雲門文偃

雲門文偃（うんもん ぶんえん）

雲門文偃は、中国の唐末から五代にかけて活躍した禅僧で、禅宗五家の一つである雲門宗の開祖です。諡号は大慈雲匡聖宏明大師。俗姓は張氏で、蘇州嘉興県（現在の浙江省嘉興市南湖区）の出身です。

生涯

幼い頃から出家を志し、嘉興の空王寺で志澄律師に師事、17歳で正式に出家しました。20歳で具足戒を受け、再び志澄律師のもとで四分律などを学びました。

その後、黄檗希運禅師の弟子である睦州道蹤禅師に師事しましたが、三度も入門を拒否されました。しかし、その際に足を挫いたことがきっかけで大悟したと伝えられています。さらに雪峰寺で修行を重ね、慧能門下の雪峰義存禅師の法を継ぎました。雪峰寺では、自らの才能を隠し、一般の修行僧に混じって修行に励んだとされています。

雪峰山を離れた後は、各地を遊歴し、多くの禅者と交流しました。乾化元年（911年）には、曹渓の宝林寺（現在の南華寺）を訪れ、六祖慧能禅師の塔を拝みました。その後、韶州の霊樹如敏禅師の道場である霊樹寺に移り、そこで首座として修行に励みました。

霊樹禅師は、雲門文偃が来るまで20年間首座を置かず、「わが首座は牧牛となって遊方中である」と予言していたと伝えられています。雲門文偃が霊樹寺に到着すると、霊樹禅師は彼を首座に任命しました。貞明4年（918年）に霊樹禅師が亡くなると、遺言により雲門文偃が後を継ぎ、54歳でその法席を継承しました。

さらに5年後の同光元年（923年）、雲門文偃は韶州の雲門山（現在の広東省韶関市乳源県）を開き、開山となりました。光泰院（別名雲門寺）を建立し、常時1000人もの修行者が集まるようになりました。南漢の劉龑からは匡真大師の名を賜りました。南漢の厳しい政治状況の中、現実と仏法の狭間で弟子たちを教育し、日常的な言葉を用いて禅の教えを説きました。『伝灯録』には、文偃の法を継いだ者が61人も記録されています。後に、その門派は大きく栄え、「雲門宗」を形成するに至りました。

乾和7年4月10日（949年5月10日）の深夜、雲門禅師は86歳で亡くなりました。雲門山に30年以上住み続けました。遺言により塔は建てられず、遺体は方丈に安置されました。没後17年経ってから奇瑞が現れたため、乾徳4年（966年）に北宋の太祖から「大慈雲匡聖宏明大師」と追諡されました。彼の言葉をまとめたものに『雲門広録』があります。

語録

雲門禅師の言葉は、禅の公案として多く用いられており、趙州和尚と並んで、公案の題材を多く提供した禅僧として知られています。彼の言葉は、『碧巌録』などの公案集に多く収録され、現代においても広く知られています。

彼の禅語には、「花薬欄」「金毛獅子」「乾屎橛」などがありますが、最も有名なのは「日日是好日（にちにちこれこうにち。ひびこれこうじつ）」という言葉です。

ある時、雲門禅師は修行者たちに「十五日以前のことは問わない。十五日以後のことを一句で述べよ」と問いかけました。しかし、誰も満足のいく答えを返せなかったため、自ら「日日是好日」と答えました。

この言葉は、良いことも悪いことも含めて、現実をしっかりと見つめ、今生きていることへの感謝を知れば、毎日が良い日になるという意味です。

伝記

『祖堂集』巻十一
『景徳伝灯録』巻十九
『禅林僧宝伝』巻二

脚注

注釈

出典

参考文献

永井政之『雲門 立て前と本音のはざまに生きる』臨川書店〈唐代の禅僧11〉、2008年。ISBN 978-4-653-04001-9。
禅学大辞典編纂所編 編『新版・禅学大辞典』大修館書店、2000年。ISBN 4-469-09108-1。

外部リンク

IRIZ＞禅籍データベース＞雲門広録
日本大百科全書(ニッポニカ)『雲門文偃』 - コトバンク

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