准胝観音
准胝観音（じゅんでいかんのん、じゅんていかんのん）は、仏教における菩薩の一尊であり、人々に広く信仰されています。准胝観音は、その慈悲深い姿と強力な功徳によって、古くから多くの人々に心の拠り所とされてきました。
准胝観音は、准胝仏母とも呼ばれ、日本の真言系では変化観音として六観音の一尊に数えられます。一方、天台系では観音ではなく仏母として扱われます。インドやチベットでは一般的に仏母とされ、変化観音とはみなされません。興味深いことに、インドでは観音は男性名詞ですが、准胝は女性名詞であり、女尊として表現されています。准胝は、五守護女尊や摩利支天と同様に、特定の陀羅尼と結びついた女尊であり、密教においては七倶胝仏母とも称されます。密号は最勝金剛、降伏金剛です。
准胝の梵名は、チュンダー(Cundā)またはチュンディー(Cundī)を音写したものとされ、さらにcuṇḍīに還元する説もあります。日本では、准胝の還梵はチュンディーとされてきましたが、漢名の准胝はチュンダー陀羅尼における「チュンデー」という語の音写であるという説も有力です。インド原典では、チュンダーとされています。
准胝観音の源流については、ヒンドゥー教の女神チャンディー(Caṇḍī)に比定する説があります。チャンディーはドゥルガーの異名であり、准胝は多羅観音や葉衣観音と同様に、ヒンドゥー教の女神が仏教に取り入れられたものと考えられています。また、売春宿の主人とする説や、神聖娼婦に結びつける説も存在します。さらに、「チュンダー陀羅尼」より生じたとする説もあり、この説では、行者が自らを奮起させるために唱える陀羅尼が尊格化されて准胝観音になったと考えられています。
日本では、准胝仏母、准胝観音菩薩、准胝観世音菩薩、天人丈夫観音など、さまざまな呼称で呼ばれています。中国では、密教だけでなく、禅宗や浄土宗、道教でも信仰されており、かつてはインドや東南アジアでも信仰されていました。真言宗の開祖である空海は、高野山の開基の際に准胝堂を建立し、准胝観音を弟子たちの得度の本尊として祀りました。高野山では、准胝堂で僧侶となるための得度儀式が行われていました。真言宗醍醐派の開祖・聖宝も醍醐寺に准胝観音を勧請し、その孫弟子の仁海は六観音に准胝観音を加え、その後も長く民衆の信仰を集めています。
准胝観音の真言は、短呪の「オン・シャレイ・シュレイ・ジュンテイ・ソワカ」がよく知られています。長咒は「ナモサッタナン・サンミャクサンモダクチナン・タニヤタ・オン・シャレイ・シュレイ・ジュンテイ・ソワカ」です。
三昧耶形は「寶瓶」（方便）、「金剛杵」（智慧）、「甲冑」（慈悲）です。種子はबु（ボ、bu）です。
准胝観音の功徳は、『七仏倶胝仏母心大准提陀羅尼法』に説かれており、この真言と印契の密法によって、十悪罪や五逆罪などの重い罪を滅し、一切の善法を成就するとされています。また、戒律を具足し、清廉潔白の身となり、速やかに心の清浄を得るとも説かれています。在家の行人が飲酒や肉食を断つことなく、妻子があっても、准胝仏母を本尊とすることで、あらゆる仏法・密法を成就することができるとされています。
『仏説七倶胝仏母心大准提陀羅尼経』には、准胝真言を唱え、これを日々に保つことで、災難や事故、病気等の苦しみがなくなり、あらゆる行いが円滑に進むと説かれています。また、幸福に恵まれず、才能にも恵まれない人でも、准胝観音の陀羅尼法の伝授を受けることで、速やかに無上の覚りを得ることができるとされています。さらに、准胝真言を常に記憶にとどめ、この真言を唱えて善行となる戒律を守ることで、あらゆる願いが成就するとも説かれています。
曹洞宗では「龍樹菩薩讃準提大明陀羅尼」としてよく唱えられ、真言宗では、醍醐寺の在家用の勤行次第「準提観音念誦次第」にも『準提功徳頌』が取り上げられています。この頌は龍樹菩薩の作とされています。
禅宗の『無門関』には、准胝観音を信仰していた倶胝和尚の話が紹介されています。倶胝和尚は、准胝観音の真言を唱えながら、指を一本立てるだけで人々を教化したとされています。この話は、覚りが言葉や形式にとらわれないことを示唆しています。
明代の袁黄は、准胝観音の信仰によって運命を転換させた人物として知られています。彼は、占いで寿命や運命を予言されていましたが、准胝観音の呪法を授かり、善行を積むことで、運命の呪縛を脱し、長生きすることができたとされています。
経典には、准胝観音の像容は二臂、四臂、六臂、十八臂、五十四臂、八十四臂と説かれていますが、日本では一面三目十八臂の像が最も一般的です。四臂は赤色、六臂は黄色、十八臂は白色とされています。准胝観音は千手観音と混同されることがありますが、正面の左右の二手が「説法印」を結んでいるのが准胝観音で、「合掌」をしているのが千手観音です。また、蓮華座の下に難陀・跋難陀の二大龍王がいることが多いのも特徴です。
准胝観音は、日本の禅宗寺院でもよく拝まれており、江戸時代以降の作例が多く見られます。奈良時代や平安時代の単独の造像例は少ないものの、京都の大報恩寺や奈良の新薬師寺に、准胝観音の像が残されています。
日本には、准胝観音を本尊とする寺院が多く存在します。高野山の准胝堂や醍醐寺の准胝堂、京都の聖護院などが有名です。また、泉涌寺や西明寺、宝戒寺など、多くの寺院で准胝観音を祀っています。海外では、台湾の準提院や中国の寒山寺などにも祀られています。
准胝観音の図像は、東京国立博物館や細見美術館などで見ることができます。これらの図像は、准胝観音の美しい姿と深い信仰を今に伝えています。
准胝観音は、仏教における重要な菩薩であり、その慈悲と功徳は多くの人々に心の安らぎをもたらしています。准胝観音の多様な側面、起源、信仰、そしてその姿を通して、仏教の奥深さを感じ取ることができるでしょう。
准胝観音の多様な側面
准胝観音は、准胝仏母とも呼ばれ、日本の真言系では変化観音として六観音の一尊に数えられます。一方、天台系では観音ではなく仏母として扱われます。インドやチベットでは一般的に仏母とされ、変化観音とはみなされません。興味深いことに、インドでは観音は男性名詞ですが、准胝は女性名詞であり、女尊として表現されています。准胝は、五守護女尊や摩利支天と同様に、特定の陀羅尼と結びついた女尊であり、密教においては七倶胝仏母とも称されます。密号は最勝金剛、降伏金剛です。
准胝観音の名前の由来
准胝の梵名は、チュンダー(Cundā)またはチュンディー(Cundī)を音写したものとされ、さらにcuṇḍīに還元する説もあります。日本では、准胝の還梵はチュンディーとされてきましたが、漢名の准胝はチュンダー陀羅尼における「チュンデー」という語の音写であるという説も有力です。インド原典では、チュンダーとされています。
准胝観音の起源
准胝観音の源流については、ヒンドゥー教の女神チャンディー(Caṇḍī)に比定する説があります。チャンディーはドゥルガーの異名であり、准胝は多羅観音や葉衣観音と同様に、ヒンドゥー教の女神が仏教に取り入れられたものと考えられています。また、売春宿の主人とする説や、神聖娼婦に結びつける説も存在します。さらに、「チュンダー陀羅尼」より生じたとする説もあり、この説では、行者が自らを奮起させるために唱える陀羅尼が尊格化されて准胝観音になったと考えられています。
日本における准胝観音の信仰
日本では、准胝仏母、准胝観音菩薩、准胝観世音菩薩、天人丈夫観音など、さまざまな呼称で呼ばれています。中国では、密教だけでなく、禅宗や浄土宗、道教でも信仰されており、かつてはインドや東南アジアでも信仰されていました。真言宗の開祖である空海は、高野山の開基の際に准胝堂を建立し、准胝観音を弟子たちの得度の本尊として祀りました。高野山では、准胝堂で僧侶となるための得度儀式が行われていました。真言宗醍醐派の開祖・聖宝も醍醐寺に准胝観音を勧請し、その孫弟子の仁海は六観音に准胝観音を加え、その後も長く民衆の信仰を集めています。
真言・三昧耶形・印
准胝観音の真言は、短呪の「オン・シャレイ・シュレイ・ジュンテイ・ソワカ」がよく知られています。長咒は「ナモサッタナン・サンミャクサンモダクチナン・タニヤタ・オン・シャレイ・シュレイ・ジュンテイ・ソワカ」です。
三昧耶形は「寶瓶」（方便）、「金剛杵」（智慧）、「甲冑」（慈悲）です。種子はबु（ボ、bu）です。
准胝観音の功徳
准胝観音の功徳は、『七仏倶胝仏母心大准提陀羅尼法』に説かれており、この真言と印契の密法によって、十悪罪や五逆罪などの重い罪を滅し、一切の善法を成就するとされています。また、戒律を具足し、清廉潔白の身となり、速やかに心の清浄を得るとも説かれています。在家の行人が飲酒や肉食を断つことなく、妻子があっても、准胝仏母を本尊とすることで、あらゆる仏法・密法を成就することができるとされています。
『仏説七倶胝仏母心大准提陀羅尼経』には、准胝真言を唱え、これを日々に保つことで、災難や事故、病気等の苦しみがなくなり、あらゆる行いが円滑に進むと説かれています。また、幸福に恵まれず、才能にも恵まれない人でも、准胝観音の陀羅尼法の伝授を受けることで、速やかに無上の覚りを得ることができるとされています。さらに、准胝真言を常に記憶にとどめ、この真言を唱えて善行となる戒律を守ることで、あらゆる願いが成就するとも説かれています。
禅と准胝観音
曹洞宗では「龍樹菩薩讃準提大明陀羅尼」としてよく唱えられ、真言宗では、醍醐寺の在家用の勤行次第「準提観音念誦次第」にも『準提功徳頌』が取り上げられています。この頌は龍樹菩薩の作とされています。
禅宗の『無門関』には、准胝観音を信仰していた倶胝和尚の話が紹介されています。倶胝和尚は、准胝観音の真言を唱えながら、指を一本立てるだけで人々を教化したとされています。この話は、覚りが言葉や形式にとらわれないことを示唆しています。
明代の袁黄は、准胝観音の信仰によって運命を転換させた人物として知られています。彼は、占いで寿命や運命を予言されていましたが、准胝観音の呪法を授かり、善行を積むことで、運命の呪縛を脱し、長生きすることができたとされています。
仏像の作例
経典には、准胝観音の像容は二臂、四臂、六臂、十八臂、五十四臂、八十四臂と説かれていますが、日本では一面三目十八臂の像が最も一般的です。四臂は赤色、六臂は黄色、十八臂は白色とされています。准胝観音は千手観音と混同されることがありますが、正面の左右の二手が「説法印」を結んでいるのが准胝観音で、「合掌」をしているのが千手観音です。また、蓮華座の下に難陀・跋難陀の二大龍王がいることが多いのも特徴です。
准胝観音は、日本の禅宗寺院でもよく拝まれており、江戸時代以降の作例が多く見られます。奈良時代や平安時代の単独の造像例は少ないものの、京都の大報恩寺や奈良の新薬師寺に、准胝観音の像が残されています。
寺院
日本には、准胝観音を本尊とする寺院が多く存在します。高野山の准胝堂や醍醐寺の准胝堂、京都の聖護院などが有名です。また、泉涌寺や西明寺、宝戒寺など、多くの寺院で准胝観音を祀っています。海外では、台湾の準提院や中国の寒山寺などにも祀られています。
美術館等
准胝観音の図像は、東京国立博物館や細見美術館などで見ることができます。これらの図像は、准胝観音の美しい姿と深い信仰を今に伝えています。
まとめ
准胝観音は、仏教における重要な菩薩であり、その慈悲と功徳は多くの人々に心の安らぎをもたらしています。准胝観音の多様な側面、起源、信仰、そしてその姿を通して、仏教の奥深さを感じ取ることができるでしょう。
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