1966年の航空

1966年は、航空と宇宙開発の分野で、目覚ましい進歩と同時に痛ましい出来事が交錯した、記憶に残る一年となりました。

年の始まりを告げる1月10日には、後に広く使用されることになるアメリカのヘリコプター、ベル206A ジェットレンジャーが初めて空に舞い上がりました。しかしその一週間後、1月17日にはスペイン上空でアメリカ空軍のB-52戦略爆撃機とKC-135給油機が空中給油中に衝突・墜落するという重大事故が発生し、乗員全員が犠牲になっただけでなく、搭載していた核物質による広範な汚染という深刻な事態を引き起こしました（パロマレス米軍機墜落事故）。国際関係では、1月21日に日ソ航空協定が結ばれ、両国間の航空路開設への道が開かれました。宇宙開発では、ソビエト連邦のルナ9号が1月31日に打ち上げられ、2月3日には史上初めて月面への軟着陸に成功し、月面の鮮明な画像を地球に送信しました。

しかし、2月以降、航空業界は悲劇に見舞われます。2月4日、全日空のボーイング727型機が東京湾へ墜落し、搭乗していた133名全員が犠牲となる痛ましい事故が発生しました（全日空羽田沖墜落事故）。さらに3月に入ると、同じ羽田空港周辺でわずか二日間に二件の国際線機材による重大事故が連続して発生しました。3月4日にはカナダ太平洋航空のDC-8型機が悪天候下で着陸に失敗し、防潮堤に激突、64名が死亡。翌3月5日には、英国海外航空のボーイング707型機が富士山上空で乱気流に巻き込まれて空中分解し、搭乗していた124名全員が亡くなりました。これらの連続事故は、当時の日本の航空安全に対する大きな課題を突きつけました。夏にも8月26日に日本航空機が羽田空港で墜落する事故が起きています。

宇宙開発におけるアメリカのジェミニ計画は、この年も精力的に進められました。3月にはジェミニ8号が、アジェナ標的機との史上初の軌道上でのランデブー・ドッキングに成功。6月のジェミニ9号、7月のジェミニ10号、9月のジェミニ11号、そして11月のジェミニ12号と、立て続けにミッションが実行され、宇宙遊泳技術の習得、宇宙での操作訓練、軌道変更技術など、来るべきアポロ計画で必要となる様々な技術実証と経験の蓄積が進められました。

技術開発も活発でした。8月2日には、ソ連の可変翼戦闘機Su-17の原型となる実験機が初飛行。8月31日には、イギリスのホーカー・シドレー ハリアーが最初の本格的なホバリング飛行に成功し、VTOL（垂直離着陸）機の実現に向けた重要な一歩となりました。超音速旅客機コンコルド用のロールスロイス オリンパスエンジンは、9月9日からアブロ バルカン爆撃機に搭載されて飛行試験が開始されました。フランスでは、開発中のロケット「コラ」が11月に初の発射実験に失敗しましたが、12月の2回目の実験では成功を収めました。12月23日には、フランスのダッソー社製新型戦闘機、ミラージュF1が初飛行を行っています。

記録への挑戦も続けられました。5月から6月にかけて、イギリスの女性パイロット、シーラ・スコットが単発機パイパー コマンチで女性による世界一周飛行の最速記録を更新。9月24日には、ソ連の女性パイロット、マリナ・ソロビエワが実験機Ye-76で樹立した速度記録が女性の新記録となりました。また、11月18日にはアメリカの実験機X-15がウィリアム・ナイトの操縦によりマッハ6.33という驚異的な速度記録を達成しています。

軍事面では、6月8日にアメリカの超音速戦略爆撃機XB-70 ヴァルキリーの2号機が、同伴していたF-104戦闘機との接触事故を起こし、パイロットが犠牲になる事故が発生しました。また、ベトナム戦争では、6月29日からアメリカによる北ベトナムの首都ハノイへの本格的な爆撃が開始されました。

この年、航空分野の功績を称えるハーモン・トロフィーは、ジェミニ計画に貢献した宇宙飛行士ジム・ラヴェル、バズ・オルドリン、エドワード・ホワイトに加え、世界一周記録を更新したシーラ・スコットに贈られました。デラボー賞はチャールズ・コンラッド宇宙飛行士が受賞しています。さらに、操縦性を改善したパラフォイルに関する特許がアメリカで取得されるなど、革新的なアイデアも生まれていました。1966年は、航空技術の限界に挑み、空と宇宙への探求を進める一方で、安全性の確保という大きな課題も浮き彫りになった、複雑な様相を呈した一年であったと言えるでしょう。

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