1972年イギリスグランプリ

1972年7月15日、イギリスのブランズ・ハッチ・サーキットで開催されたF1世界選手権第7戦、1972年イギリスグランプリ。このレースは、29回目の「ヨーロッパグランプリ」の称号を冠した、記憶に残る一戦となりました。

このグランプリでは、2つの新たなコンストラクターがF1の世界にデビューしました。一つは、それまでブラバム、デ・トマソ、マーチといった他社マシンを走らせていたウィリアムズチーム。彼らは、スポンサーであるポリトイの名前を冠したオリジナルマシン「ポリトイ・FX3」を投入し、アンリ・ペスカロロがドライブしました。もう一つは、若手エンジニア、ピーター・コンニューが設計した「コンニュー・PC1」。このマシンにはフランソワ・ミゴールが乗り込みました。しかし、彼らのF1デビューは、必ずしも順風満帆とはなりませんでした。

一方、BRMチームは、P180マシンの開発失敗により技術的な苦戦を強いられていました。そのため、彼らは従来型の性能が劣るP160Bを主力マシンとして、参加台数を5台から3台に削減せざるを得ませんでした。この変更に伴い、ハウデン・ガンレイと、前戦フランスGPで負傷したヘルムート・マルコは欠場。代わりにレイネ・ウィセルがメンバーから外れ、ジャッキー・オリバーがスポット参戦することとなりました。BRMはP160Bのノーズを改良したP160Cも投入し、ジャン＝ピエール・ベルトワーズがドライブしました。

フェラーリチームも、ドライバーの変更を余儀なくされました。クレイ・レガツォーニがサッカーの負傷で欠場、マリオ・アンドレッティがアメリカのレースに参加していたため、チームはスポーツカーのドライバー、アルトゥーロ・メルツァリオを起用。彼は、このレースでF1デビューを果たすことになります。前戦でレガツォーニの代役を務めたナンニ・ギャリは、テクノチームに復帰しました。

ティレルチームは、ジャッキー・スチュワートに新型マシン005を、フランソワ・セベールには002を提供しました。また、クリス・エイモンは、前戦で活躍したMS120Dを損傷し、古いMS120Cでの走行を余儀なくされました。

予選では、ジャッキー・イクスがエマーソン・フィッティパルディに僅か0.4秒差でポールポジションを獲得しました。ピーター・レブソンはジャッキー・スチュワートを上回り3番手、ティム・シェンケンはサーティースで5番手と好位置につけています。ウィリアムズとコンニューの新車はこの予選で後方に沈んでしまいました。ペスカロロは26番手、ミゴールは最下位に終わっています。

決勝レースは、波乱の展開となりました。スタートではイクスがフィッティパルディをリード。ベルトワーズが3番手につけました。その後方に、レブソン、スチュワート、シェンケン、ピーターソンが続きます。スチュワートは、3周目にレブソン、7周目にベルトワーズをかわして3位に浮上。しかし、8周目には、ペスカロロがクラッシュし、ウィリアムズにとって初のオリジナルF1マシンであるポリトイ・FX3は大きく損傷し、リタイアに終わりました。

その後、スチュワートは25周目にフィッティパルディを抜いて2位に浮上しますが、フィッティパルディは36周目にその座を取り戻しました。首位を走っていたイクスは、49周目にオイル漏れによりリタイア。これにより、フィッティパルディとスチュワートの優勝争いが激化しました。レブソンは3位で完走し、そのままレース終了。フィッティパルディが今季3勝目を挙げました。ピーターソンは4位を走行していましたが、終盤のエンジン故障によりグラハム・ヒルとセベールのマシンに衝突し、エイモンが4位に繰り上がりました。メルツァリオはF1デビュー戦で6位入賞という好成績を収めています。

フィッティパルディの優勝により、ドライバーズポイントでスチュワート、ハルムとの差を広げ、初の世界チャンピオン獲得に向けて大きく前進しました。コンストラクターズチャンピオンシップでも、ロータスはティレル、マクラーレンに対して優位に立ちました。フィッティパルディの平均速度は180.351km/h、ファステストラップはスチュワートが記録しました。このレースでは、フィッティパルディの10回目の表彰台、メルツァリオの初入賞、そしてポリトイとコンニューの初参戦（コンニューは決勝不出走）といった記録が達成されました。

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