、華譚からの文書を受け取ると、深く後悔します。彼らは密かに使者を派遣し、征東大将軍の劉準に「兵を派遣して長江を圧迫すれば、内応する」と伝えました。劉準は揚州刺史の劉機と寧遠将軍の衡彦らを歴陽に出陣させ、陳敏は弟の陳昶と将軍の銭広に烏江の防衛を命じました。

銭広は周玘と同郷であり、周玘は銭広に陳昶を殺害するよう指示します。銭広は配下の何康を派遣し、陳昶を油断させて斬殺。州内には陳敏を殺害したと触れ回り、逆らう者は皆殺しにすると脅しました。銭広は朱雀橋に駐屯し、周玘と顧栄は甘卓を説得し、甘卓は陳敏に背くことを決意しました。陳敏は1万人余りの兵を率いて甘卓と交戦しますが、顧栄の指揮により軍は潰滅。陳敏は単騎で東に逃げ、江乗で義兵に斬り殺されました。彼の母と妻子も処刑され、会稽諸郡は一斉に蜂起し、陳敏の弟たちを全員殺害しました。


陳敏の乱は鎮圧され、彼の野望は儚く散りました。この事件は、西晋末期の混乱と、地方勢力の台頭、そしてその脆さを如実に示す出来事として、歴史に刻まれています。

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