領事館警察

領事館警察とは

領事館警察は、第二次世界大戦以前の日本において、外務省（後に大東亜省）に設置された警察組織です。海外に置かれた日本の領事館に警察官を配置し、在留邦人の保護や治安維持、情報収集などの活動を行いました。別名として外務省警察とも呼ばれていました。

設置の経緯と運用

領事館警察の設置は、日朝修好条規や日清通商航海条約などに基づく領事裁判権が根拠となっています。日本は、自国の在留民保護や権益擁護を名目に、強引に「領事警察権」を主張し、各地の領事館に警察官を常駐させました。これにより、領事警察権は既成事実化されていきました。

1880年（明治13年）に朝鮮の釜山に最初の領事館警察が設置されて以降、清国、シャム、満洲国などにも展開されました。最盛期には、中国各地の領事館警察署に最大3500人もの警察官が勤務していたとされています。

当初は、在留邦人の中でも素行の悪い者たちの取り締まりが主な任務でしたが、1910年代半ばからは、満洲における「不逞鮮人」の取り締まりが強化されていきました。

領事館警察は、軽機関銃などで武装していたものの、関東軍や支那駐屯軍のような圧倒的な軍事力を持つ組織の補完的な存在でした。しかし、その存在意義を回復しようと、組織の特性を活かした活動を模索する動きが出てきました。

その中で、「昭和十年関東軍秋季治安粛清計画ニ基ク在満外務省警察行動要綱」では、共産匪賊や反満抗日分子（特に朝鮮人）の徹底的な情報収集・捜索・検挙を重視する方針が示されました。これは、特高警察のような活動を意味しており、実際、1920年代には内務省からの人材派遣で特高警察のノウハウを導入し、1935年には独自の「高等警察服務内規」を制定するなど、特高警察としての機能を強化していきました。この内規は、国内の「特別高等警察執務心得」に先行するものでした。

日中戦争以降は、特に特高警察としての活動が重視されるようになり、在華日本人反戦同盟や、在中国朝鮮人の民族独立運動、在中国外国人への監視などが行われるようになりました。1940年には、北支警察部の幹部が、外務省警察の任務が警備警察から高等警察へと移行しつつあると訓示しています。

戦後

第二次世界大戦の敗戦に伴い、領事館警察は解体されました。しかし、特高警察としての活動経験を持っていた警察官たちは、連合国軍最高司令官総司令部（GHQ）の「人権指令」による影響を受けることなく、その経験とノウハウを活かし、各府県警察部や特別審査局（後の公安調査庁）、入国管理局などに再就職していきました。

主な業務

領事館警察の主な業務は以下の通りです。

在留邦人の取り締まりおよび保護
領事館の警備
反日活動家の情報収集と監視

沿革

領事館警察の主な沿革は以下の通りです。

1880年（明治13年）3月：釜山領事館に警察官を派遣（朝鮮国内初の領事館警察の設置）
1884年（明治17年）3月：上海領事館に警察官を派遣（中国国内初の領事館警察の設置）
1899年（明治32年）4月：韓国国内の租界警察権を代行
1905年（明治38年）11月：第二次日韓協約により韓国統監府に警察権を移譲（韓国国内における領事館警察の終焉）
1928年（昭和3年）7月：外務省が独自の警察官を採用（従来は内務省からの出向）
1935年（昭和10年）7月：上海総領事館警察部を設置
1936年（昭和11年）7月：天津総領事館警察部を設置
1937年（昭和12年）12月：満洲国に対する治外法権撤廃により、満洲国に警察権を移譲（満洲国内における領事館警察の終焉）
1938年（昭和13年）7月：在北京日本大使館に北支警務部（華北地区の領事館警察の統括機関）を設置
1939年（昭和14年）10月：在上海日本大使館に中支警務部（華中地区の領事館警察の統括機関）を設置
1942年（昭和17年）11月：大東亜省設置により、大東亜省警察官となる
1945年（昭和20年）8月：敗戦（中国国内における領事館警察の事実上の終焉）

主な事件

領事館警察が関与した主な事件は以下の通りです。

鴟河浦事件（韓国では鴟河浦義挙）：日本人商人を狙った強盗殺人事件で、犯人の金九は後に大韓民国臨時政府の大統領となりました。
壬午事変：朝鮮軍守旧派による日本公使館襲撃事件で、多数の巡査が殉職しました。
寛城子事件：支那兵による在留邦人・警察官への暴行と、それに続く駐屯日本軍への攻撃事件で、邦人を保護していた警察官を含む18名が殺害されました。
上海天長節爆弾事件：反日テロリスト尹奉吉による爆弾テロ事件で、事件後、尹奉吉を教唆した大韓民国臨時政府はテロ組織として上海を追われることになりました。
朝鮮排華事件：吉林日本領事館の警察官が中国当局に逮捕された事件です。
汕頭邦人巡査射殺事件：汕頭日本領事館の巡査が射殺された事件です。
漢口邦人巡査射殺事件：漢口日本領事館の巡査が射殺された事件です。
通州事件：中国人部隊による日本軍機関襲撃・居留民虐殺事件で、約230名が殺害されました。
南京総領事館毒酒事件：外務政務次官歓迎祝賀会の際に、中国人給仕によって毒殺事件が発生し、領事館員2人が死亡しました。

関連法令

外国在勤ノ外務省警察官ニ関スル件（大正5年8月7日勅令第196号）

関連項目

外務省
大東亜省
治外法権
特別高等警察
外事課
在外公館[[警備対策官]]
外交保安局

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