非常局

非常局とは

非常局は、電波法で定められた無線局の一種で、非常通信業務のみを行うことを目的として開設される無線局です。具体的には、地震、台風、洪水、津波、雪害、火災、暴動など、非常の事態が発生した場合、または発生するおそれがある場合に、人命の救助、災害の救援、交通通信の確保、秩序の維持のために無線通信を行う役割を担います。

定義

総務省令の電波法施行規則第4条第1項第21号において、非常局は「非常通信業務のみを行うことを目的として開設する無線局」と定義されています。また、非常通信業務は、同規則第3条第1項第14号で「非常の事態が発生し、または発生するおそれがある場合において、人命の救助、災害の救援、交通通信の確保、秩序の維持のために行う無線通信業務」と定義されています。

概要

非常局は、その名の通り、非常通信に特化した無線局です。陸上局ではありませんが、電波法施行令第3条第2項第6号により、陸上の無線局とみなされます。非常局の歴史は古く、1950年（昭和25年）に日本国有鉄道（現JRグループ）や建設省（現国土交通省）が、列車運行や水防活動、洪水予警報などの情報収集のために開設したのが始まりです。

当初は有線通信を補完する役割を担い、短波を利用していましたが、その後VHFを利用する局も現れました。しかし、移動体通信技術の発達や無線機の信頼性向上により、非常局の必要性は薄れ、その数は減少しました。

免許

無線局免許手続規則第2条第3項により、二つ以上の種別の無線局の業務を同時に行うことを目的とする無線局の免許申請は原則として認められません。非常局は、定義上、非常通信業務以外の業務を行うことはできません。また、非常局以外の無線局も、非常通信業務を兼ねることはできません。

ただし、かつては「非常通信業務をあわせ行う無線局を開設しようとするとき」は単一の無線局として免許できるという規定がありました。現在でも、一台の無線機に対して非常局と他の無線局の二重免許を取得することは可能です。

非常局の種別コードはEMで、免許の有効期間は5年です。ただし、最初の免許の有効期限は5年以内の特定の11月30日となります。

免許人

過去に免許を取得した主な免許人には、国（建設省）、地方公共団体（神奈川県、京都府、大阪府、大阪市）、旧公社（日本国有鉄道）などが挙げられます。

電波の型式と周波数

電波法施行規則第12条第13項では、無線電信による非常通信を行う無線局は、A1A電波の4,630kHzを使用することが推奨されています。この無線電信とは、モールス符号による通信のことです。通信の相手は、原則として免許人所属の非常局に限られます。

電源

無線設備規則第50条では、非常局の電源は商用電源に依存せず、手回し発電機やガソリンなどを利用した原動発電機で、24時間以上使用できるものが求められています。これは、非常時には商用電源が使えなくなる可能性を考慮したものです。

無線業務日誌

電波法施行規則第40条第1項第3号により、非常局には無線業務日誌の備え付けが義務付けられています。日誌には、無線従事者の情報、非常時の無線通信の実施状況、通信状態、電波の周波数偏差、機器の故障状況、電波規正の指示、電波法違反の運用などを記録する必要があります。

免許申請手数料・電波利用料

非常事態に際して臨時に開設される非常局は、免許申請手数料と電波利用料が免除されます。

運用

非常局の運用は、無線局運用規則第4章に定められています。非常時の無線通信は、同章第2節に規定されており、A1A電波4,630kHzは連絡設定時に使用し、連絡設定後の通信は通常使用する電波で行います。ただし、通常使用する電波で通信が困難な場合は、この限りではありません。

連絡を設定するための呼び出しや応答には「OSO」を3回、通報を送信する際には「ヒゼウ(EXZ)」を前置します。「OSO」を前置した呼び出しを受信した局は、応答する場合を除き、混信を与えるおそれのある電波の発射を停止して傍受しなければなりません。また、非常事態が発生したことを知った無線電信局は、毎時0分過ぎと30分過ぎから各10分間、A1A電波4,630kHzで聴守する必要があります。

有線通信が復旧した場合は、速やかに非常通信を停止しなければなりません。

無線局運用規則第137条により、非常時の無線通信は、同規則第4章が対象とする無線局以外の無線局も実施できます。非常通信は電波法第52条第4号に規定する目的外通信の一つであるため、電波の型式と周波数が合致すれば、免許人所属の非常局以外の無線局とも通信ができます。また、非常通信の訓練も、電波法第52条第6号に基づく目的外通信として認められています。

無線電信の通報は和文電報形式で行われます。

機能試験

無線局運用規則第9条により、非常局は1週間に1回以上通信連絡を行い、無線設備の機能を確かめる必要があります。

報告

非常通信を行った場合、電波法第80条第1号と電波法施行規則第42条の3に基づき、速やかに文書で総務大臣に報告する必要があります。この規定は、非常局以外の無線局にも適用されます。

操作

非常局は陸上の無線局であるため、原則として第三級陸上特殊無線技士以上の無線従事者による管理が必要です。ただし、電波法施行規則第33条や第33条の2に基づき、非常時で無線従事者を確保できない場合や、プレストーク方式による無線電話の技術操作など、例外的に無線従事者を必要としない場合があります。

無線電信については、モールス通信の操作は無線従事者に限られます。総合無線通信士や国内電信級陸上特殊無線技士、陸上無線技術士の資格が必要です。

検査

落成検査、定期検査、変更検査は、国以外の者が設置する場合に限り、登録検査等事業者による点検が可能となり、その結果に基づき一部省略される場合があります。

定期検査の周期は5年です。

沿革

1949年（昭和24年）：私設無線電信電話規則が改正され、無線電信4,200kcが非常通信用として規定。
1950年（昭和25年）：電波法施行、無線電信法廃止。非常局と非常通信業務が定義され、無線電信の非常局には4,200kcが必須となる。免許の有効期間は5年で、最初の有効期限は昭和27年11月30日まで。当初は非常通信業務を併せ行う無線局を開設できたが、12月に削除。
1952年（昭和27年）：最初の再免許。以降、5年毎の11月30日に満了するよう免許。
1953年（昭和28年）：無線電信による通信を行う非常局は、A1電波4,200kcを使用する必要がある。
1954年（昭和29年）：非常通信周波数が4,630kcに変更。
1958年（昭和33年）：周波数変調の無線電話の非常局が免許。無線電信を行う非常局の周波数は「なるべくA1電波4,630kc」に変更。他業務の無線局も4,630kcを使用可能となり、非常通信が可能となる。
1972年（昭和47年）：周波数の単位がkcからkHzに変更。
1983年（昭和58年）：電波型式の表記がA1からA1Aに変更。
1993年（平成5年）：電波利用料制度化。自局と相手方の移動の有無により、適用される項が異なる。

参考

種別が非常局以外でも、非常通信用周波数が指定された無線局があります。

脚注

（省略）

関連項目

無線局
SOS#歴史
無線用語

外部リンク

* 災害時等に非常通信等を行う無線局に係る手数料等の免除 - 総務省電波利用ホームページ

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