黒田一成

黒田一成（くろだかずしげ）

安土桃山時代から江戸時代前期にかけての武将。黒田家の家臣として重きをなし、黒田二十四騎や黒田八虎の一人として知られています。後に福岡藩の大老職を世襲する三奈木黒田家の初代当主となりました。

生い立ちと黒田家入り

元亀2年（1571年）、摂津国伊丹（現在の兵庫県伊丹市）に、荒木村重の家臣であった加藤重徳の次男として誕生しました。幼名は玉松と称します。

黒田家との縁は、父・重徳が織田信長に反旗を翻した村重の説得に向かい、有岡城に幽閉された黒田孝高（当時の名、小寺孝隆）を世話したことに始まります。孝高は、有岡城の戦いで村重が没落した後、この父の恩に報いるため、一成を養子として引き取りました。一成は孝高の嫡男である長政の弟のように大切に育てられたと言われています。

武勇と戦功

武将としての初陣は、天正12年（1584年）、和泉国における根来衆・雑賀衆の一揆との戦い、岸和田合戦でした。その後も四国征伐や九州平定といった豊臣秀吉による主要な戦役に従軍。特に根白坂の戦いでは自ら二つの敵首級を挙げるなど、武功を重ねてその名を高めました。

黒田家が豊前国に移封された当初、一成の所領は80石程度でしたが、天正18年（1590年）には2,488石へと大幅に加増され、さらに2,000石が追加されて4,488石となりました。城井鎮房との戦いで黒田勢が敗走した際には、主君・長政の身代わりとなって殿を務めることを志願するなど、忠義心も厚かったと伝えられています。

豊臣秀吉による朝鮮出兵（文禄・慶長の役）では、長政の先鋒として常に最前線で戦いました。金海城では一番乗りを果たし、晋州城の戦い、白川・西生浦での籠城戦、稷山の戦いなど、各地で目覚ましい働きを見せました。

慶長5年（1600年）の関ヶ原の戦いでも、黒田隊の武功を牽引しました。前哨戦である木曽川・合渡川の戦いでは敵将の首を挙げ、本戦では石田三成の重臣である蒲生将監（安藤直重）を討ち取るなど、重要な戦果を挙げました。一成をはじめとする黒田隊の活躍は目覚ましく、この功績によって長政は徳川家康からその働きを高く評価され、筑前国（福岡藩）52万3千石の大封を与えられることとなります。

三奈木黒田家の成立

黒田家の筑前入国後、一成は下座郡内に1万2千石の領地を与えられました。三奈木村（現在の福岡県朝倉市）に居館を構え、最終的には1万6,205石を領するに至ります。これ以降、一成の家系は「三奈木黒田家」と称されるようになりました。彼の馬印は白い御幣であったと記録されています。

藩の重臣として、慶長19年（1614年）の大坂冬の陣では、二代藩主・黒田忠之に従い出陣。大坂城の外堀埋め立てに貢献しました。さらに寛永14年（1637年）に勃発した島原の乱では、江戸幕府軍総大将・松平信綱の軍議に招かれ、その意見を求められるほどの重きをなしました。藩士たちが当時の藩主・忠之ではなく一成の指揮に従ったとされる逸話も残っており、その信望の厚さがうかがえます。軍議においては、兵糧攻めを進言したと言われています。

人物像と晩年

一成は大変な巨漢で、身の丈六尺（約180cm）にも及び、体格に合わせた長政よりも大きな大水牛脇立兜を着用していたといいます。怪力の持ち主でもあり、「黒田家臣傳」にはその剛力が鹿の角を引き裂くほどだったという城井鎮房の強弓を引くことができた逸話が記されています。また、その人となりは寛容で温厚であったと評されています。多くの戦功を立てましたが、常に主君である長政を立て、自らの手柄を誇ることはありませんでした。

武人であるだけでなく、教養も兼ね備えていました。歌を詠み、絵を描き、また歴史に関心を持ち『黒田長政記』を著しました。文化人としてもの一面も持ち、宮本武蔵の父・新免無二がかつて仕えたとされる新免宗貫を客将として招いたと考える研究者もいます。さらに、主君・黒田長政の命により、大坂夏の陣を描いた屏風、通称『黒田屏風』（大阪城天守閣所蔵、国重要文化財）の制作を岩佐又兵衛に依頼するなど、文化事業にも関与しました。隠居後には、久留米藩から冨田流剣豪で織部流茶人でもある土屋宗俊を招き、交流を持っています。

信仰心も篤く、島津氏や豊臣秀吉らの兵火により荒廃した領内の春日神社や美奈宜神社など、多くの神社仏閣の再建や建立に尽力しました。自ら建立した三奈木の清岩寺には、横岳江雲和尚の賛が入った一成の肖像画が現存しています。

家族に対する情愛も深く、朝鮮出兵中の父と兄を見舞おうとして海難事故で亡くなった実弟・吉松を悼みました。また、関ヶ原で没落し浪人となっていた実父・重徳と実兄・吉成を黒田家に迎え入れることを長政に願い出て認めさせました。父・重徳が黒田孝高を助けた功績もあり、兄・吉成の家系は後に藩の中老職を世襲する別格的な家柄となりました。

寛永20年（1643年）、73歳で隠居し、睡鷗と号しました。その後も13年間を過ごし、明暦2年（1656年）11月13日、86歳で波乱に満ちた生涯を閉じました。法名は睡鷗斎休江宗印居士です。墓所は福岡市博多区の崇福寺正伝庵と、朝倉市三奈木の清岩寺（清岩禅寺）にあります。

一成が興した三奈木黒田家は、以後代々福岡藩の大老職を務める筆頭重臣家として続き、明治維新まで存続しました。明治時代には黒田一義が男爵に列せられ、華族となりました。