1938年は、航空技術の進化と国際的な航空活動が著しい発展を遂げた一年でした。技術的な進歩は新たな記録樹立を可能にし、一方で国際情勢の緊迫化は航空の軍事的側面を強調する出来事も引き起こしました。
日本の航空組織再編
この年、日本の航空業界では重要な再編が行われました。既存の
日本航空輸送株式会社と、満州航空の傘下にあった国際航空株式会社が統合され、新たなナショナルフラッグキャリアとして
大日本航空が設立されました。これは、日本の航空網の整備と強化を目指す動きの一環でした。
技術開発と試験飛行
航空技術の分野では、実用化に向けた様々な試みが見られました。
1月20日、Flight Refuelling Ltdの給油機
アームストロング・ホイットワースAW.23が、インペリアル航空のショート エンパイヤ飛行艇に対し、初の
空中給油試験を実施しました。
2月には、ドイツの実験用ヘリコプター
Fw 61が、著名な女性飛行家
ハンナ・ライチュの操縦により、ベルリンのドイッチュラントハレという屋内でデモンストレーション飛行を行い、観衆を驚かせました。これはヘリコプターの機動性と将来性を示す画期的な出来事でした。
6月には、ドイツの
ハインケルHe 118が、ターボジェットエンジンを搭載した機体として、初期の
ジェット飛行試験に臨みました。これは、ジェット推進技術の可能性を探る重要な一歩でした。
12月22日には、イギリスの旅客機である
デ・ハビランド フラミンゴが初飛行を行い、その後の民間航空輸送の発展につながる新しい機体が誕生しました。
記録飛行への挑戦
1938年は、数々の飛行記録が更新された年でもあります。
4月26日、ドイツのテストパイロット、フリッツ・ヴェンデルは
Me 209に乗り込み、当時の
直線速度記録となる時速755.13キロメートルを樹立しました。
5月13日から15日にかけて、日本の航空研究家である
藤田雄蔵操縦の
航研機が、千葉県の木更津上空を周回飛行し、
周回航続距離の世界記録(11,651キロメートル)を達成しました。これは日本の航空技術の高さを世界に示す快挙でした。
7月14日、アメリカの飛行家
ハワード・ヒューズは、ロッキードL-14スーパーエレクトラを使用し、3日と19時間17分という驚異的なタイムで
世界一周飛行を成功させ、当時の最速記録を塗り替えました。
7月18日には、ダグラス・コリガンが旧式の
カーチス ロビンでニューヨークからアイルランドへの
大西洋無着陸横断飛行を行いました。これは「間違えてアイルランドに着陸した」というユーモラスな逸話と共に語り継がれています。
8月10日から11日、ルフトハンザ航空の
フォッケウルフFw 200「コンドル」が、ベルリン-ニューヨーク間を24時間36分で
無着陸飛行し、大西洋横断の定期航空路開設に向けた可能性を示しました。
9月24日から25日には、ソビエト連邦の女性飛行家、マリーナ・ラスコーヴァ、ワレンチナ・グリゾドゥーボワ、ポリーナ・オシペンコが改良型DB-2「ローヂナ」に搭乗し、モスクワ-コムソモーリスク・ナ・アムーレ間約5900キロメートルを
直線無着陸飛行し、女性パイロットの力量を示しました。
11月5日から7日、イギリス空軍のリチャード・ケレット隊長率いる2機のヴィッカース ウェルズレイ爆撃機が、エジプトからオーストラリアのダーウィンまでの11,520キロメートルを
無着陸飛行に成功し、長距離飛行能力を証明しました。
11月28日から30日には、再びルフトハンザのフォッケウルフFw 200が、ベルリンから東京までの14,228キロメートルを46時間18分で
無着陸飛行という偉業を達成しました。
軍事関連の動向と事故
日中戦争が続く中、航空機は軍事においても重要な役割を担いました。
2月22日、ソ連の志願パイロットが操縦する中国空軍のツポレフSB爆撃機28機が、台湾の松山飛行場と新竹に対し
爆撃を行いました。
4月29日には、中国の漢口上空で、日本海軍の
九六式陸上攻撃機と護衛の
九六式艦上戦闘機が、中国軍機と大規模な
空中戦を展開しました。双方の発表する戦果と損害は大きく異なり、戦闘の激しさを物語っています。
5月19日、中国空軍のマーチン爆撃機が漢口から出撃し、給油後、日本の
九州上空に飛来しました。爆弾ではなく
宣伝ビラを散布するという心理戦を行いました。
6月9日、中米の
ニカラグア空軍が「Fuerza Aerea de la Guarda Nacional」として創設されました。
9月10日、ドイツ政府は一部の例外を除き、
ドイツ上空における外国航空機の飛行を禁止する措置を取りました。これは当時の欧州情勢を反映した動きでした。
また、この年にはいくつかの航空事故も発生しました。
2月5日、極地探検隊救助に向かう途上だったソビエトの飛行船
SSSR-V6オソアヴィアヒムがカンダラクシャ付近で高地に衝突し、乗員19名中13名が犠牲となりました。
8月24日には、東京の大森上空で、日本飛行学校の訓練機(アンリオ複葉機)と
日本航空輸送の旅客機(
フォッカー スーパーユニバーサル)が
空中衝突し墜落する事故が発生しました(
大森民間機空中衝突墜落事故)。
航空関連の賞
1938年には、航空分野で顕著な功績を残したパイロットやクルーに様々な賞が贈られました。
フランス飛行クラブ大賞: アンリ・ギヨメ、ポール・ティサンディエ
ハーモン・トロフィー: ハワード・ヒューズ、
ジャクリーン・コクラン
ナショナル・トロフィー: ロスコー・ターナー、リチャード・ケレット隊長とそのクルー、モーリス・ロッシ、
ハンナ・ライチュ、
藤田雄蔵 ほか
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デラボー賞: 藤田雄蔵、高橋福次郎、関根近吉(
航研機クルー)、B. K. Bupnett、A. N. Combe、R. T. Gething、R. Kellett(ヴィッカース ウェルズレイのクルー)ほか
1938年は、技術革新による性能向上、長距離飛行の限界への挑戦、そして国際情勢の影響を受けた軍事利用など、航空が社会に深く根差していく過程を示す出来事が数多く発生した年と言えるでしょう。