周玘

周玘（しゅう き）

周 玘（258年 - 313年）は、西晋時代の武将であり、字は宣佩（せんぱい）と名乗りました。呉興郡陽羡県（現在の江蘇省無錫市宜興市）の出身で、祖父は呉の鄱陽太守であった周魴（しゅう ほう）、父は西晋の平西将軍であった周処（しゅう しょ）です。彼は西晋末期に江南で勃発した反乱を三度にわたり鎮圧し、後の東晋政権樹立に大きく貢献しました。周勰（しゅう きょう）と周彝（しゅう い）という二人の息子がいました。

生涯

若き日

周玘は若い頃から意志が強く、決断力がありましたが、感情を表に出すことはありませんでした。父である周処の風格を受け継いでいましたが、文学の才能においては及ばなかったと言われています。彼は家にこもり、規範に則った生活を送り、むやみに友人と交際することはなかったため、多くの士大夫から深く尊敬され、その名声は高まりました。当初、州や郡からの招聘には応じませんでしたが、刺史から手厚い待遇を受けたため、最終的には仕官し、別駕従事に任じられました。その後、秀才として推挙され、議郎となりました。

石冰（せきひょう）の乱

太安2年（303年）、妖賊である張昌（ちょうしょう）と丘沈（きゅうしん）が江夏で武装蜂起し、多くの民衆が彼らに従いました。張昌らは監軍の華宏（かこう）、平南将軍の羊伊（ようい）、新野王の司馬歆（しばきん）らを打ち破り、その勢力を拡大させ、配下の封雲（ふううん）を徐州へ、石冰を揚州へ侵攻させました。石冰は揚州刺史の陳徽（ちんき）を破り、周辺の郡をすべて陥落させました。

12月、周玘は石冰討伐を計画し、密かに南平内史であった王矩（おうきょ）と協力し、呉興郡太守の顧秘（こひ）を都督揚州九郡諸軍事に推戴し、各地の州郡に石冰討伐の檄文を飛ばしました。これに応じて、かつての侍御史であった賀循（がじゅん）は会稽で挙兵し、廬江内史の華譚（かたん）、葛洪（かつこう）、甘卓（かんたく）らも義兵を挙げ、周玘に呼応しました。周玘らは軍を進め、石冰が任命した呉興郡太守の区山（くさん）を攻め破り、区山とその長史らを討ち取りました。石冰は周玘の挙兵を聞くと、配下の将軍である羌毒（きょうどく）に数万の兵を与え、周玘を迎え撃たせましたが、周玘はこれを打ち破り、羌毒を討ち取りました。

永安元年（304年）、広陵度支の陳敏（ちんびん）が広陵から軍を率いて周玘救援に駆けつけ、石冰の将軍である趙驡（ちょうとう）を蕪湖で討ち取りました。2月、周玘は陳敏と合流し、建業で石冰を攻撃しました。3月、石冰はついに敗走し、徐州の封雲のもとへ逃亡しましたが、封雲の司馬であった張統（ちょうとう）が石冰と封雲を斬り、西晋に降伏しました。これにより揚州と徐州は平定されました。周玘は故郷に戻ると軍を解散し、この功績を朝廷に報告せず、褒賞を受け取りませんでした。

陳敏（ちんびん）の乱

陳敏は石冰討伐の功績により広陵相に任じられましたが、自らの武勇を頼みとし、江南で独立しようと目論みました。永興2年（305年）12月、陳敏は恵帝から詔を得たと偽り、揚州で挙兵し、楚公を自称しました。彼は江南の豪族を取り込もうと画策し、周玘にも安豊郡太守と四品将軍の位を与えようとしましたが、周玘は病気を理由に応じませんでした。陳敏は刑法や政治を明確にしなかったため、有能な人物は誰も従わず、また、陳敏の子弟は凶暴であったため、揚州では多くの災いが起こり、周玘はこれを憂慮しました。

永興3年（306年）2月、華譚が書面で周玘と顧栄（こえい）らを説得し、周玘らも元々陳敏を討とうと考えていたため、これを機に決起しました。周玘はまず、鎮東将軍の劉準（りゅうじゅん）に使者を送り、臨江へ出兵するように命じるとともに、自らが内応することを伝え、髪を切ってその真意を示しました。劉準は当時寿春にいましたが、周玘の要請に応じ、督護の衛彦（えいげん）に軍を与え、東へ向かわせました。

当時、陳敏の弟である陳昶（ちょう）は呉興出身の銭広（せんこう）を司馬としていました。銭広の家は長城にあり、周玘とは同郷であったため、周玘は密かに銭広と内通し、陳昶を殺害するように仕向けました。銭広はこれに応じ、配下の何康（かこう）を派遣し、陳昶が書を読んでいる最中に斬り殺しました。また、州内では陳敏を殺害したと触れ回り、逆らう者は一族皆殺しにすると脅し、銭広を朱雀橋に派遣して橋の南に布陣させ、陳敏の襲来に備えました。これに対し、陳敏は甘卓に精鋭兵を与えて迎え撃たせました。そのため、周玘は顧栄とともに甘卓のもとへ赴き、陳敏を攻撃するように説得しました。これにより甘卓はついに陳敏に背くことを決意しました。陳敏は1万人余りの兵を率いて西晋軍を迎え撃ちましたが、周玘らは以前の松滋侯相紀瞻（そうきせん）とも合流し、これを撃破し、その勢力を潰滅させました。陳敏は単騎で北へ逃亡しましたが、江乗で義兵に捕らえられ、建康で斬り殺され、一族も皆殺しとなりました。

東海王の司馬越（しばえつ）は周玘の名声を聞き、招聘して参軍とし、朝廷からは尚書郎と散騎郎の位を授けましたが、いずれも受けませんでした。同年9月、琅邪王の司馬睿（しばえい、後の元帝）が江東に出鎮すると、周玘は倉曹属に任じられました。

銭璯（せんかい）の乱

永嘉4年（310年）2月、呉興出身の銭璯は、陳敏の乱の際に義兵を挙げて討伐に貢献したため、司馬越から建武将軍に任じられ、洛陽へ向かいました。しかし、広陵に至ったところで、漢の軍勢が洛陽に迫っていることを知り、恐れて進めなくなりました。朝廷から軍期に従うように促されると、銭璯は謀反を起こしました。当時、尚書の王敦（おうとん）も銭璯とともに洛陽へ向かっていましたが、銭璯は王敦を殺害しようとしたため、王敦は建康へ逃走し、司馬睿に事態を報告しました。銭璯は平西大将軍・八州都督を自称しました。

銭璯が陽羡県へ侵攻すると、司馬睿は将軍の郭逸（かくい）と郡尉の宋典（そうでん）らに討伐を命じましたが、彼らは兵力が少なかったため、交戦しませんでした。周玘は郷里の民衆をまとめ上げ、義軍を興し、郭逸らと合流しました。そして、軍を合わせて進撃すると、銭璯を破ってその首を挙げ、建康へ送りました。

周玘は三度にわたり江南を平定したため、司馬睿はその功績を称え、周玘を行建威将軍・呉興郡太守に任じ、烏程県侯に封じました。

政変を企てる

相次ぐ反乱により、民衆は飢饉に苦しみ、盗賊が横行するようになりましたが、周玘は威厳と恩恵をもって統治にあたったため、民衆から敬愛されました。これにより、1年間、領内は安定しました。司馬睿は周玘が幾度も義軍を興し、勲功と忠誠が際立っていたことから、呉興郡の陽羡・義郷と丹陽郡の永世を分割して義興郡を設置し、その功績を顕彰しました。

永嘉の乱以降、北方の士族が相次いで江南へ到来し、司馬睿の幕府の主要な地位を占め、江南の士族は多くが排斥されました。周玘の一族は勢力が強く、人心も彼に集まっていたため、司馬睿は次第に周玘を疑い憚るようになりました。そのため、周玘は久しく重用されず、内心不満を抱いていました。また、幕僚である刁協（ちょうきょう）からも軽んじられ、さらに不満は募りました。当時、鎮東将軍祭酒の王恢（おうかい）も同様に不満を抱いていたため、ともに密かに政変を企て、北方の士族を排斥して南士とともに帝を擁立しようと考えました。

建興元年（313年）4月、王恢は密かに流民の統領である夏鉄（かてつ）らと連携し、淮・泗の地において挙兵するように命じ、自らは周玘とともに三呉の地（呉郡・呉興郡・会稽郡）においてこれに応じることとなりました。夏鉄は数百人の民衆をまとめ上げましたが、臨淮郡太守の蔡豹（さいひょう）がこれを察知し、挙兵前に夏鉄を処断しました。王恢は夏鉄の死を聞いて密告を恐れ、周玘のもとへ逃走してきましたが、周玘は王恢を殺害し、便所に埋めました。

最期

司馬睿は周玘らの企みを知っていましたが、あえて隠し、周玘を招聘して鎮東司馬に任じました。さらに建武将軍・南郡太守に任じました。周玘は命に従って南へ向かいましたが、蕪湖へ至った時に再び勅命が下り、「玘の家は代々忠烈であり、義誠は顕著であり、孤は欽喜している所である。今、軍諮祭酒に任じ、将軍号については以前通りと致し、爵位を公に勧める。俸禄については開国の例に倣うものとする」と伝えました。周玘は突然建康に呼び戻されたことに憤慨しましたが、同時にこれは陰謀が露見したためだと悟りました。ついに憂憤から背中に腫瘍ができ、それが原因で亡くなりました。享年56歳。死に際し、息子の周勰に「私を殺したのは諸傖子（呉人が中原の人を呼ぶときの蔑称）である。この仇を討てるのはお前だけだ」と遺言しました。司馬睿からは輔国将軍を追贈され、忠烈と諡されました。息子の周勰が後を継ぎました。

家系図

（省略）

仏教説話

唐代の『集神州三寶感通録』や『法苑珠林』に収録された説話によると、周玘の家は代々仏教徒でした。周玘の娘は特に信心深く、ある時、周玘の召使いが川で魚を捕っていると、網に金の仏像がかかりました。召使いが網を引っ張っても動かなかったのですが、報告を受けた周玘が娘に網を引かせると、簡単に引き揚げることができました。そこで娘は仏像を持ち帰り、丁寧に供養しました。

その夜、娘は仏が膝の痛みを訴える夢を見ました。娘は仏のお告げだと思い、仏像の膝を見ると、確かに穴が開いていました。そこで娘は、大切にしていた金のかんざしを火で溶かし、膝を補修しました。

その後、周玘は娘を呉郡の張澄（ちょうちょう）に嫁がせました。仏像も張家の物となりました。娘の死後、死んだはずの娘が現れると、阿弥陀三尊が乗った紫雲が降りてきて娘を導き、天に昇っていったという話です。娘の死後、張家では斎戒を行わず、仏像を放置していましたが、張澄の曾孫が孫恩（そんおん）の反乱鎮圧に従軍した時、仏像に祈ろうとしたところ、姿が消え失せていたことに気づきました。張家では過去の過ちを悔い、仏像が戻ってくることを願うと、老婆が仏像を売りに来ました。その仏像は確かに張家の物であり、値段も非常に安かったため、すぐに買い戻そうとしました。しかし、お金を払おうとした瞬間、老婆は姿を消し、光だけが残ったと言われています。

脚注

（省略）

参考文献

『晋書』巻58 列伝第28
『資治通鑑』巻85 - 巻88

もう一度検索