1976年の文学

1976年の文学界

1976年（昭和51年）の日本の文学界は、新しい才能の登場が注目を集め、多くの著名な作家が惜しまれつつ世を去るなど、変化の波が押し寄せた一年でした。

文学賞の動向

この年の文学界で最も大きな話題の一つとなったのは、第75回芥川龍之介賞（1976年上半期）の発表でした。

芥川龍之介賞・直木三十五賞

第74回（1975年下半期）
芥川賞は、中上健次氏の『岬』と岡松和夫氏の『志賀島』が受賞しました。
直木賞は、佐木隆三氏の『復讐するは我にあり』に授与されました。

第75回（1976年上半期）
芥川賞は、村上龍氏のデビュー作『限りなく透明に近いブルー』が受賞。この作品は、刊行直後から若い世代の熱狂的な支持を受け、同年の年間ベストセラー総合第1位となるなど、文学の枠を超えた社会現象となりました。
直木賞は、残念ながら該当作なしという結果に終わりました。

村上龍氏は、この年、群像新人文学賞も受賞しており、その鮮烈なデビューは当時の文壇に大きなインパクトを与えました。

その他の賞

権威ある文学賞も発表されています。

第12回谷崎潤一郎賞は、藤枝静男氏の『田紳有楽』が受賞しました。
第4回泉鏡花文学賞は、高橋たか子氏の『誘惑者』に授与されました。

注目を集めた書籍

1976年には、後世に読み継がれる名作を含む、様々なジャンルの書籍が刊行されました。

小説分野では、前述の村上龍氏『限りなく透明に近いブルー』の他、片岡義男氏の『スローなブギにしてくれ』、森村誠一氏の『人間の証明』、西村京太郎氏の『消えた巨人軍』といった、その後のエンターテインメント界を牽引する作家たちの初期代表作や人気シリーズの始まりとなる作品が注目を集めました。純文学では金井美恵子氏『アカシア騎士団』や中上健次氏『蛇淫』、歴史小説・紀行文学では宮尾登美子氏『陽暉楼』や吉村昭氏『漂流』といった力作が読者を惹きつけました。

小説以外の分野では、児童文学において、キヨノサチコ氏『ノンタンぶらんこのせて』と筒井頼子氏・林明子氏『はじめてのおつかい』という、今日まで続く国民的絵本のシリーズ第1作または代表作が誕生したことが特筆されます。また、高峰秀子氏『わたしの渡世日記』や沢村貞子氏『私の浅草』といった著名人による味わい深いエッセイ、伊丹十三氏『日本世間噺大系』のようなユニークな視点の著作も話題となりました。

文学者の訃報

この年は、国内外の文学界にとって、多くの別れがあった年でもあります。

小説家の檀一雄氏が逝去しました。
世界的なミステリー作家、イギリスのアガサ・クリスティ氏が亡くなりました。
小説家の舟橋聖一氏が逝去しました。
小説家の武田泰淳氏が逝去しました。

この他にも、村上知行氏（中国文学翻訳家）、福島正実氏（編集者・翻訳家）、松本正雄氏（英米文学者・翻訳家）、ポール・ギャリコ氏（米国小説家）、アイヴァン・モリス氏（日本の研究者・翻訳家）、ダルトン・トランボ氏（米国脚本家）、レーモン・クノー氏（フランス詩人・小説家）、松本恵子氏（翻訳家）といった、文学周辺分野で活躍した多くの方々がこの年に亡くなっています。

その他の動き

文化施設としては、5月に神奈川県鎌倉市に川端康成記念館が開館しました。また、同年5月には椎名誠氏、目黒考二氏らによって書籍情報雑誌『本の雑誌』が創刊され、後の出版・書評文化に大きな影響を与えました。

総括すると、1976年は、村上龍氏という新たなスターの誕生が象徴するように、文学界に新しい風が吹いた一方で、長年にわたり活躍した作家たちの旅立ちが哀悼を呼んだ、まさに時代の転換点とも言える一年でした。バラエティ豊かな作品群もこの年の特徴として挙げられます。

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