鳥黐

鳥黐（とりもち）とは

鳥黐は、鳥や昆虫を捕獲するために古くから使用されてきた、強い粘着性を持つ物質です。学術的にはロウに分類されます。

鳥黐の概要

鳥黐は、木の枝などに塗って鳥の足をくっつけたり、黐竿と呼ばれる道具の先に付けて直接捕獲したりするために使われます。その歴史は古く、世界各地で様々な材料を用いて作られてきました。現代では、化学合成されたものがネズミ捕り用などとして市販されています。

日本では、「もち」という言葉が元々鳥黐を指していましたが、食品の餅が普及したため、区別するために「鳥黐」と呼ばれるようになりました。

鳥黐の製法

鳥黐の原料は、地域や入手可能な植物によって様々です。

モチノキ属植物（モチノキ、クロガネモチ、ソヨゴなど）
ヤマグルマ
ガマズミ
ナンキンハゼ
ヤドリギ
パラミツ
イチジク属植物（ゴムノキなど）の乳液
ツチトリモチの根

日本では、モチノキやヤマグルマが主な原料です。モチノキから作られたものは「シロモチ」または「ホンモチ」、ヤマグルマから作られたものは「アカモチ」「ヤマグルマモチ」と呼ばれます。イヌツゲから作られたものは「アオモチ」と呼ばれます。

モチノキの樹皮から鳥黐を作る場合、まず樹皮を細かく砕いて水洗いし、水に溶けない粘着性物質を取り出します。大量生産の場合は、春から夏に採取した樹皮を水に浸し、不要な木質を腐敗させて除去します。その後、臼で細かく砕き、水洗いして不純物を取り除きます。得られた鳥黐は水に入れて保存します。場合によっては油を混ぜることもあります。

鳥黐の組成

鳥黐の主成分は、ワックスエステルと呼ばれる高級脂肪酸と高級アルコールが結合した化合物です。これは蝋の一種であり、植物由来で常温でゴム状の粘着性を示す半固体蝋が鳥黐であると言えます。例えば、ソヨゴから得られるソヨゴもちはイリシルアルコールとモチアルコールのパルミチン酸エステル、ヤマグルマから得られるヤマグルマもちはパルミチン酸、セロチン酸、オレイン酸、トコロ酸などの脂肪酸と樹脂アルコールを含んでいます。その他、ベチュリン、α-アミリン、β-アミリン、ルペオールといったテルペノイドも含まれています。

これらの成分により、鳥黐は水に溶けず、二硫化炭素、エーテル、ベンゼン、石油エーテルなどの有機溶媒には溶けますが、アルコールには溶けません。

鳥黐の用法

鳥黐は強力な粘着力を持つため、鳥刺しなどの鳥を捕獲する職業の人々によって使用されてきました。食用に鳥を捕獲する場合は、黐竿を使って直接小鳥をくっつけます。観賞用の鳥を捕獲する場合は、鳥黐を塗った枝に鳥をおびき寄せ、足がくっついて飛べなくなったところを捕獲します。また、ネズミの駆除にも利用されました。

かつては駄菓子屋でも販売され、子供たちが虫取りに使うこともありました。しかし、粘着力が強すぎるため、標本には不向きです。

鳥黐は水につけると粘着性がなくなるため、保存や取扱いの際には水で湿らせておくか、口中で噛んでおきます。枝などに塗りつけた後、乾かすと再び強い粘着性を示します。

現在の鳥黐

日本では、鳥獣保護法の施行により、鳥黐による鳥類の捕獲は原則として禁止されています。現在では、ネズミの駆除用などに少量市販されていますが、その成分は天然ゴム製や化学合成されたものに変わっています。

禁止猟具としての鳥黐

かつては、鳥黐を使用した黐縄やはごなどの猟具が存在しましたが、現在では禁止猟具に指定されています。鳥類の捕獲自体も銃猟か網猟に限定されているため、鳥黐を使用して鳥類を捕獲する行為は鳥獣保護法違反となります。

鳥黐自体はネズミ捕りや玩具などの用途で市販されていますが、鳥類の捕獲には絶対に使用してはなりません。

海外では、フランスがEUで唯一、限定的に鳥黐の使用を認めていますが、鳥が無差別に掛かってしまうため、鳥類保護団体などが禁止を求めています。

鳥黐は、その歴史的背景や文化的な側面を持つ一方で、現代においては環境保護の観点から使用が制限されている、複雑な側面を持つ物質です。

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