1981年の文学

1981年（昭和56年）は、日本の文学界において、いくつかの重要な出来事と話題作の誕生が見られた年でした。

SF文学の新展開

この年、日本のSF文学の発展を目的とした新たな文学賞、「日本SF大賞」が創設されました。第1回の選考会が1月に行われ、堀晃氏の『太陽風交点』が栄えある最初の受賞作に選ばれました。しかし、この受賞作を巡っては、早川書房が徳間書店による文庫版出版に対し差し止めを求める訴訟を起こすという「太陽風交点事件」に発展し、出版界の注目を集めました。

主要な文学賞

文学界で大きな影響力を持つ芥川賞・直木賞も、年間を通じて話題を提供しました。

第84回（1980年下半期）: 芥川賞には尾辻克彦氏の『父が消えた』が、直木賞には中村正䡄氏の『元首の謀叛』が選ばれました。
第85回（1981年上半期）: 芥川賞を吉行理恵氏の『小さな貴婦人』が受賞。直木賞は、作家活動に加えタレント・政治家としても活躍していた青島幸男氏の『人間万事塞翁が丙午』が受賞し、特に注目を集めました。この作品は年間ベストセラーランキングでも総合2位を記録する大きな成功を収めました。

その他の主要な文学賞では、谷崎潤一郎賞（第17回）を後藤明生氏の『吉野大夫』と深沢七郎氏の『みちのくの人形たち』が、泉鏡花文学賞（第9回）を澁澤龍彦氏の『唐草物語』と筒井康隆氏の『虚人たち』がそれぞれ受賞しました。また、群像新人文学賞（第24回）は笙野頼子氏の「極楽」に、野間文芸新人賞（第3回）は村上龍氏の『コインロッカー・ベイビーズ』と宮内勝典氏の『金色の象』に贈られました。

話題の刊行物

1981年には、後世に読み継がれることになる多くの作品が世に出ました。

中でも、黒柳徹子氏のエッセイ『窓ぎわのトットちゃん』は、その温かい語り口とユニークな内容で幅広い読者の支持を得て、この年のベストセラーとなりました。
井上ひさし氏の長篇小説『吉里吉里人』もこの年に刊行され、翌年の日本SF大賞を受賞するなど高い評価を得ました。
ノンフィクション分野では、沢木耕太郎氏のボクシングを題材にした『一瞬の夏』が注目を集めました。
小説では、椎名誠氏の『哀愁の町に霧が降るのだ』、志水辰夫氏の『飢えて狼』、氷室冴子氏の『恋する女たち』、堀田あけみ氏の『1980アイコ十六歳』、三石由起子氏の『ダイアモンドは傷つかない』などが刊行されました。

その他、木下是雄氏のロングセラーとなる新書『理科系の作文技術』や、絵本作家・姉崎一馬氏の『はるにれ』なども出版されました。

文学碑の建立

川端康成に関連する文学碑が、この年複数箇所で建立されました。伊豆湯ヶ島には『伊豆の踊子』の冒頭文が刻まれ川端のレリーフがはめ込まれた碑が、大阪の住吉神社には『反橋』の碑が、長野県鬼無里村（現・長野市）には『牧歌』の一節と道元禅師の歌が刻まれた碑が建てられ、文豪の功績を称えました。

惜しまれつつ世を去った人々

1981年は、文学界に貢献した多くの人々が亡くなった年でもありました。特に衝撃的だったのは、テレビドラマ脚本家・小説家として人気を博していた向田邦子氏が、遠東航空機墜落事故により51歳で急逝したことでした。また、文芸評論家の保田與重郎氏、演出家・演劇翻訳者の芥川比呂志氏もこの年に亡くなりました。

その他、英文学者の福原麟太郎氏、社会主義者・著述家の荒畑寒村氏、俳人の赤尾兜子氏、水原秋桜子氏、米国の小説家ネルソン・オルグレン氏やウィリアム・サローヤン氏、劇作家・脚本家のパディ・チャイエフスキー氏、フランスの哲学者・精神科医ジャック・ラカン氏、イギリスの思想史家フランセス・イエイツ氏、紀伊國屋書店創業者の田辺茂一氏、そして推理作家の横溝正史氏など、様々な分野の著名な物故者が記録されています。

1981年は、新たな才能の登場や話題作の刊行、そして惜しまれる訃報など、文学を取り巻く様々な出来事があった一年として記憶されています。

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