青山士

青山士（あおやま あきら）

概要

青山士は、1878年9月23日に静岡県で生まれた土木技術者、内務官僚です。内村鑑三の門下生であり、東京帝国大学では広井勇の指導を受けました。パナマ運河建設に携わった唯一の日本人として知られ、帰国後は内務省に入省し、荒川放水路の建設や信濃川大河津分水路の改修工事を指揮しました。内務技監も務めましたが、官僚間の処遇問題で辞職。その後も土木学会会長として活躍し、名誉会員の称号を得ました。

来歴

生い立ち

静岡県磐田市で、青山徹・ふじ夫妻の三男として生まれました。東京府尋常中学校（現在の日比谷高校）、第一高等学校を経て、東京帝国大学工科大学土木工学科に進学。一高在学中に内村鑑三の講演に感銘を受け、門下生となります。土木技術者を志したのも内村の影響で、東京帝大に進んだのは、広井勇が主任教授であったことが理由でした。広井の講義を通じてパナマ運河への思いを募らせました。

パナマ運河

1903年、大学卒業後、広井勇の紹介状を持って渡米。コロンビア大学教授W. H. バーの紹介で、鉄道会社での測量業務を経て、パナマ運河工事委員会に採用されました。末端の測量員からスタートし、ジャングルでの過酷な測量を経験しましたが、その勤勉さと手腕が評価され、測量技師、設計技師と昇進。ガトゥン閘門の設計を担当し、ガトゥン工区の副技師長にまで上り詰めました。しかし、日露戦争後のアメリカでの日本人警戒の高まりもあり、1911年に帰国しました。

日本に帰国後

1912年、内務省に入省し、東京土木出張所において荒川放水路の建設を19年間指揮しました。また、鬼怒川の改修工事にも携わりました。1927年には、信濃川大河津分水路の自在堰陥没事故の修復と工事完成のため、新潟土木出張所長に就任。大河津分水路の改修工事を完成させました。1934年には内務技監に就任しますが、技官と事務官の処遇格差による対立が激化し、責任を取る形で辞職しました。その後は土木学会会長を務め、名誉会員となっています。

内務技監退任後は、東京市水道水源調査委員会や兵庫県水害復興専門委員会などの委員、満州国交通部嘱託として、土木行政や治水事業の指導にあたりました。太平洋戦争中には、海軍からパナマ運河の情報を求められましたが、破壊には協力せず、技術者の良心に基づいた行動を取りました。

戦後は、磐田の実家に移り、隠居生活を送りましたが、県などの土木事業の技術顧問として活動を続けました。1963年に老衰のため死去しました。

思想

青山士は、内村鑑三の影響を強く受け、私欲のためではなく、後世の人類のために貢献するという思想を貫きました。その思想は、荒川放水路の記念碑や大河津分水路の改修記念碑に表れています。荒川放水路の記念碑には名前が刻まれておらず、大河津分水路の記念碑には「萬象ニ天意ヲ覚ル者ハ幸ナリ」「人類ノ為メ國ノ為メ」とエスペラントと共に刻まれています。

人物

青山士は漢詩や俳句を愛し、武士的な気風を持っていましたが、スキーやテニスも楽しむ人物でした。女性の技術習得も推奨しました。義理堅く、責任感が強く、不正を憎む性格で、用地買収では土地所有者との丁寧な交渉を重視しました。岩淵水門工事では、自ら泥にまみれて作業員と苦労を共にし、年末には「野外天ぷら大会」を開催し、費用を自費で賄いました。また、関東大震災時の朝鮮人虐殺事件の際には、工事事務所に匿った朝鮮人労働者を自宅にかくまい手当てをしました。一方で、部下の再就職などの「些事」には意を払わず、近寄りがたい人物であったという証言もあります。

家族・親族

青山家は代々旅宿業を営む家で、中泉を代表する素封家でした。祖父の青山宙平は、郡長や政治家として活躍し、東海道線の建設用地を提供しました。実兄の市川紀元二は、日露戦争で戦死した軍人です。

略歴

1878年 - 静岡県豊田郡中泉村にて誕生。
1892年 - 東京府尋常中学校入学。
1896年 - 第一高等学校予科二部入学。
1899年 - 東京帝国大学工科大学土木工学科入学。
1903年 - 東京帝国大学工科大学土木工学科卒業。
1903年 - ニューヨークセントラル・アンド・ハドソンリバー鉄道入社。
1904年 - パナマ運河工事委員会入局。
1912年 - パナマ運河工事委員会退職。
1912年 - 内務省入省。
1912年 - 東京土木出張所勤務。
1915年 - 結婚。
1915年 - 荒川改修事務所従務。
1915年 - 岩淵工場主任。
1918年 - 東京第二土木出張所勤務。
1918年 - 荒川改修事務所従務。
1918年 - 岩淵工場主任。
1918年 - 荒川改修事務所主任。
1923年 - 東京土木出張所勤務。
1924年 - 東京地方森林会議員。
1924年 - 千住機械工場労働調査係係長。
1927年 - 新潟土木出張所所長。
1928年 - 新潟県道路調査会委員。
1928年 - 都市計画新潟地方委員会委員。
1928年 - 新潟地方森林会議員。
1928年 - 内務省臨時港湾調査会七尾港関係委員。
1930年 - 内務省臨時港湾調査会伏木港酒田港関係委員。
1931年 - 都市計画長野地方委員会委員。
1932年 - 都市計画石川地方委員会委員。
1932年 - 内務省臨時港湾調査会七尾港関係委員。
1934年 - 内務省内務技監。
1934年 - 商工省工業品規格統一調査会委員。
1934年 - 商工省国産振興委員会委員。
1934年 - 内務省国立公園委員会委員。
1934年 - 内務省土木会議議員。
1934年 - 文部省震災予防評議会評議員。
1935年 - 臨時産業合理局セメント製造業改善委員会委員。
1935年 - 土木学会会長。
1935年 - 内務省利根川治水専門委員。
1936年 - 内務省神宮関係施設調査会委員。
1936年 - 内務省退官。
1937年 - 内務省顧問。
1938年 - 東京市水道水源調査委員会委員。
1938年 - 兵庫県水害復興専門委員会委員。
1939年 - 満州国交通部嘱託。
1949年 - 建設省荒川計画降水量検討会座長。
1950年 - 土木学会名誉会員。
1963年 - 静岡県磐田市にて死去。

栄典

1914年 - 従六位。
1915年 - 大礼記念章。
1916年 - 正六位。
1919年 - 従五位。
1924年 - 正五位。
1925年 - 勲四等瑞宝章。
1929年 - 従四位。
1930年 - 勲三等瑞宝章。
1934年 - 正四位。
1936年 - 従三位。
1963年 - 旭日中綬章。

脚注

参考文献

高崎哲郎『評伝技師青山士　その精神の軌跡－万象ニ天意ヲ覚ル者ハ…』 鹿島出版会、2008年
旧版『評伝 技師青山士の生涯』 講談社、1994年 ISBN 4062069997 を改訂
高崎哲郎『山河の変奏曲　内務技師青山士　鬼怒川の流れに挑む』 山海堂、2001年
青山士写真集編集委員会『写真集 青山士 後世への遺産』 山海堂、1994年 ISBN 4381006453

外部リンク

青山士アーカイブス（土木学会図書館）
信濃川大河津資料館
国土交通省関東地方整備局荒川下流河川事務所
同事務所が設置する荒川知水資料館（東京都北区）には常設展示として青山士コーナーがある。また青山を縁として、パナマ運河博物館と姉妹館協定を結んでいる。

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